三笠市・岩見沢市に拠点を持ち、北海道の木と伝統的な大工の手仕事を生かして地産地消の家づくりを行っている武部建設。住まいのつくり手としての哲学や「工務店」という枠にとらわれない取り組みなど、地域を担う存在としての武部建設の「今」にリプランが迫ります。武部豊樹代表にそのこだわりの原点から、目指す未来までじっくりとお話をうかがいました。


源流に豊かな自社林と受け継がれる大工の技

「森から木を伐りだし、木工場で製材し、自社設計で家を建てる。川上から川下へ水が流れるような家づくりの源流には、私たちが代々受け継ぎ、育んできた森があります」。そう語る武部豊樹代表は、1946年に造材・製材業から始まった武部建設の3代目。三笠市にある約8ha強の自社林には、建材としてすぐに使える樹齢約80年の木々が植えられています。 

むかわ町穂別地区で明治時代から続く農家で、三世代のご家族が暮らす住まい。「地元材での新築」を希望するご家族のため、施主支給のカラマツ外壁、ナラの床、腰壁を採用し、大工の手仕事と木肌の温もりに満ちた空間に

現場が閑散期を迎える冬には、通年雇用している大工たちが森に入り、木々の手入れを通じて木材の目利きや扱い方を学んでいます。「木を見る目とともに、どんな現場へ行っても臨機応変に適応できるよう、木造建築の基本である墨付けと手刻みの技術伝承にも力を入れています。これが、ゼネコンにはない強みだと思っています」。さらに、30年ほど前から道内の工務店や研究機関と連携し、北海道の気候に合う省エネ技術、断熱気密工法の開発・普及にも取り組んできました。  

薪ストーブを主暖房とした高断熱・高気密の住まい。薪ストーブ周りの壁は江別レンガ、敷石には札幌軟石、腰壁にはタモの羽目板と、多彩な素材使いが快適で洗練された空間をつくる

「近年は、インターネットを介して道外からの問い合わせや依頼が増えています。Uターンやリタイア、2拠点など移住の形態はさまざまですが、素材や技術など本質的な所に投資をすることで北海道らしい暮らしを実現したいという考えを共通して持っているように感じます」と、武部代表は話します。  

コツコツと集めたデンマークのビンテージ家具がしっくりなじむセカンドライフの家を建てたい」という要望を、武部建設のモデルハウスをベースとした2階リビングのプランで実現。大工の手仕事と北欧家具が調和し、家族の暮らしを彩る
千歳川沿いに立つコンパクトな平屋住宅。窓越しに川を望む開放的なキッチンや回遊動線など、日々の暮らしの快適性を重視しつつ、間仕切りのない空間や薪ストーブ設置に備えた煙突など、将来の可変性も十分に考慮されている

さらに、2017年から参加している南幌町の「みどり野きた住まいるヴィレッジ」プロジェクトでは、会社の枠を超えて、地域の建築家と協働。「てまひまくらし」をコンセプトに、これまで5棟を建設し、建物単体ではできなかった街並みのプロデュースや地域コミュニティーの形成も担いました。今後は南幌町で新たに、脱炭素社会の実現を見据えて太陽光発電や蓄電池などを採用した「てまひまくらしplus」を展開していく予定です。

南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジに立つ、素地仕上げのカラマツ外壁が目を引く「てまひまくらし」の家。屋外と緩やかにつながり、住宅の面積以上の広がりを感じられるゆとりが特徴 ●設計:アトリエmomo
子育て世代に嬉しい回遊動線、リモートワークや子どもの勉強の場としても活躍するスタディスペースなど、今の暮らしにフィットする工夫も凝らされている ●設計:アトリエmomo

水平関係で結ばれたワンチームで地域貢献

栗山町・サメオト|新しいのに懐かしい「借景」のレストラン。緩やかにうねる雑木林と丘陵地の畑、そして夕張の山並みを遥かに望むロケーションを、建築家、構造設計家との協働で存分に生かしている。棟梁以下中堅大工、見習い大工がチームとなって施工する体制でチームワークを発揮した ●設計協力:HOUSE&HOUSE一級建築士事務所 ●構造設計:山脇克彦建築構造設計

地域の建築家と協働した南幌町のプロジェクトでは、建築家は施工のノウハウを、武部建設は設計力を学び合いました。「若い建築家は私たちと組んで仕事をすることで実績ができ、後々の仕事に生きる大きな力を得る。私たちも一緒にマウスを動かすことで、補助金や法的な規制を加味した積算を同時に進められます。結果として、作業の無駄が省かれ、工期の短縮にもつながりました。ただし、それには横並びで考えられる信頼関係を築くことが大前提だと考えています」と、武部代表は話します。

長沼町・馬追蒸留所|石狩平野を一望できる馬追丘陵に佇むワイナリー。1階のRC造の醸造スペースはこれまで培ってきた高断熱・高気密の工法を応用し、醸造に適した温熱環境の形成を目指している。2階は木造で、カラマツ、タモ、ナラ材など道産材をふんだんに使い、北海道らしい空間となっている ●設計協力:FURUSAN ATELIER ●構造設計:山脇克彦建築構造設計 ●写真:佐藤文昭

「設計と施工を水平関係で結ぶ」試みの成果として、自社の大工が伐採した木を使い、自社と建築家の協働による設計、施工を行ったワイナリーが長沼町に誕生しました。さらに、栗山町には同様の手法を用いながら、オーナーの自宅を併設した地場農産物を使った創作料理のレストランも完成させました。現在は、建築予定地でクライアントと大工が木を選び、伐採し、その材を無駄なく使いきることを目指した持続可能な宿泊施設の建設にも取り組んでいます。いずれの建築物もサイズや用途を問わず「人が使う空間」というコンセプトを基本に、武部建設らしい木造住宅建築のエッセンスを加えながら計画されています。  

札幌市・札幌徳洲会病院つぼみ保育園|病院従業員のための付属保育園。定例会議で綿密な打ち合わせを進め、勤務体制を考慮して設計・施工のメリットを実現した

「中大規模の非住宅木造建築でも、これまでの経験から設計・施工を一括受注するデザイン・ビルドならコストパフォーマンスが良く質も高い、洗練された建物を実現できると思います」と武部代表。近年、国の施策でも中大規模の非住宅木造建築へのニーズが高まっているといいます。しかし、それに対応できる工務店はまだ少ないのが実情です。「私たちはその要望に応え続けるために、次のステップとして、山で一緒に木を選ぶところから始めるのが当たり前と考えてくれるような若い設計者を社内外で育てたいと考えています」。

岩見沢市・栗沢キリスト教会|「栗沢の風景に溶け込む『木の教会』を実現したい」という要望を叶えるため、象徴的柱として、自社林から切り出した樹齢80年のカラマツの丸太を採用。十字架を頂く赤い大屋根と北イタリアのヴィラから着想を得た列柱のファサードが印象的

価値を高める再生・活用で生きた地域文化を継承

2017年、鷹栖町に立っていた築100年超の古民家を移住者のために東川町へ移築再生。その5年後、2代目の家主に住み継がれるにあたり、古民家の雰囲気はそのままに北側にあった浴室と洗面室を眺めの良い南側へ移動するなど、新しい住まい手の暮らしに合わせたリノベーションで再・再生した。高断熱・高気密仕様により、古民家再生においても暖房のメインは薪ストーブとなっている

1990年代、武部建設は築90年を超える古民家の解体、再生を手がけたことがきっかけになり、古民家再生事業にも取り組み始めました。新築住宅の部材にも、解体保存した古材を活用。力強く味わいのある時代物の無垢材は、武部建設の家づくりのシンボルにもなりました。

長沼町にあった築100年超の古民家を解体、仮組み保管していたものを移築再生した住まい。長い年月を経た質の高い木材を適切に解体し、趣を生かしながら再生させることができるのは、経験豊かな大工の技術があってこそ 

近年、古民家再生事業の大きな舞台となったのが、アイヌ文化時代から内地との交易の歴史もある厚真町です。武部建設はこれまでに培ってきた経験と大工技術を生かし、開拓時の歴史を今に伝える3棟の古民家の再生を手がけてきました。さらに2021年には、「デザイン・ビルド」から一歩進んだ、地方自治体の事業としては異例の設計、施工、運営の事業者がコンソーシアムを組んでプロポーザルに応募する「デザイン・ビルド・オペレート」という手法を採用。それぞれの立場からの意見を再生プランに取り入れながら活用することを前提とした、3棟目となる再生事業を受注しました。「再生した古民家は宿泊・飲食施設として民間に貸すことで、建物自らが維持費を生み出します。それぞれの知恵を持ち寄れるコンソーシアムを組むことで、歴史的建造物の持続可能な『残し方』も見出すことができました」。 

厚真町・森厚真ホテルチュプキ|120年前に平屋造りで建てられた古民家の木組みの力強く洗練された美しさを生かし、ダイニングを併設したホテルに再生。設計、建設、維持管理・運営を一括で民間業者に委託するデザイン・ビルド・オペレート方式の公募型プロポーザルによる事業として実施。武部建設はコンソーシアムの代表者として設計・施工に携わった ●共同設計:アトリエアク ●運営:クーバル

2023年夏、町有地へ移築された旧幅田邸は、ダイニングを併設した古民家ホテル「森厚真ホテルチュプキ」へと生まれ変わりました。120年前の新築当時の木組みの逞しさ、洗練された美しさに触れられる建物では、厚真町の歴史文化や古民家の魅力を発信する古民家フォーラムも計画中です。「まちの語り部のような古民家を生きた形で残すことで今後、厚真町への移住者、交流人口を増やすことも期待できます。これからも、市町村のプロポーザルへ積極的に参加し、その地域の価値を高める建物の建設に関わっていきたいと思っています」と、武部代表は意欲的に語ってくれました。

作業のほとんどを大工の手仕事に頼る古民家再生事業を通じて、人の力の大きさ、大切さを改めて見直した武部建設
木造建築がメインの地域工務店として長く住み継がれる住まいをつくるためにも、若い大工の育成に力を入れている
社有林の手入れも大切な大工の学びの場。お客様と一緒に木を選び積極的に設計に取り入れることにより、林業への理解力を深め、木材を大切に扱う気持ちが養われる

実例紹介

▼地材地消にこだわった 温もり満ちる三世代の家

地材地消にこだわった 温もり満ちる三世代の家

▼代々続く農家ならではの間取りとこだわり

代々続く農家ならではの間取りとこだわり

▼大工の手仕事と北欧家具が調和するセカンドライフの住まい

大工の手仕事と北欧家具が調和するセカンドライフの住まい

▼家族と一緒に育つ 回遊動線の平屋住宅

家族と一緒に育つ 回遊動線の平屋住宅

▼緑と木の香が心地よい “てまひまくらし”の家

緑と木の香が心地よい “てまひまくらし”の家

▼新しいのに懐かしい「借景」のレストラン

新しいのに懐かしい「借景」のレストラン

▼空知の風土と森の生命力 
祈りの心が宿る木の教会

空知の風土と森の生命力 
祈りの心が宿る木の教会

▼北海道開拓期の歴史を最新省エネ技術で再生する古民家ホテル

北海道開拓期の歴史を最新省エネ技術で再生する古民家ホテル