当麻町で暮らすMさんご一家は、2021年の冬に2度目の新居を建てました。旧居は規格住宅で、奥さんは家族のライフスタイルに合わない暮らしにくさを感じていました。中でも冬の寒さは大きな悩みの種だったといいます。
「以前の家はパネルヒーターでしたが、光熱費が想像以上にかさんでしまい、エアコン暖房をメインに使用しました。けれど、温風暖房に物足りなさがあり、いつも肌寒さを感じていました」。そこで思い至ったのが「炎を眺める暮らし」です。
「実家の大きな石油ストーブは炎が見える安心感と暖かさがありました。薪ストーブなら炎が見えて視覚的に暖かさが感じられるし、インテリアとしても映えるだろうと思ったんです」。

Mさんが森林に関わる仕事をしていて、薪の調達に不便がなかったこともあり、薪ストーブの導入を決意しました。
建築地が道路に面していたため、視界の抜けや周囲の目線を配慮して、LDKを2階に配置。奥さん好みの黒やグレーを基調に美しく落ち着いたトーンでまとめ、スタイリッシュな空間に。薪ストーブのセレクトや設置は、Mさんの知人の職場でもある旭川の薪ストーブ専門店「コロポックル」に依頼することにしました。

室内の雰囲気に合わせて、同社の橋口宏二さんが提案したのはデンマーク製の薪ストーブ、HWAM(ワム)の「3630」。「薪ストーブは、リビングのコーナーに設置する想定で進めていました。階段を上がったときの視線の先に炎が見えるよう、あえて斜めに置いています。この機種は3方面にガラス窓がついているので、室内のどこからでも炎を眺めることができます」と橋口さんはその意図を話します。

「3630」は、鋼板で覆われたシンプルで美しい円筒型デザインが特徴。開閉ハンドルなどの操作部はコンシールドタイプのため美観を損ねず、装飾を削ぎ落としたスマートな佇まいは、Mさん宅のLDKにもあつらえ向きです。
「LDKのデザイン的に鋳物製の薪ストーブは不釣り合いだろうと思い、当初はインサート型(壁埋め込み型)も考えていましたが、HWAMの『3630』は我が家の大きなテレビと並んでも引けをとらないボリューム感で、思い描いていた炎を眺める暮らしにぴったり。デザインも優れていて、ひと目で気に入りました」と、奥さんの理想に叶うベストな提案でした。この薪ストーブの火のあまりの美しさに「遊びにきた友人が映像と間違えた」というエピソードもあるそう。
炉台は鉄板を採用し、床とフラットに設置。室内の薪棚も炉台に合わせた鉄製で、Mさんの親族による手づくりです。「薪ストーブや薪棚は存在感があって、見栄えも良く、インテリア性の高さを感じています」と、LDKをより上質な空間へと引き上げています。


LDKの暖房は薪ストーブのみ。「2階の個室にはパネルヒーターを設置していますが、扉を開けていると室内にまで暖かさが隈なく伝わるので、ほとんど出番はありません」と奥さんは話します。またLDKの階下はガレージのため、冬場の冷え込みを心配していましたが「薪ストーブの暖かさが床に滞留しているので、足元の寒さも感じませんでした」と、その暖かさは想像以上だったよう。
薪置き場は屋外とガレージの2ヵ所に設けています。シーズン中はあらかじめガレージ内に使うであろう量の薪をストック。そのため薪の補充が室内の行き来で完結するので便利です。
職場でも薪ストーブを使用しているMさんは、ある程度手間がかかることを知っていたので、当初は導入に消極的だったそう。ところがいざ使い始めると「仕事で出た木の端材を調達して薪をつくり、焚き付け用のチップも自作するなど、まるで新しい趣味が増えたように手をかけてくれてますね」と、奥さんは笑います。
薪ストーブの操作に慣れていたMさんとは異なり、導入を希望した奥さん自身はストーブの扱いは初心者でした。「心配はありましたが、使ってみたら苦労することはなく、すぐに焚き付けからできるようになりました」とその操作性の良さを実感しています。



エネルギー価格が高騰する中、薪の調達に不便しないMさんご一家にとって、薪ストーブの導入は経済面でも効果てきめんでした。「当麻町はプロパンガスが主流なので、冬場に薪で暖が取れるとランニングコストを抑えることができて助かります。薪ストーブはイニシャルコストこそかかりますが、うちの場合は長期的に考えると経済的です」。
大きなガラス窓越しに眺める炎の美しさ、パチパチという薪のはぜる音や焚いたときの香り。体の芯から暖まる薪ストーブには、五感で冬の暮らしを楽しく、心地よくする力があります。

「炎を眺めながらリビングでくつろぐ時間が大好きです。以前の家では寒いと言っていた子どもたちも、新居では短パンとTシャツで過ごしています。あまり乾燥しないので加湿器も不要。おかげで冬の暮らしが一変しました。焼き芋をしてみたらとてもおいしくて、次のシーズンではピザにも挑戦してみたいです」と奥さん。3回目の薪ストーブシーズンに向けて期待を込め、この夏も薪づくりに精を出すMさんご一家です。