北国のイメージに欠かせない
薪ストーブのある空間
世界自然遺産・知床の西に位置する斜里町。2023年10月にオープンしたホテル「SEKKA SHIRETOKO」は、すぐ横にウナベツスキー場があり、目の前にオホーツク海が広がる絶好のロケーションに立っています。
このホテルは、「ウナベツ温泉」と町民に親しまれながらも、2019年に休業した公共の宿「ウナベツ自然休養村管理センター」をリノベーションした建物。「斜里町が公募型のプロポーザルでこの建物の売却先を探していることを知り、興味を持ちました」と話すのは、同ホテルのオーナーのFさんです。
旭川市内の自宅で民泊を営んでいたFさんは、「実際に現地を訪れたときに見た夕日の美しさに圧倒されました」と、施設を取り巻く環境に心惹かれ、購入を決意しました。
築40年近く経つ施設は、配管や内装の傷みが進んでいて、大規模な改修工事が必須。民泊時代のお客様に紹介してもらったという東京の設計事務所「ハウストラッド」にリノベーションの設計を依頼しました。
民泊時代から利用者の多くが道外はもとより、海外からのゲストが多かったというFさん。新たにオープンするホテルで大切にしたかったのは、「北海道の暮らしの体験」です。なかでも、薪ストーブは北国の暮らしのイメージに欠かせないと考えていました。コロナ禍の影響で、物件購入後はしばし停滞状態でしたが、足繁く通っていたのがリプランを読んで知ったという旭川の薪ストーブ専門店「コロポックル」です。
Fさんは、「コーヒーを飲みながらショールームを見るのがとても楽しくて。担当の橋口さんはいつも丁寧に機種の説明をしてくださいました。店内に並ぶ薪ストーブ関連のアクセサリや、調理用のアイテムなどもセンスが良くて、見ているだけでワクワクしました。薪ストーブの導入がまだ本格的に決まっていない頃から通い続けていました」と振り返ります。
ゲストがみんなで炎を楽しめるように
選んだのは「アイアンドッグ Nº04」
薪ストーブを施設内のどこに設置するかは、橋口さんの見立てに一任。斜里町の施設を訪れた橋口さんは、「ゲストがみんなで炎を楽しむことを考えると、1階のレストランが最も適していると思いました」と、即決だったと言います。機種は検討の末に、シリーズの中でも最も大きなサイズである「アイアンドッグ Nº04」に決定しました。
当初は、HWAM(ワム)のインサート型の暖炉も候補に上がっていましたが、壁一面の施工が必要になるので予算的に難しかったそう。橋口さんは「この施設はRC造なので、アイアンドックだと炉台も不要ですし、特別な処理をしなくてもそのまま設置ができます。広さがある空間なので、通常の家庭用サイズは物足りないため、この最大サイズの機種となりました」と、これを選んだメリットを説明します。
床をむき出しのコンクリートで荒く仕上げているため、「鋳物の無骨さとも雰囲気がピッタリ。とても気に入りました」と、予算も考慮した橋口さんのセレクトにFさんも大満足です。
「アイアンドッグ Nº04」は、ダイナミックに炎を映し出す大きなフロントガラスが魅力。仕切りのないレストランの大空間に鎮座するその姿は、ゲストを暖かな炎で迎え入れる寛容さがあります。
サイドから薪を入れることができるのも使い勝手が良く、Fさんのお気に入りポイント。様子を見て薪をくべる程度で、複雑な操作もないので使いやすいといいます。「とはいえまだ初心者なので、些細なことで橋口さんに電話してアドバイスを受けることがあるのですが…」と、Fさんは楽しそうに笑います。
「Nº04はボリュームがあるので、火が点くのに若干ですが時間がかかると言われています。しかし、一般住宅の4階建てに相当する高さがあるこの施設は、設置した煙突が非常に長く、強い海風も相まってドラフトが強く発生するため、薪がしっかり燃えてくれます」と橋口さん。「アイアンドッグ Nº04」は予算や意匠、環境などすべてにおいて最適な選択でした。
レストランは当初、ランダムにテーブルを置く予定でしたが、「せっかくなら、ゲストがここに足を踏み入れたときに、視線の先に炎が見えたら良さそう」と考え、長テーブルに変更して、視線を薪ストーブへと真っすぐに導く通路を設けました。
薪ストーブの周りには自然と人が集まり、ゲストは各々の時間を楽しんでいます。コワーキングスペースもある「SEKKA SHIRETOKO」では、夜遅くまで仕事をするゲストも少なくなく、炎を眺めながら休憩をしたり、自ら薪をくべて楽しむなど、薪ストーブは大切なアクティビティでもあり、おもてなしに欠かせない存在となっています。
使い込まれた雪かき用のスコップやママさんダンプ。薪棚にずらりと並ぶ薪。窓の向こうに広がる雪景色と、遠くに迫る流氷群。そして、長い旅路を経てたどり着くゲストを迎え入れる暖かな炎。
「コンシェルジュがいるホテルではなく、親戚のおばちゃんの家に遊びに来る感覚で楽しんでほしい」とFさんが願う「SEKKA SHIRETOKO」には、少しの手間を楽しみながら過ごす「北海道の暮らし」がありました。