さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
今年の夏も、全国で連日にわたり暑い日が続きました。健康・快適な暮らしのために、もはや不可欠なエアコン。夏の峠も超えたところで、買い替えを考えている方もいるでしょう。今回は、エアコンの上手な選び方について、一緒に考えてみることにしましょう。
猛暑日が当たり前の時代
地球沸騰時代の到来と言われた昨年に続き、今年の夏も全国で暑い日が続きました。この原稿を執筆している時点(8/22)までに、日最高気温が35℃を超える猛暑日が、東京で19日(昨年は22日)、前橋で32日(同36日)、静岡で21日(7日)、福岡で26日(17日)も発生しています。かつてはほとんどなかった猛暑日が、もはや当たり前の時代になってしまったのです。
エアコン買い替えは秋がチャンス
猛暑化が深刻な夏に健康・快適な暮らしを守るためには、エアコンの利用が欠かせません。昼はもちろん夜も気温が下がらない中、長時間にわたって運転されたエアコンが不調になっても無理はありません。猛暑や厳寒の時期にエアコンが故障しては一大事ですから、調子が悪い場合は完全に動かなくなる前に買い替えを考えた方がいいでしょう。
エアコンの売り上げが伸びるのは、なんといっても夏。各メーカーは前年の秋ごろから新モデルを投入して、夏に備えます。7・8月は引き合いがピークになるので値引きも渋くなり、設置までの待ち時間も長くなりがちです。夏が過ぎた秋は、型落ちモデルを安く購入できスピーディーに設置してもらえるボーナスタイム。最近不調だったり10年以上使ったエアコンがあれば、秋に買い替えするのが賢い選択です。
とはいえ、エアコンは年間およそ900万台が出荷され、10社以上のメーカーがしのぎを削る一大市場。多種多様な製品があふれ、何を選んでいいのか分からないという人も多いでしょう。今回は、エアコンの容量や省エネ性能、付加機能の見分け方を通して、上手なエアコンの選び方を考えてみましょう。
エアコンのラベルの見方
エアコンには大概、メーカーのスペック表と、統一省エネラベルの2つが表示されています(図1)。
特に、冷暖房の「能力」と「省エネ性能」の2つに関する情報が充実しており、冷暖房が十分に効き、その能力を少ない電気で賄える適切な機種選びができるようになっているのですが、いろいろと注意点もあります。
畳数の目安は要注意
一番重視される冷暖房の「能力」は、主に「冷房の定格能力」で判断されます。図1では2.2kWとなっており、木造平屋建ての家なら6畳、鉄筋コンクリートの集合住宅であれば9畳の部屋にあった能力であるとされています。しかし、この「畳数の目安」は1970年の空気調和・衛生工学会の指針に基づき、断熱や日射遮蔽がほとんどない住宅でも、冷房をつけたら短時間で涼しくなるようにつくられた目安。現在の家に適応すると、かなり過大な能力になってしまいます。
そもそもエアコンは、定格能力ピッタリで出力が頭打ちになるわけではありません。冷房定格2.2kWのこの機種も、最大能力は冷房で3.4kW、暖房で5.5kWとずいぶん余裕があるのです。もちろん外気温度などによって出力数は変化しますが、定格冷房能力はかなり控えめな値であり、実際はもっとパワーが出ることを知っておきましょう。
今どきの家であれば、個室は6畳向けとされる、一番小さい冷房定格2.2kWの機種でほとんど事足ります。特に連続して冷暖房する場合に能力不足になることはまずありえません。ですが家電屋さんにいって相談すると、「冷房が効かないといけませんよね」とばかりに、さらに大きめの能力の機種を勧められがち。部屋の広さを伝えるのではなく、「一番小さいのをください」とハッキリ主張した方がよさそうです。
省エネ指標はいっぱいある
資源エネルギー庁の平成30年度電力需給対策広報調査事業によると、家庭での全電力消費に占めるエアコンの割合は、冷房で6.8%、暖房で13.5%と、最も電気を使う家電製品となっています。消費電力が大きい分、省エネな機種の選択は重要であり、ラベルにも省エネの情報がたくさん盛り込まれていますが、逆に理解が難しくなっているようにも感じられます。
エアコンの省エネ性能は、日本工業規格JIS C 9612に基づき評価されます。まず、冷房2条件(外気35℃の定格・中間能力)、暖房3条件(外気7℃の定格・中間能力・外気ー7℃の定格能力)で、効率を計測します。その計5点の効率をもとに、東京の気象条件において、夏は135日、冬は160日、畳数の目安の部屋で1日18時間冷暖房した場合に発生する「熱負荷」を処理した場合に消費される「期間消費電力量」を算出します。
統一省エネラベルにある「目安電気料金」は、この電力量にkWhあたり27円の単価をかけたものです。そして、熱負荷を期間消費電力量で割った値であるAPF(通年エネルギー消費効率)が、エアコンの省エネ性能の代表値となり、値が大きいほど高効率です。
図1の機種では、APFは6.7、期間消費電力量は621kWh、目安電気料金は1万6,800円となっていますが、これだけでは高効率かどうか判断できません。他の機種との比較には「省エネ基準達成率(%)」「多段階評価点(★)」を用います。前者は、2027年度目標のトップランナー基準のAPF目標値をどれくらい達成しているかを表し、目標をクリアしていると達成率が100%以上となり、eマークが緑になるので高効率の目安になります。もう一つの★で表される多段階評価点もAPFをもとにした指標ですが、少し話がややこしいので、また後で見てみることにしましょう。
トップランナー基準が新スタート
エアコンは最も電気を消費する家電として、以前から省エネ対策が重視されていました。その対策の目玉が「トップランナー基準」で、経産省はメーカーに目標年度までに効率の目標をクリアする義務を課しています。
図2上に、APFの推移を示します。
以前にあった2010年度目標の旧トップランナー基準によりAPFが引き上げられた以降、ここ10年はほとんど向上していないことが分かります。普及機の中で買い替えても効率はほとんど上がらないので、省エネ性能を上げるには効率の高い(価格も高い)上位機へのシフトアップが必要だったのです。
普及機も含めたエアコンのさらなる高効率化のため、2022年になって経産省は2027年度目標の新トップランナー基準を設定しました。図2上にあるように、目標の基準値が大幅に引き上げられており、効率向上が期待できます。図1の表示も、この新基準に基づいて再度設定されたもので、新しい目標を達成できていない達成率100%未満の「オレンジマーク」の機種がまだまだ多く見られます。省エネのためには、達成率100%以上の「緑マーク」の機種がおすすめです。
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