使い方の工夫でそれぞれの快適を手に入れる
平山
状態をエリアごと用途ごとに変えるという点は、照明とも似ていると思うんです。室内の照明がすべて蛍光灯で、均一の空間だとなんだかつまらない。この家のようにダイニングテーブルの上にルイスポールセンがあって、その先がすこし暗くてというのが放射と似ているというか。
リプラン
明るいところと暗いところがあるから、明るいところの用途も引き立ちますね。
平山
昔の典型的なオフィスって、朝から晩まで一番明るい蛍光灯の電気をつけていましたよね。東日本大震災以降は省エネの意識も高まってきて、オフィスも照明を半分にしようとか、昼間はつけないとか、習慣にしようとしてるわけですけれど。
義見
それがなかなか習慣づかないですよね。均一が好きなんですかね。
平山
弊社は昨年仙台の事務所を、お客様に体感してもらう場所としてリニューアルしたんです。30年前の価値観でつくられた営業所は、若い人たちが寄り付かないということもあって、東北芸術大学の学生とプロジェクトを組んで、学生たちと一緒に取り組みました。もともとは蛍光灯が40ヵ所くらい付いていたんですが、机のあるところだけに絞って調光できるものに変えました。
義見
北欧に行くと、みんなご飯を食べてるときはダイニング以外の電気をつけないので、まわりはほの暗い。その環境が心地よいと思っているので、弊社は北欧のデザインをやっている会社として、照明計画で均一に明るい空間は提案していません。それでもみなさん暮らしてみると、「こっちのほうが心地いい」って言ってくれます。
義見
この家のようなワンルーム空間だと、子どもがいるとしたら子どものほうが早く寝るから天井に均一な光があると明るくて眠れないんですけど、ペンダントライトだとそこだけつけていれば部屋の端は暗いので、そこで眠れる。そういった緩やかな不均一さが暮らしやすさにつながっているような気がします。
平山
この家は緩やかなアップダウンや変化はあるけど、仕切りや廊下がほとんどないですよね。それと比べて多くの家は扉が多すぎる気がします。扉で仕切られた玄関と廊下がとても寒い。玄関が寒いとまわりの部屋からどんどん熱が逃げてしまうので、中間領域として一定の環境にする必要があるんですが、それをしていない場合が多い。ヒータなどの放射でうまくコントロールすると、緩やかな変化をつくることができます。
義見
弊社は長野と川崎に拠点があるので、どちらでもオープンハウスをすることがありますが、長野だと室温22℃で65%の湿度くらいでちょうどいいと感じる時期に、川崎で同じ設定にすると少し寒く感じるとか、場所が違うと同じ温度でも暑い家と寒い家があったりします。それもやはり放射の関係ということですよね。
平山
そうだと思います。だから周囲の環境も含めて考えることが重要です。表面温度が違うところに接している空気は、その温度の違いによって動き出すんです。冷たいところに接している空気は下に動くし、暖かいところに接している空気は上に上がっていく。そういった空気の流れをきちんと理解していれば、空気のデザインができるし、効率の良い空気環境をつくることもできます。
見えるデザインと見えないデザインの両立
リプラン
Juuriさんは設計される住宅の冷暖房として、PS HR-Cを標準的に導入しているとのことですが、その理由を教えてください。
義見
高断熱の住宅をつくってエアコンやストーブのような設備ほどはいらないけれど、季節や個人差によって1〜2℃の変化が必要になる場合に、せっかく風の起こらない空間をつくっているのだから、冷暖房も風が出ないものにしようというのが一番の理由です。空気をデザインすることを会社の強みにしているので、冷暖房も空気をデザインできるものにしたいということですね。
設備自体のデザインが良いということも大きな理由のひとつです。オープンハウスに来たお客さんにお見せすると、お客さんのほうから「これを使いたい」と言ってくれます。私の個人的な実感としては、エアコンは中が見えない不安がありますが、PS HR-Cだと構造がシンプルなので自分で目視できる。ホコリがついていたら拭いたりというメンテナンス性においても安心なのがいいところです。
リプラン
お客さんの理解は得られますか?
義見
最初は半信半疑な人もいます。真夏に水道水と同じ温度の水を通しているだけで大丈夫なのかっていう不安はあるかもしれません。でも断熱の話をして、冬に1週間家を空けていても18℃以下にはならないほどの高い断熱性能なので、それを快適な22℃くらいまで引き上げるのがこれですっていうお話をすると納得していただけます。
平山
長野と関東で使用感や課題に違いはありますか?
義見
やっぱり外の湿度がまったく違いますから、除湿の問題は大きいです。関東の人は湿度が高いだけにより湿度を嫌う傾向があるので、キンキンの水を回してしまったり。ただ湿度を下げればいいということではないので、関東に適した設定というか使い方を考えたいところです。
平山
もともと湿度が高いエリアとそうではない場所に同じ湿度の環境が必要かというとそうではないと思います。機械換気に頼りすぎずに、外に出たときにヒートショックならぬ湿度ショックのない自然なギャップをつくるほうが、健康的であるような気もしますね。
義見
除湿能力でいったらエアコンのほうが高いので、環境によっては組み合わせを提案するのがいいかもしれません。お客さんの求めるバランスや暮らし方によって最適な組み合わせ方を提案できるのが理想です。
平山
これからの快適性は単なる数字ではなくて、健康的かどうかとか、人間が自然に感じる時間経過による変化をいかに敏感にコントロールできるかが大切になると思います。これまでは断熱があまりにも悪かったから、変化しない均一な空間を一生懸命つくってきたけれど、意図して変化をつくる。空気の変化は見えないから難しいんだけれど、見えるようにしていかなきゃいけないんだと思います。
ピーエス株式会社
「温度と湿度の専門企業」として、産業用加湿器、加湿システム、除湿機、除湿型放射冷暖房システム、冷暖房用ラジエータなどを扱う専門メーカー。1960年の創業以来、一貫してこの分野を独自の「自然観」で探求し、地域特有の気候、人間が本来持っている感性を捉えた最適な提案を行う。Juuri Inc.
長野県軽井沢町と神奈川県川崎市に拠点を持つ設計事務所。幸福度が高いといわれる北欧の国々の住宅において誰もが当たり前のように享受している「心地よい空気」、目には見えない快適な心地よさを日本に広げていくために住宅や別荘、社会福祉施設、店舗などの建築設計や空間デザイン、温熱環境設計コンサルティングを行う。