自然豊かな場所で、薪ストーブの炎を眺めながら穏やかな時間を刻みたい。慌ただしい都会の日々から抜け出して、50代でアーリーリタイアを選択したSさんご夫妻。新たな暮らしの拠点として選んだのは東川町でした。


移住のSTORY

転勤族で旭川出身のSさんと、東京在住だった奥さん。ご夫妻は50代でのアーリーリタイアを選択し、2023年6月に東川町へ移住しました。  

1階のLDKはどこから見ても外の景色を望むことができる。屋根なりの勾配を生かした木板張りの天井が室内の表情をより豊かにしている

生まれも育ちも東京の奥さんは、田舎暮らしに憧れはあったものの、イメージしていたのは北海道ではなく東京郊外。転機となったのがコロナ禍でした。「リモートワークの導入で、東京にこだわる理由がなくなり、まずは札幌勤務中の夫と暮らしてみることにしました」と奥さん。札幌で暮らしながら、時間を見つけて夫婦で足を運んだのが、Sさんの故郷に近い東川町でした。

景色を切り取る窓は木製サッシを採用し、絵画のような美しさを演出 

美しい山々の稜線、清々しい空気、友人が営む珈琲店。旅行を兼ねて訪れるうち、いつしか奥さんの心境も変化していきました。「不安材料だった医療環境や東京との往来も、旭川や空港が近いのでクリア。移住者の皆さんからのアドバイスも後押しになりました」と、東川町への移住が本格的に始動。「一番の不安要素だった冬の暮らしについて、多くのアドバイスをしてくれたのが芦野組さんでした」。

土間には床暖房を設置し、素足で過ごせるようにしっかりと暖められている。窓からの日射取得と薪火の熱が土間に蓄積するので、省エネ効果も抜群

北海道で暮らすのなら、北海道の会社に家を建ててもらいたい。Sさんご夫妻が新築を託した芦野組は、断熱・気密のこと、自然素材のこと、Sさんが希望していた薪ストーブを主暖房にした暮らしのことを丁寧に説明。「家づくりを通して、北国で暮らすことへの安心感と心構えができました」と、奥さんは振り返ります。

構造用の柱は、LDKをゆるやかにゾーニングしてくれる

雄大な山容をパノラマで室内に呼び込むLDK。現しの梁や柱、床材のカラマツや珪藻土の塗り壁など、自然素材に包まれた室内は、豊かな景色と調和する心地のよい空間です。土間には、モルソーの薪ストーブが鎮座。Sさんが炎の加減を確かめながら薪をくべて、パチパチというはぜる音とともに、穏やかな時間が流れています。

1階の寝室。周囲の視線を気にすることなく、明るさを採り込むハイサイドライトからの光が心地よい
歳を重ねても快適に暮らせるようにと、靴の脱ぎ履きをする際の手すりを造作した玄関。しっかりと容量を確保したシューズクロークも便利

「どの窓からも山々の稜線が見えるんですよ。東京から遊びに来た友人たちが、この景色を見て感動していました。冬になると辺り一面が雪で覆われるから、窓の向こうの景色もまた違った雰囲気になるんでしょうね」と、弾んだ声で窓の向こうを指差す奥さん。「少し前まで、北海道で暮らすなんて夢にも思っていなかったから、不思議ですよね」と笑顔が広がります。夏から始めた薪の支度もすっかり整い、「炎を見たくて、暖かいうちから何度も火を入れているんです」と、Sさんは薪ストーブの操作も手慣れたもの。

白く塗り替えられた景色の中で、炎を眺めながら過ごす満ち足りた時間。厳しい冬を乗り越える覚悟と、楽しむ期待の中で、Sさんご夫妻は東川町で初めて冬を迎えます。

北海道への移住PROCESS

場所選び

土地探しに2年の月日を費やしたというSさんご夫妻。大雪山系の山並みを望む理想的なこの土地は、東川町の珈琲屋の店主が見つけてくれた。

ウッドデッキが続く南西の大開口の先には、遠くにSさんご夫妻が憧れた山々の美しい稜線が広がる

依頼先選び

道南スギの外観に惹かれて検討。芦野組の「完成後からも長いお付き合いになりますよ」という心強い言葉が後押しになった。

Sさんご夫妻が心惹かれたという豊かな自然と調和する道南スギの外観。ウッドデッキを介して薪の持ち運びができるように動線を考えて薪棚を設置している

プランのこだわり

山々の稜線と炎を楽しむ暮らしをプランの核としながら、1階で暮らしが完結できること、広すぎず狭すぎない適度なサイズ感も大切にした。

美しい景色がパノラマに広がるLDK。土間は、リビングとフラットにつながる
玄関ホールからリビングを見る。左手に浴室や洗面台、右手に寝室が配されている。カラマツの無垢床は、節が表情に深みを与える

素材選び・造作

カラマツの無垢床や現しの梁や柱など、自然素材を感じる空間。カウンターや本棚、キッチンの作業台などの造作家具はパインやタモを使っている。

キッチンの壁はレンガを採用。「油ハネなどの汚れも、レンガだと味わいの一つになるので手入れが不要です」と奥さん。壁付けのキッチンはウッドワンのもので、収納がオープンになっているタイプ。作業台や背面収納の造作と合わせて違和感なくなじませた
造作した洗面台と鏡の間に設けた窓からの自然光が手元を明るく照らす

担当者より

Sさんご夫妻の暮らしのコンセプトは、美しい山々と炎を眺めること。構造に配慮しながら、どこからでも景色を取り込むことのできる窓配置を計画しました。景色を見せるLDKの窓は木製サッシを、明かり採りや2階の窓は樹脂サッシを採用して、コストバランスも考慮しました。プランは、歳を重ねても快適に暮らせることを考えて、寝室を含む生活に欠かせない要素を1階に集約。2階は書斎用のカウンターを設けたホールと、客間を兼ねた奥さんの趣味であるピラティスをする個室のみで構成した「ほぼ平屋」の住まいになりました。ご夫妻で薪ストーブと美しい景色を満喫しているようで、とても嬉しいです。

2階ホールはカウンターを設けて、書斎としても活用できる多目的空間。空を切り取る窓と、階段の吹き抜けが開放感をもたらす