教室の冷房が効かない!

この連載は主に住宅の省エネや快適性をテーマとしていますが、学校の教室というのも身近な建築です。誰もが学校には通ったことがあるでしょうし、お子さんが今まさに通っているという人も多いでしょう。子どもたちが日頃長時間滞在する教室の室内環境は大事なはずですが、実は夏に暑さが大変なことになっていることをご存じでしょうか。

学校の教室へのエアコン設置自体は、急速に進んでいます。文部科学省の調査によると、公立小中学校の普通教室のエアコン設置率は、2010年に19.3%だったのが2022年には95.7%となり、ほぼすべての教室に普及している状況です。エアコンがあるなら冷房すればいいように思いますが、話はそう簡単ではありません。

夏の教室内部は灼熱!

図3は、埼玉県の小学校の教室を、赤外線カメラで撮影したものです。最上階にあるこの無断熱の教室は、夏にひどく暑くなり子どもたちが苦しんでいるということで、筆者が調査を行いました。サーモ画像で見てみると、室内はすべて赤色の35℃以上、天井に至っては白色の40℃以上と、体温をはるかに超える高温となっています。

図3 無断熱で日射遮蔽がない教室は危険な暑さ!
埼玉県の小学校にて最高気温38.2℃の日に筆者撮影

この灼熱の教室をなんとか冷やそうと、17℃・風量最大のフルパワー設定のエアコンからは約10℃の冷風が吹き出しますが、あまりにも熱の侵入が多いために室内はほとんど涼しくならないのです。

断熱と日射遮蔽の不足が耐え難い暑さの原因

なぜこのように教室が高温で、冷房をつけても涼しくならないのか。この連載をご覧いただいている皆さんは、原因がもう分かりましたね。お察しのとおり、「屋根天井の断熱」と「窓の日射遮蔽」がないことが暑さの原因です(図4)。

図4 教室の耐え難い暑さの原因は「日射遮蔽がない窓」と「無断熱の屋根天井」

最上階の教室では、屋根が太陽熱で極端な高温になり、無断熱だと日射熱がそのまま伝わり、天井温度は極端な高温になってしまいます。高温の天井からは強烈に遠赤外線が放出されるため、子どもたちの頭を容赦なく加熱するので耐え難い暑さを感じさせてしまうのです。

また学校の教室というのは自然光で内部を明るくできるよう、開口部が特に大きく設計されています。そのため日射遮蔽をしないと、夏には日射熱が教室に容赦なく侵入してしまいます。特に、特に朝陽が当たる東面と夕陽が当たる西面の窓は要注意です。

文科省基準の室温28℃ 無断熱教室は満たせない

実際の教室の温度を計測した結果を図5に示します。

無断熱で窓を締め切った教室における温度とCO2濃度

①冷房を付けても室温がなかなか下がらない
②天井温度は太陽高度が高い昼以降は特に高温に
③エアコンの吹き出し温度は最低で10℃以下に
窓を閉め切ってエアコンを最大に効かせても室内の空気温度や天井温度が下がらない!
①CO₂濃度が文部科学省基準の1,500ppmを大幅超
②最高で3,300ppmと空気が著しく汚れた状態
窓を閉め切って冷房しているので換気ができないため室内の空気が汚れている!

図5 無断熱の教室は温度が高いだけでなく空気もひどく汚れている!
文部科学省は「学校施設整備指針」において、教室の「温度は28℃以下」「CO₂濃度は1,500ppm」が望ましいとしています。しかし、無断熱で日射遮蔽もされていない教室はいくら冷房を強くしても室温は十分に下がりません。 さらに窓を開けると冷房が効かなくなるので窓を閉め切っているため、換気ができず空気質がひどく悪化してしまっているのです。
出展:埼玉県の小学校にて2023年7月19日~21日に筆者計測

朝の授業開始前、教室の温度が35℃を超えています。授業開始後にエアコンをフルパワーで運転しても、室温(オレンジ色の線)はなかなか下がりません。文部科学省は「学校施設整備指針」において、教室の温度は28℃以下が望ましいとしています。しかし、エアコンが冷風(水色の線)を吹き出し続けているにもかかわらず、室温は基準の28℃を下回ることがありませんでした。  

さらに天井の温度(赤色の線)も非常に高温です。特に太陽が高く昇り屋根の表面温度が高くなる日中は、エアコンを運転しているにもかかわらず天井温度が35℃以上に上昇。これでは子どもたちが暑さに苦しむのも当然です。

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