埼玉県には、地域特性を生かした家づくり/地域に根ざした家づくりを通じて地域社会に貢献するとともに、地域住文化の発展に貢献していくことを目的とした団体「さいたま家づくりネットワーク」があります。
当ネットワークの事務局は、さいたま市を拠点に、木材を中心に建材・水まわりを含む住宅設備機器・エクステリア材・太陽光発電設備・サッシなどの販売および工事などを行う「桝徳(マストク)」。「さいたま家づくりネットワーク」が埼玉を代表する家づくりの窓口になれればという目標を掲げ、住宅生産システムの構築・技術力向上・工務店経営力の向上・消費者に対する信頼性の向上のためのさまざまな施策を通じて、良質な住宅普及策を参加工務店に提供。地域の住宅産業とその担い手の活性化を図るとともに、個性ある住文化の発展を目指しています。
誰でも良質な住宅が建てられるようにという一心で、埼玉県を中心に住宅産業に関わる数々の担い手が集まった当ネットワーク。今回はその中から、4社の若手経営者のメンバーをお呼びし、「埼玉での家づくりの今とこれから」についてお話しいただきました。それぞれの立場でどのような⼯夫をしているのか。各社ならではの取り組みやこだわりをメンバーの皆さんにお聞きしました。
地域のビルダーとして大切にしていること
川越市を拠点に、自然のままの素材を多用した、職人が手刻みでつくる伝統工法の家づくりにこだわっているSUHARU建匠です。昔ながらのつくり方だと住宅性能は二の次という認識が多いですが、当社ではこれからの時代に必要な断熱・気密性能の確保にも同じくらい重きを置き、性能とデザインのバランスが取れた住まいづくりを心がけています。古民家再生の際は極力耐震増強などを行うことで、さらに長く暮らせる家になるようにしています。
私たちの家づくりでは、四季を通して日射を上手に活用できるよう軒を出す手法を取ることが多いのですが、これにはある程度、広さのある土地が必要です。郊外でのゆとりのある暮らしを求めて来られるお客様が多くいらっしゃるので、土地も自然環境も生かせる家づくりを積極的に提案させていただいております。また環境への配慮として、できるだけゴミをつくらない資材の使い方について、日々工夫しているところです。
共栄建築は、浦和美園エリアを中心に50年以上実績を重ねてきた工務店です。私たちも地元に育てられた会社として、感謝の気持ちを地域の方々にお返しできるよう、住まいと暮らしに関連するさまざまな活動をお施主様とともに頑張っています。
私は3代目になりますが、数年前の代表交代を機にamaneブランドを立ち上げました。「住む⼈の想いを、あまねくかたちに」をコンセプトに、お客様が機能性もデザインも妥協することなく、愛着と誇りが持てる自由度の高い注文住宅を建てられるようお手伝いをしております。amaneの家は「ZEH基準以上」の性能を標準化しており、全体のコストバランスを見ながら、ご要望・必要性に合わせてさらなる高性能住宅も建てられます。デザイン面も、自社設計のみならず、設計事務所との連携によるハイレベルなご提案が可能。長年培ってきた確かな技術力で、細部まで丁寧な家づくりを行っています。
1978年に創業した当社は、伊奈町という大宮から近いゆったりと過ごせる田舎町の工務店です。自社大工が最初から最後まで一貫して担当する注文住宅の新築をはじめ、既存住宅のリノベーション・リフォーム、小さな修繕工事まで、地域密着の形で、住まいと暮らしに関わるお手伝いをさせていただいております。
「笑って育とう」が会社の理念でして、地元と、地元に住む人々のことを何よりも大切に考えています。土に触れる楽しさ、収穫して食べる楽しさを体験できる畑・農園事業、地元の子どもも大人も楽しめる駄菓子を中心とした雑貨店の運営など、地元に根ざしたさまざまな取り組みを行っています。また先代のときから大工の工作教室をやっているのですが、現在当社で働く大工のうち2名は、その工作教室がきっかけで大工になってくれたんです。そういう部分でやりがいを感じると同時に、地元を元気にする・地元に貢献するという責任を感じます。
当社は、もともと上尾市にある設計事務所です。私が数年前に戻ってきて、今は会社の工務店化を進めている最中です。まだ年間2、3棟と規模が小さく、自社大工ではないので、お客様に安心してお任せいただけるよう、現場管理には特に気を使っています。
私たちの家づくりは、高い住宅性能へのこだわりが特徴です。以前ZEH基準の断熱性能の住宅を見学したときに、体感として寒く、本当に快適な住まいにするためには、もっと高レベルな性能を追求していくべきと思ったことがあります。それをきっかけに住宅性能について勉強を重ね、今はHEAT20 G3(断熱等級7)以下はつくらないようにしています。私たちはプロとしていい家づくりに全力を尽くしますが、ずっと住んでいく家だからこそお客様に、デザインだけでなく、住宅性能の面をもっと気にしてほしいと考えています。デザインも性能も兼ね備えた、3世代持つ高耐久な住まいを提供し続けていくのが目標です。
自由度の高さが工務店の強み。若手の職人育成が大事
埼玉はもともとハウスメーカーさんが強い地域ではありますが、最近のお客様もすごくこだわりをお持ちであったり、いろいろ調べられたりするので、昔よりは工務店のことを知ってくださっているように感じます。
そうですね。amaneもハウスメーカーさんと競合するケースが多々ありますが、プランや素材などの自由度の高さから選んでくださるお客様が多いです。自由度は工務店の変えてはいけない強みですね。
そういうこだわりの部分をSNSで共有し合ったり、SNSで見つけていいと思ってくださる方々も増えてきました。小さい工務店こそもっとSNSを積極的に活用していく必要がありそうです。
伊奈町には歴史の長い工務店が少ないのですが、私たちはやっぱり地元に必要とされる会社として「在り続ける」のが何より大事かなと思っています。みんなが知っていて、何かあったらすぐに相談したい住まいのお医者さんですね。
それはやっぱり地域密着型だからこその強みですよね。反対に当社の場合は、規模的に小さい会社ですので、地域で頼れるお医者さんは老舗の工務店さんにお任せして、家づくりに関わる各社が各々の立場でより高品質を追求しながら「さいたま家づくりネットワーク」のような団体と上手に連携を取っていけば、それもまた理想的な形の一つかなと思います。
ところでみなさんは大工職人の確保と育成はどのような感じですか。うちも採用にかなり力を入れているほうだと思いますが、やっぱり最近は若手が全然入ってこなくて。
まったくそのとおりです。それに若手が入ってくれても、育てていくことが難しいですよね。昔みたいに後ろで見て技を盗むような時代でもないですし。マニュアルといいますか、育て方を確立していく部分で難しさを感じますね。
実また賃金に対する認識が昔のままなのもハードルになっているんだと思います。農業も同じですが、職人はたしかに大変ではあるけれど稼げるんだよと、みんなが分かるように業界レベルの努力が必要と思います。
高レベルな断熱性能で快適に。地震・シロアリ対策もしっかり
当社はスーパーウォール工法を採用していて、断熱性能としてはUA値0.46は全棟でクリアしています。HEAT20 G2レベルぐらいですね。
私たちもG2レベル前後の断熱性能です。amaneはデザイン面を重視していることもあり、デザインと性能ともに両立できるような表現方法を日々模索し続けている状況です。
工務店ではわりと、G2レベルを標準としている会社が多いのかもしれません。当社はUA値0.40前後ですね。そして躯体性能に加え、風の抜け道をきちんと確保したり、日射角度を計算し、一年を通して適度な光を室内に運ぶといった、パッシブなつくり方に力を入れています。
埼玉は日射対策がけっこう重要ですから。当社ではG3レベルが標準で、断熱・気密性能が高いからこその問題で結露があります。しかし、結露も計算方法があって、計算と対策をしっかり取ることによって解消することができるんです。数値を下げるための計算ではなく、長持ちさせるための計算もちゃんと行うべきです。
2025年の建築物省エネ法改正で、断熱性能のレベルが一気に引き上げられますが、その際、既存不適格建築物になる住宅が多く出てくると思います。私たちはそのようなことも見据えて、長期的な観点でお客様に提案する必要がありますね。
当社は耐震等級3が標準ですが、埼玉は東京から移住される方も多いですし、耐震性を気にされるお客様も多いように感じます。
やっぱりあらかじめ耐震等級について勉強されてこられる方が多くいらっしゃいますよね。当社の場合は耐震等級3相当です。
当社の標準は耐震等級2ですが、金物とベニヤを使わないでの性能ですね。可能であれば、災害が起きても1週間くらいは生活できる住まいにしたいと思っています。そういう意味で薪ストーブも積極的に提案させていただいています。また雨水タンクを設置しておけば万が一の際にも使えますし、川の面積が大きい埼玉の場合、水害対策にもつながると思うんですよね。
災害への対策としての薪ストーブというのはとても有効な考え方ですね。私たちは許容応力度計算による耐震等級3を基準として耐震性には気を使っていますが、同じくらい大事なのがシロアリ対策だと思います。当社では防蟻外付加断熱・ホウ酸・土壌シートの3重処理で、シロアリが侵入できないようにしています。
関東ではシロアリ対策は必須ですよね、新築時にしっかり対策を取っておくことが大切です。うちはSRC基礎という逆ベタ基礎を採用しているのですが、床下空間がないのでシロアリ侵入の心配がありません。
さいたま家づくりネットワークをはじめとした横のつながりを生かす
当社がさいたま家づくりネットワークに入ったのは、前会長の佐藤社長(佐藤工務店)が理由でした。同じ上尾市にある工務店で住宅性能には定評がある工務店ですよね。佐藤さんは熱心にさまざまな情報を共有し、教え合うことで、全体的な底上げができるように頑張ってくださっています。家づくりで気軽に頼れる会社がいっぱいあったほうがいいという考え方には納得しましたね。
横のつながりが強くなる=地域全体が強くなるということですよね。こういうネットワークがあるからこそそれが可能で、やっぱりその過程でまたいろいろな刺激を受けるので、さらなるステップアップにつながるんだと思います。必須な一定レベルまではみんなできて、それ以上は各社がオリジナルで足していけばいいんです。
結局ずっと生き残っていくというのが工務店の宿題ではありますが、もし会社がなくなったとしても、さいたま家づくりネットワークに連絡すればなんとかしてくれるし、信頼できる会社もたくさんあるとなるとお客様にとっては安心ですよね。
そのための交流の場の用意やさまざまなサポートを桝徳さんが頑張ってくれて、会員たちはお互いに教え合う・刺激し合う関係性を築けているのはきっと強みだと思います。この関係性を生かして、失敗した経験もお互い共有していったらどうだろうと考えました。失敗したときの解決策もみんなで模索すれば、もっとよくなるのではないでしょうか。
失敗から学ぶことは多いですからね。先ほど話のありました職人の確保・育成の問題も1社1社ではなく、共通の課題だと思います。こういう部分においてもネットワークの力を生かして、合同で教育の機会を設けたりしたら、課題解決に向けてより効率よくいい動きが取れるのではないでしょうか。
ちょっと大きい話をしますと、今後のさいたま家づくりネットワーク全体として、産業廃棄物問題や大震災に備えた動きを取っていくべきかと思っています。社会的・環境的にいい家づくりは、お客様にもいい家づくりなのです。当然、家づくりに関わるさまざまなメーカーさんとの協力が必要になりますが、それこそ当ネットワークのような「場」がないとそもそも難しいですからね。
先ほどの全体の底上げのように、一人だけではなくみんなでよくしていこうという考えですよね。確かにいち工務店では無理でも、ネットワークの力を生かし、多くの力を集めれば、よりエコな家づくりが可能になりそうですね。
さいたま家づくりネットワークでは、家づくりに関連するさまざまなユーザーメリットを追求するとともに、事務局である「桝徳(マストク)」を中心に、参加工務店への良質な住宅普及策の提供にも力を入れています。
北関東地域材の供給ルートを整備し、地域型住宅商品の仕様・施工仕様の提供や新技術勉強会・意見交換会を積極的に行い、技術や住宅性能の向上を図ると同時に、今後の目標として、設計サポートおよび工程管理におけるムリ・ムダの削減できる建設業務管理システム、現場写真管理システムなどの導入による高効率な住宅生産システムの構築を通じて、工務店の技術力・経営力の向上を図っていきたいと考えています。
また、住宅履歴情報サービスをはじめとした積極的なWEB上での情報公開、アフターメンテナンスの実施規定の提供で、ユーザーが安心・信頼して家づくりをお任せできる関係性を築けられるよう努めていきます。
地域工務店の成長は、高品質な住まいという形となってユーザーに還元されます。さいたま家づくりネットワークは、住まい手とつくり手をともに良い方向に導くことができるよう、日々前進を止めません。
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家づくりを始める際に重要となるのがパートナー選び。自分に合ったパートナーにたどり着くためには、まず、どのような選択肢があるかを知ることが重要です。
大きな住宅展示場にモデルハウスを持ち、多数のメディアで大々的に広告している大手ハウスメーカーに比べ、地域の「工務店」は、興味はあってもなかなかその実情を把握しにくいのが現状です。
そこで今回は、それぞれに特徴や強みの異なる工務店との家づくりをご紹介。工務店をパートナーに選んで建てた実例と住まい手の声を通じ、その魅力を紐解きます。
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