住居地域では日当たり確保が難しい
住居地域では、店舗や事務所、および一部の遊戯施設を建設することができ、便利でにぎわいのある場所となります。都心周辺で戸建て住宅の敷地を探すと、この住居地域となる場合が多く、狭小地や変形地となることも少なくありません。先の低層住居専用地域と異なり、高さ規制や北側斜線の規定がありません。隣地斜線制限が適応されるのは20mまたは31m以上の部分に限られ、日影規制も高さ10m以上の建物にだけ適応されます。そのため、戸建て住宅の形を規制しているのは道路斜線制限しかなく、建ぺい率・容積率いっぱいに住宅が建ち並ぶことになります。
住居地域は便利な場所にある場合が多いのですが、3階建てであっても冬の日当たりを確保することは難しく、住環境としては制約があることは覚えておきましょう(図6上)。
日影規制も限界あり
どの用途地域においても、高さ10m以上の建物には日影規制が設けられています。図6下にあるように、隣地に影がかかる時間を制限することで、建築の形を規制しています。この規制は1970年頃からのマンションブームの際に長時間の影がかかる住宅が急増したため、日当たりを確保して「日照権」を守るために1976年に定められたものですが、効果に限界もあります(図7)。
先の影がかかる時間は、設計している建物単体で決められるものです。実際には複数の建物が並んでいる場合、敷地に影がかかる実際の時間は、規制値よりずっと長くなってしまいます。
また、日影規制が定められる前に建てられている建物も多く存在します。日陰規制にはあまり期待せず、実際の敷地で日当たりをチェックする方がよいでしょう。最近は太陽の軌跡(サンパス)を分かりやすく表示してくれるスマホアプリもあるので活用しましょう。
増え続ける狭小戸建て
最近、人気のある地域での地価が高くなっているというニュースをよく聞きます。さらに建材価格や人件費の値上がりも重なり、住宅価格を抑えるために敷地や住宅のサイズを抑えざるを得ない場合が増えています。実際、住宅地を歩いていると、これまで1つの戸建て住宅があった敷地が、2つ3つ、場合によってはさらに細かく分割されて販売されているのをよく見ます(図8)。
狭小戸建ての デメリットも忘れずに
低コストで販売されている狭小の戸建て住宅は、限られた金額で戸建てがほしいというニーズに応えているのは事実でしょう。ただし、狭小戸建てはプランも制約されるので、ライフステージの変化に対応することが困難です。特に3階建てだと、歳をとったときに階段の上り下りがつらくなります。隣接住居との間隔も極端に狭い場合が多く、後で足場を組むことも難しく、修繕や建て替えも非常に困難です。長期での住宅の質や価値を含めて、慎重に検討することをおすすめします。
狭小戸建ては断熱・省エネにもハンディあり
断熱性能の面からも、狭小戸建てにはハンディがあります。図8の例では、戸建て2階建て1棟を狭小戸建て2棟に建て替えると、1住戸あたりの床面積は36%減る一方で、外皮面積は18%しか減りません。狭小戸建ては床面積の割に外皮面積が大きくなることになるので、断熱の強化が求められます。一方で、スペースや防火の制約から、壁が厚くなる断熱工法や樹脂製の高断熱サッシの採用が難しく、場所を取る高効率のヒートポンプ機器なども設置が困難であることも不利になります。
さらに電気代削減の切り札である太陽光発電も、狭小戸建ての小さな屋根に載せるのは経済的に難しくなります。2025年から設置義務化を予定している東京都も、最も大きい屋根の水平投影面積が20㎡以未満の場合は、太陽光発電パネルが効率的に付けられない住宅として適応を除外しています。
戸建てと集合のいいとこどり?テラスハウスも一考の価値
狭小戸建てにはデメリットが多いのは分かった。でもやっぱり集合住宅より戸建てで暮らしたい…。こうした要望がある場合、一つ候補になるのが「テラスハウス」「タウンハウス」です(図9)。
戸建て住宅を隙間なく並べた形態で、界壁を共有していますが玄関は別々。以前は「長屋」と言われたもので、海外ではごく一般的な住宅の形です。敷地をそれぞれ分割所有するのがテラスハウス、敷地を共同所有するのがタウンハウスです。
界壁を共有するので、建物の間の隙間を有効利用でき、その分だけ床面積が大きくできます。外皮面積も小さくなるので、熱ロスが減って断熱にも有利です。屋根も共有なので、太陽光発電パネルの設置も容易になります。脱炭素時代に適した住戸形態といえるかもしれません。
一方で、プライバシーの確保のためには界壁の防音をしっかり行うことが重要です。また複数の住戸と敷地を共同で管理する必要があるため、メンテナンスや建て替えが難しいなどのデメリットがあり、日本ではあまり普及していません。課題はありますが、狭小戸建てかマンションという二択ではない、新しい住居形態として検討の余地はありそうです。
今回は、街並みを決めている用途地域を通して、住宅地と住宅の在り方について考えてきました。土地や住宅の価格が高騰する中で、住環境の質を確保することはよりハードルが高くなっています。敷地選びにおいても、用途地域をしっかり確認するとともに、日当たりを含めた実際の環境をチェックすることが欠かせません。後で後悔することがないよう、目の前の価格だけでなく長期の視点で土地と家を選びたいものですね。
【バックナンバー】
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vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
vol.011/冷房を真面目に考えよう
vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える
vol.013/冬の快適性を図る指標「PMV」を理解しよう!
vol.014/エネルギーと光熱費最新事情
vol.015/夏を涼しく暮らすコツを考えよう
vol.016/冬の乾燥感
vol.017/採暖をもう一度科学する
vol.018/ゼロエネルギー住宅ZEH、本格普及へ
vol.019/夏の快適性をエリアで考える
vol.020/Wh(ワットアワー)とW(ワット)で考える非常時のエネルギー
vol.021/窓こそ省エネ・快適の最重要パーツ
vol.022/職住近接は地球にも人生にも優しい
vol.023/未来の気候に備えた敷地選びと家づくり
vol.024/日当たりを考えた敷地と建物
vol.025/健康・快適なリフォームの3つのポイント
vol.026/在宅勤務の普及で家づくりが変わる!
vol.027/二世帯住宅とエネルギーの関係
vol.028/平屋づくりのポイントを考える
vol.029/住宅地での日当たりを考える
vol.030/住宅の脱炭素
vol.031/住宅の脱炭素 その2
vol.032/断熱リフォーム
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vol.034/電気・ガスの「燃料費調整」を理解しよう
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vol.036/急騰の続く電気代 今後どうなる?
vol.037 寒冷地こそ太陽光発電を採用すべき?
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