斉藤工匠店 / 福島県二本松市・Mさん宅 夫婦30代、子ども1人

匠の技と先進の技術を駆使して
築63年の納屋を住空間に改修

Mさん宅は、ご実家の敷地に立つ築60余年の納屋をリノベーションした住まいです。奥州西街道の宿場町の一つ「白髭宿」の通り沿いにあり、ダークネイビーに塗り替えられた外壁が、古きよき昔の面影が残る街並みに溶け込んでいます。

梁を差し出し、出桁で軒の垂木を支える伝統的な構法「出桁造り」を生かしたダイナミックな外観。新たに張り直した外壁でシンプルモダンな印象に
梁を差し出し、出桁で軒の垂木を支える伝統的な構法「出桁造り」を生かしたダイナミックな外観。新たに張り直した外壁でシンプルモダンな印象に

この納屋は、かつては蚕小屋として利用されていました。その後物置となっていた建物の2階部分を、Uターンして実家に戻ることにした自分たちの住居として利用できないかと考えたMさん。いくつかの建築会社に相談してみたものの、「技術的に難しい」という理由で断られてしまったといいます。

救世主となったのは、Mさんのお父さんの紹介で知り合った斉藤工匠店。創業以来140年以上受け継がれてきた匠の技に、先進の技術と洗練された設計デザイン力を併せ持つ地域工務店です。

磨き直して塗装した「出桁造り」の軒。江戸から大正にかけての一般的な商家建築によく見られたつくりだという
磨き直して塗装した「出桁造り」の軒。江戸から大正にかけての一般的な商家建築によく見られたつくりだという
2階に配した玄関へのアプローチとなる1階スペース。正面の扉はもともと使われたものを磨き、塗り直して再利用
2階に配した玄関へのアプローチとなる1階スペース。正面の扉はもともと使われたものを磨き、塗り直して再利用

木造建築の伝統構法である「出桁造り」特有の深い軒を持つ建物を見て、取り壊すには惜しいと感じた5代目の斉藤守平さんは、依頼を快諾。「守平さんの『ぜひやりましょう!』という力強い言葉が本当に嬉しかったです」と、Mさんは当時を振り返ります。

ご夫妻が希望したのは、生活しやすい間取りと自然素材を使った落ち着いたデザイン、そして冬暖かい空間です。古い納屋のリノベーション特有の数々の制約がある中、約1年かけて計画が練られていきました。

リノベーション前の納屋の2階の様子
リノベーション前の納屋の2階の様子

リビングを彩る重ね梁は往時のまま。表面にくっきりと残った60数年前ののこぎりの跡が、この建物の歴史を静かに伝える
リビングを彩る重ね梁は往時のまま。表面にくっきりと残った60数年前ののこぎりの跡が、この建物の歴史を静かに伝える

美しく暮らしやすい住空間に変身
現しの梁が建物の歴史を物語る

躯体については、すでに補強済みの基礎と10年ほど前に改修した屋根は残しつつ、断熱・耐震改修。外壁を張り替え、出桁部分を磨き直して新たに塗装しました。一方、居住空間となる2階はもともと柱が数本あるだけのがらんどうで間仕切り壁の解体の手間を要さず、自由にプランニングできるという利点がありました。

車庫となっている1階の奥にある扉から入り、階段を上った先に玄関。室内に入ると、築古の納屋だったとは思えない、無垢の床と白い塗り壁に囲まれた美しい空間が広がります。ご夫妻が希望した、暮らしやすさを高める間取りや動線の工夫もしっかりと盛り込まれました。

キッチンは、フロアを見渡せる対面式。ダイニングに設けた造作の出窓はヌック、収納、ベンチを兼ねる多機能空間。
窓を介して実家とのコミュニケーションを育む場ともなる
キッチンは、フロアを見渡せる対面式。ダイニングに設けた造作の出窓はヌック、収納、ベンチを兼ねる多機能空間。窓を介して実家とのコミュニケーションを育む場ともなる
キッチン背面にはつや感のあるタイルを施工。素材、色、形、張り方すべてにこだわりが感じられる
キッチン背面にはつや感のあるタイルを施工。素材、色、形、張り方すべてにこだわりが感じられる
キッチンの裏手にはパントリー。奥に設けた造作の家事スペースは、ちょっとした書き物やPC作業をするのに便利
キッチンの裏手にはパントリー。奥に設けた造作の家事スペースは、ちょっとした書き物やPC作業をするのに便利
玄関とキッチンを結ぶ裏動線は、シューズクローク、パントリー、家事室を兼ねる多機能空間となっている
玄関とキッチンを結ぶ裏動線は、シューズクローク、パントリー、家事室を兼ねる多機能空間となっている

「出来上がるまでは不安もありましたが、完成した住まいを見たらすべて理想どおり。斉藤さんにお願いして本当に良かったです」と奥さんが言えば、「すぐ隣の実家とも、普段は干渉しすぎず、何かあったら助け合える程よい距離感で暮らせています」と、Mさんも笑顔を見せます。心配だった冬の寒さについても、「エアコン1台で十分暖かい」と快適さを実感しています。

洗面脱衣室からダイニングを望む。ダイニングの出窓へと視線が抜けるアール壁が空間に優しい雰囲気をプラス
洗面脱衣室からダイニングを望む。ダイニングの出窓へと視線が抜けるアール壁が空間に優しい雰囲気をプラス
リビングと寝室を隔てる壁に設けられた三連の室内窓は、ご夫妻の要望で設置。風の通り道となるほか、意匠的なアクセントにもなっている
リビングと寝室を隔てる壁に設けられた三連の室内窓は、ご夫妻の要望で設置。風の通り道となるほか、意匠的なアクセントにもなっている

窓の向こうに緑が見え、安らぎ感のある寝室。奥さんの希望で家全体に正方形の窓が多用されている
窓の向こうに緑が見え、安らぎ感のある寝室。奥さんの希望で家全体に正方形の窓が多用されている
観葉植物が好きな奥さんのリクエストで、子ども室の壁は一面を深みのある緑に塗り上げた
観葉植物が好きな奥さんのリクエストで、子ども室の壁は一面を深みのある緑に塗り上げた

代々使われてきた建物を大切に受け継ぎ、次世代へ。その象徴として、リビングの重ね梁を現しにしました。きれいに磨き上げられてよみがえった梁は、建物の歴史を未来へつなぐとともに、Mさんご一家の暮らしを温かく見守り続けることでしょう。

 

\ Renovation Point.1/
実家と程よい距離を保った暮らしを実現

同じ敷地内にある実家には両親と祖父母が暮らしている。今回のリノベーションにより、多世代家族の現代的な暮らし方ともいえる「核家族の形を保ちながらの多世代同居」が実現。お互いのプライバシーを尊重しながら、気配を感じて暮らせる距離感が心地よい。

\ Renovation Point.2/
過去と現在をつなぐ中間領域的なアプローチ

2階の玄関へと通じる階段まわりは、納屋(過去)から新居(現在)への中間領域的なスペースとして計画。石垣のある街並みがシンボルだった「白髭宿」の名残として石垣部分を残し、壁は漆喰塗りとすることで、土地の歴史を感じさせる趣深い空間へと仕上げた。


Data
福島県二本松市・Mさん宅
家族構成/夫婦30代、子ども1人

■建築データ
□リノベーション面積 134.24㎡(40.61坪)
□主な外部仕上げ
屋根/既存
外壁/窯業系サイディング
建具/玄関ドア:断熱ドア、窓:Low-E複層ガラス樹脂サッシ
□主な内部仕上げ
床/ナラ無垢フローリング
壁/珪藻土・漆喰複合塗材 一部タイル張
天井/珪藻土・漆喰複合塗材
□断熱性能 
UA値 0.46W/㎡K

■工事期間
約6ヵ月