「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。
注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。
新築した2009年には6人の子どもでにぎやかだったOさん宅。14年を経ての一番大きな変化は4人の子どもが巣立っていったことです。設計段階から一番上と一番下のお子さんの11歳という年齢差と進学のため家を出ていくタイミングを考え、子ども部屋は3部屋と絞りました。6人いたときはじゃんけんなどで場所を決めていたスタディルームの長い机も、いまは2人で悠々と。空いた子ども部屋にはトレーニングマシンを置き、Oさんの趣味部屋として使っています。
雪が多いエリアのため高基礎としたOさん宅。その基礎部分を利用して、家の中央を一段下げて子ども部屋と共有のスタディルーム、シアタールームを配置し、玄関と同じ高さにある和室とキッチン・リビングを長い廊下で結んでいます。平屋の中に生まれたこの高低差と長い廊下の効果で「約40坪という実際の大きさよりもずっと広く感じています」とOさんご夫妻。エリアをゆるく区切り、家族の気配を感じつつプライバシーも確保する一方で、家具の配置次第では広いワンルームのような使い方もできます。「ほぼ仕切りがないので、その時々で使い方を変えられる、可変性のある家」と奥さん。この14年の間には子どもの友達30人以上を招いてのパーティーもあればママ友との女子会もあり、同居する家族の人数の変化もありました。人数は増えたり減ったり。しかし、その場にいる人が心地よくいられる家であることだけは不変だったようです。
この家での生活を振り返り、「暮らしやすさはそのままに安心感が増している」と奥さん。年に一度は、壁や屋根を塗ったり、オール電化からガスの利用に変えたりと手を入れてきました。「戸建てを維持するのはお金がかかるなぁと正直思います。でもその分とても愛着がわいているんです」。来年春には子どもの進学に伴い、いよいよ夫婦2人の暮らしになる可能性も。8人暮らしの楽しさがあったように、夫婦だけになれば、また違った楽しい生活がある、そう思わせてくれる家。次の14年後が楽しみです。
● Before・After
変わらないこと|周囲に家は増えたがリビングの大窓からは変わらず森の景色が眺められる。通常このエリアの家は、洞爺湖の見える南側に開口部を設けがちだが、Oさん宅では将来家が建たないであろうと思われた小川の流れる東側の森に向けて大窓とウッドデッキを据えた。実際、14年の間に南隣に家が建ち、もしそちらに開口部を設けていたら家から見える景色は大きく変わっていたはずだ。
変わったこと|子どもたちが巣立ったことが一番大きな変化。建物自体にも毎年手を入れている。新築当初は深夜電力割引プランを利用してのオール電化だったが、割引制度の変更などから割高感を感じるようになり2年前にエコジョーズを導入。現在はガスも利用しての生活に。昨年は子どもたちが帰ってきたときにBBQをしやすいようにウッドデッキを増築。シアタールームではかつてDVDをよく見ていたが、現在ではネット配信のドラマや映画を見たり、ゲームをしたりと、使用するソフトのほうが変化した。8帖ほどの広さで、子どもたちが帰省した際には寝室として使用することもある。
洞爺湖町・Oさん宅 家族構成/夫婦、子ども6人
建築データ
構造規模 木造(新在来木造構法)・平屋建て
延床面積 143.26㎡(約43坪)
<主な外部仕上げ> 屋根/ガルバリウム鋼板、外壁/北海道産スギ板、建具/玄関ドア:木製断熱ドア、窓:木製サッシ
<主な内部仕上げ> 床/北海道産ブナフローリング、壁/珪藻土入塗壁、天井/珪藻土クロス
<断熱仕様 充填断熱> 基礎/押出法ポリスチレンフォーム100㎜、壁/高性能グラスウール24kg150㎜、屋根/高性能グラスウール16kg300㎜
<暖房方式> オール電化セントラル暖房(温水パネルヒーター)※建築時
工事期間
平成21年2月〜6月(約4ヵ月)