「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。

注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話があふれています。


2009年、古民家風の味わいをインテリアに巧みに取り入れて完成したTさん宅。もともとレトロな雰囲気の家具などに囲まれて暮らしてきたというご夫妻にとって、それらと調和する空間づくりは欠かせないテーマでした。そこで家づくりのパートナーに選んだのが、木材などの自然素材を活かすことに長けた三五工務店。札幌を拠点とする老舗の工務店です。

木の表情が豊かな対面式のキッチン。「キッチンもかなり打ち合わせをして構成したので、10年間(取材時)ほとんど何もいじらずに使っています」と奥さん
木の表情が豊かな対面式のキッチン。「キッチンもかなり打ち合わせをして構成したので、10年間(取材時)ほとんど何もいじらずに使っています」と奥さん

2階にあるLDKの色調は、お気に入りのチェストに合わせてまとめられ、随所に設けられたはめ殺しの室内窓には、奥さんが収集した古い窓を使用。そのほかにも臨機応変な設計と施工により、ご夫妻にとって理想的な空間が生まれました。現在もメンテナンスなどを気軽に頼める関係性とのことで、これも地元の老舗工務店ならではの安心感といえるでしょう。

「この壁、家族で塗らせてもらったんですよ」と、1階の壁を触りながら懐かしむTさんご一家。新築時には3歳だった息子さんも、取材時には中学生になっていました。当初はTさんのお母さんが1階に同居されていましたが、その後亡くなられ、そのスペースは現在、カイロプラクティックの資格を取得した奥さんが運営するサロンに。二世帯住宅として1、2階間のプライバシーに配慮した動線が、今では暮らしと仕事の空間を上手に隔てています。

ダイニングの様子。奥にあるチェストはご夫妻がもともと所有されていたもので、この色に合わせて全体のカラーリングが設定された。南向きの窓は、太陽光をより多く採り入れられるように背が高くなっている
ダイニングの様子。奥にあるチェストはご夫妻がもともと所有されていたもので、この色に合わせて全体のカラーリングが設定された。南向きの窓は、太陽光をより多く採り入れられるように背が高くなっている
玄関ドアから写真奥に見えるボルダリング練習用のウォールまで続く土間。手前にある廊下から1階洋室へアクセスできる。土間を跨いで階段を上ると2階リビングへ
玄関ドアから写真奥に見えるボルダリング練習用のウォールまで続く土間。手前にある廊下から1階洋室へアクセスできる。土間を跨いで階段を上ると2階リビングへ

このような未来をピンポイントで想定したわけではないものの、プランを固めるまでは、ご夫妻と設計担当者が数十年先までの家族構成やライフスタイルの変遷についてじっくり共有したとのこと。末長く快適な住まいには、物理的な耐久性はもちろん、「設計の耐久性」も欠かせないのです。それは「10年間住んでみて、こうすればよかったという所が本当にないんですよね」というご夫妻の言葉がよく物語っています。

敷地の裏手には、奥さんが手入れをしている彩り豊かなガーデンが
敷地の裏手には、奥さんが手入れをしている彩り豊かなガーデンが

耐久性のある設計を(設計者より)

Tさんからの依頼は3LDK+1Kの二世帯住宅でした。敷地と予算に収める必要から、玄関土間と階段を中心に諸室をつないだ、廊下のない間取りを提案しました。玄関土間は、趣味収納やお母様のお部屋へも直通で、作業場や縁側にもなる構成です。2階にはLDK、諸室を配し、傾斜天井にはロフトを設け、収納力を強化しました。昭和レトロな家具や雑貨がお好きなTさんに向け、内装は構造柱や梁を現しに、塗り壁と無垢フロアにタイルや支給の古材窓枠なども組み合わせた、Tさんの暮らしがなじむ設計としていました。

10年が経過し、無垢の床は艶を増し、現しの柱・梁、塗り壁は、より深い色へと変化し、いよいよなじんできていました。外装板張りも変色してグレーのガルバと合う色になっています。暮らしにも変化がありました。お母様のお部屋は、カイロプラクティックの施術室になりました。土間ホール中心の間取りは、結果的に変化にも対応しやすい間取りだったのです。暮らしに応じた変更が可能で、素材の変化を楽しめるこの家は、「長く住まう家」の条件がそろった住まいと言えます。

LDKには木目が美しいカバの無垢フローリングを使用。リビングの奥にはパソコンカウンター、さらに和室へとつながっている
LDKには木目が美しいカバの無垢フローリングを使用。リビングの奥にはパソコンカウンター、さらに和室へとつながっている

当社では、近年特に、理由のあるデザインを足し算・引き算を心得て設計するようにしていました。素材の特徴・質感・機能も生かした「耐久性」のある設計です。この方向性は、長く住まう家を提供する方法としても有効であることが、Tさんのお宅を拝見することで分かりました。今後も、住み継がれる家であり続けることを願っています。

(文/石塚 亜紀彦)


時が進むほど、本物の ビンテージに近づく悦び

木や石などの自然素材は、10年間のエイジングを経て、よりよい風合いに。この先さらに熟成していくことでしょう。新築時からビンテージ感のあるテイストにまとめられたインテリアは、住めば住むほど、当初思い描いていた理想像に近づいていきます。

コンパクトながら、ご家族のライフスタイルを見つめ、暮らしやすさを最大限に追求したお住まい。少子高齢化が進み、このような「ちょうどいい」家を提案することがいっそう大切な時代へ
コンパクトながら、ご家族のライフスタイルを見つめ、暮らしやすさを最大限に追求したお住まい。少子高齢化が進み、このような「ちょうどいい」家を提案することがいっそう大切な時代へ

札幌市北区・Tさん宅 家族構成/夫婦40代、子ども1人

建築データ

構造規模 木造(新在来工法)・2階建て
延床面積 121.33㎡(約36坪)(ロフト16.15㎡含まず)

<主な外部仕上げ> 屋根/ガルバリウム鋼板、外壁/ガルバリウム鋼板 一部トドマツ(ウッドロングエコ処理)、建具/玄関ドア:YKK AP 断熱ドア ヴェナート、窓:樹脂サッシ
<主な内部仕上げ> 床/カバ無垢フローリング リボス仕上、壁/ドライウォールコンパウンド塗、天井/クロス
<断熱仕様 充填断熱> 基礎/FP板(B3)50㎜(外側)+50㎜(内側)、壁/高性能グラスウール24㎏105㎜、屋根/ネットブローインググラスウール18㎏(32㎏相当)286㎜
<暖房方式> 温水パネルヒーター

工事期間

平成21年8月〜12月(約5ヵ月)