除湿型放射暖冷房システムなどの専門メーカーであるピーエス株式会社。2022年10月、仙台営業所の移転をきっかけに「PSアトリエ」が新たに開設されました。オフィスとショールームの機能を兼ね備えた空間は、東北芸術工科大学の学生らがデザイン提案を行い、約4ヵ月にわたるプロセスを経て完成しました。
 
企業と大学が連携した今回のプロジェクトは、「若い人たちが働きたいと思う理想のオフィス」と「ピーエス製品を体感でき、新しい営業スタイルを生み出せる場」をテーマに、これからを担う若い世代のエッセンスを取り入れただけではなく、営業拠点としての機能を高める工夫も随所にちりばめられました。
 
その取り組みについて、ピーエス株式会社、代表取締役の平山武久さんと、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科4年生の佐々木遥香さんにお話をうかがいました。


きっかけは仙台営業所の移転。
これからの時代を見据える産学連携プロジェクト

プロジェクトの始まりは、仙台営業所が移転先を探していた2022年5月にさかのぼります。以前のオフィスは、平山社長の言葉を借りると「ザ・営業所」。社員ごとにデスクを割り振り、壁一面に資料が収納され、一角に打ち合わせスペースが設けられている、といった一般的なレイアウトのオフィスでした。
 
「これからの時代を担うのは若い人たち。次世代の人材を惹きつけるためには、次世代の人たちが働きたいと思う空間づくりが必要でした」と語る平山社長。そこで、以前から旧知の仲だったという東北芸術工科大学の渡邉吉太准教授に声をかけ、学生とともに理想のオフィスをつくるプロジェクトがスタートしたのです。
 
プロジェクトに抜擢されたのはデザイン工学部 プロダクトデザイン学科に所属する学生4名(※プロジェクト参加時は3年生)。渡邉准教授と学生が1つのチームとなって約4ヵ月間を走り抜けました。

プロジェクトチームのメンバー
プロジェクトチームのメンバー

平山社長からのお題は、新オフィスのデザインに加え、新しい働き方の提案。自分たちが働きたいと思う理想の環境づくりはもちろん、全国に支社があるピーエスグループの営業拠点としての機能や、施主やビルダーらが実際にピーエス製品を体感できる空間が必要とされました。

施工前の新オフィスの様子。ここからすべてが始まった
施工前の新オフィスの様子。ここからすべてが始まった

フィールドワーク、プレゼンテーション…
学生の域を超えた貴重な体験の日々

熊本県にある「PSオランジュリ」。オフィス兼ショールームの先行事例として、学生たちも実際に訪れ参考にした
熊本県にある「PSオランジュリ」。オフィス兼ショールームの先行事例として、学生たちも実際に訪れ参考にした

ピーエス製品の柱でもある除湿型放射暖冷房「PS HR-C」は、ラジエータの中に水を循環させ、空間全体の放射と自然体流により、自然な温度変化と安定した涼しさ・暖かさをつくる、というもの。
 
「移転前のオフィスではHR-Cシステムは使われておらず、エアコンによる空調調整だったので、HR-Cの室内気候の良さを体感できていませんでした。また、デスクは与えられた場所でなく、(フリーアドレスのように)好きな場所でラフに働けるのが理想の働き方だと考えました」と、プロジェクトメンバーの佐々木さん。フィールドワークや現場の社員たちとの対話を重ね、課題を丁寧に拾い上げていったとプロジェクトを振り返ります。
 
時には、企業人さながらにプレゼンテーションも実施。熊本営業所で行われている勉強会にも出向き、ピーエスだけでなく他企業の方々からも意見をいただく貴重な機会を経験しました。

熊本営業所で行われた勉強会にて学生らがプレゼンテーションを行う様子
熊本営業所で行われた勉強会にて学生らがプレゼンテーションを行う様子

そして全体像が見えてくると、各メンバーから出された案を1つの案に融合。立体模型に落とし込み、意見やアドバイスをもとにさらにブラッシュアップし、精度を高めていきました。

最終系に近い立体模型。HR-Cシステムが間仕切りの役目を果たしている
最終系に近い立体模型。HR-Cシステムが間仕切りの役目を果たしている

こうして磨き上げたデザインは約2ヵ月の検討期間を経て、無事決定。そして施工へと進みました。

工事中の現場に何度も足を運び、過程を見守った
工事中の現場に何度も足を運び、過程を見守った
左官職人に教わりながら漆喰塗りも体験
左官職人に教わりながら土壁塗りも体験

ついに完成。次世代・ピーエス・地域にとって新しい価値を生み出す場が誕生

検討約2ヵ月、工事約2ヵ月、計4ヵ月にわたったプロジェクトは、2022年10月に無事完成。新しく生まれ変わった仙台営業所は、学生らにより「PSアトリエ」と名付けられ、大きなオフィススペースとフリースペースからなる空間となりました。

オフィススペース。写真奥と右側に縦のラインが印象的な「HR-C」を配置。フリーアドレスで使えるロングテーブルも
オフィススペース。写真奥と右側に縦のラインが印象的な「HR-C」を配置。フリーアドレスで使えるロングテーブルも
フリースペース。腰高のロングテーブルを採用し、座っても立っても使える気軽さが魅力
フリースペース。腰高のロングテーブルを採用し、座っても立っても使える気軽さが魅力

印象的なのは2つのスペースを仕切る役目を果たすHR-Cシステム。存在感はありながらも、シャープかつスタイリッシュなデザインで空間に溶け込み、その隙間からは両方のスペースを望むことができます。
 
学生らが塗った土壁には、オレンジとグリーンの電気ヒータPS HR(E)を設置。ビビッドなカラーがアクセントとなり、華やかな印象がプラスされました。
 
取材で訪れたのはまだ寒さが残る時期でしたが、このラジエータの中を温水が循環し、室内の空気を暖める仕組みのため、エアコンやストーブなどの温風とは違って、ふんわりとやわらかい空気がまとうのを実感できます。

電気ヒータPS HR(E)のほか、放射暖房 PS HR ヒータなどの製品も体感できるスペースに
電気ヒータPS HR(E)のほか、放射暖房 PS HR ヒータなどの製品も体感できるスペースに

新オフィスで特に気に入っている部分を平山社長にうかがうと、「2つのスペースの境界にデザイン性を感じられます。設備の会社でありながら、デザイン性も兼ね備えている、そういった全体の空間バランスが気に入っています。またフリースペースの高さのあるロングテーブルは学生の提案ですが、座っても立っても使える気軽な感じがとてもいいですね」と、満面の笑みで答えてくれました。

天井を高く取り、境界に段差をつくることで、立体的な空間も生まれた
天井を高く取り、境界に段差をつくることで、立体的な空間も生まれた

今回のリニューアルではオフィス機能はもちろん、ショールームとしての活用も期待されますが、「PSアトリエ」ができるまで東北でピーエス製品を体感できるのは盛岡営業所のみでした。
 
「これまでの営業スタイルは仙台営業所が南東北、盛岡営業所が北東北をカバーするといったもの。けれどこれからは垣根を越え、お互いのオフィスを行き来し、一緒につくる・生み出すといった思考にチェンジしていきます。将来的には北・南東北で1つのプロジェクトを成功させるプラットフォームになることを目指しています」と平山社長は語ります。
 
仙台や南東北圏のビルダーや施主にとっても訪れやすくなったことで、地域に浸透し、より身近に感じてもらえる機会が増えたことも、ピーエスとしての新たな可能性を広げてくれそうです。

打ち合わせでは会議室のような堅苦しさはなく、フラットで活発な議論が生まれている
打ち合わせでは会議室のような堅苦しさはなく、フラットで活発な議論が生まれている
「ラジエータもインテリアの一部。ピーエスの一番のコンセプトは、その環境を含めてデザイン性を叶えていくことです」と平山社長は語る
「ラジエータもインテリアの一部。ピーエスの一番のコンセプトは、その環境を含めてデザイン性を叶えていくことです」と平山社長は語る


最後に、プロジェクトメンバーの佐々木さんに参加してみての感想を振り返ってもらいました。
 
「学生にできる範囲ではいつも提案で終わってしまうことも、今回は実現するところまで一貫してできました。空間デザインのやりがいと楽しさを身をもって学べたことは貴重な体験でした。学生のうちから社会人の方と協働し、生の声を聞けたこともよかったです。これからも空間に携わる仕事をしていきたいです」と、目を輝かせながら話してくれました。
 
初めての試みであった産学連携の今回のプロジェクトは成功事例となり、ピーエスの他オフィスでも検討されているほか、東北芸術工科大学では次年度も後輩たちに引き継がれていく予定だといいます。

次世代を担う若者たちをプロジェクトのメインに据え、そして新しい働き方をも生み出した「PSアトリエ」。さらなる次のチャレンジも今から楽しみでなりません。

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(文/Replan編集部)



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