Aさんの住まいは、50年以上前に店舗兼住宅として建てられた鉄筋コンクリート造の3階建てビル。3階で暮らす家族との同居をきっかけにビル全体をリノベーションし、店舗だった2階をAさんの住居に改修することを決意します。当初リフォーム会社に相談したところ「古いビルは難しい」と断られ、会社選びは難航。「建築士のいる工務店」を探し、二つ返事で引き受けてくれたのが建築家による設計・デザインをカタチにする施工力と自社設計によるアンティークスタイルの家づくりに定評のあるrustic+factory(ラスティック プラス ファクトリー)でした。
リノベーションにあたりAさんが希望したのは、生活リズムの異なる家族が互いに気を遣わずに暮らせるように世帯を分け、2階にも水まわりを設けることでした。「平日は帰りが遅くなることも多いので、ゆっくり過ごせる週末に1週間の疲れを癒やすとともに、自分らしく過ごせる空間にしたいと考えました」。
「工場の夜景」をイメージした住まいは、躯体現しの天井やキッチンを囲うエキスパンドメタルの猫侵入防止柵など、随所に無機質な素材が使われています。外壁材であるガルバリウム鋼板をアクセントウォールに採用したのも、Aさんの希望。常識だけでノーと言わず、施主の希望を叶えるために最大限の努力を尽くす家づくりこそ、「rustic+factory」の真骨頂です。
間取りの工夫も注目ポイントです。ビルは変形五角形で、内部をらせん階段が貫く独特な構造でした。そこで同社はダイニングを家の中心に配置し、そこからキッチン、リビング、寝室、浴室、トイレにアクセスするワンフロアの間取りを提案。水まわりを集約させることで家事動線が短くなり、暮らしやすさを実現しました。そしてビル全体の断熱改修により、寒い冬でも快適に過ごせる住宅性能を確保しました。
「設計の曽根さんは、伝えたイメージをいつも具体的な形にして提案してくれたので、検討も決定もしやすかったです。好きなものだけを集めた理想の空間になったことで、“丁寧な暮らし”ができるようになりました」と、笑顔のAさん。無機質な素材にあふれていながら無垢材の床や古い家具が落ち着きを醸し出す、唯一無二の住まいが完成しました。
築50年超ということもあり建物に断熱材が入っていなかったため、冬の寒さが一番の課題だと感じました。そこでコンクリートにはウレタン断熱材を吹き付け、2階の床下、壁、窓側の天井にも断熱材を充填。窓は全面窓をやめて断熱性、防火性の高い窓に交換しました。鉄骨柱を追加して構造躯体の強度も高めています。さまざまな課題があった現場でしたが、貴重な経験を積むことができました。デザインや素材使いについては、お施主様と一緒に「あれはどう?」を繰り返し、楽しみながら進めさせていただきました。(設計者より)