(株)加藤建築 / 山形県山辺町・Nさん宅 夫婦40代、子ども2人


山形市の北西部に隣接し、人口1万3000人を擁する山辺町。盆地特有の寒暖差や肥沃な土壌を生かした稲作や果樹栽培が盛んなこの町に、Nさん宅はあります。築16年の戸建て住宅をリノベーションした住まいで、手がけたのは山形市で50余年の歴史を持つ地域工務店、加藤建築です。

この家はもともと同社が16年前に建て、代表の加藤勇紀さんが自宅として住んでいました。Nさんが近所に住む加藤さんに家づくりの相談をしたタイミングと、加藤さんがこの家を売りに出すタイミングが合致。「気に入ったこの土地を離れずに済み、予算内に収まるのであれば、リノベーションでもまったく問題ないと思っていました。この家を譲り受けられたのは渡りに船でしたね」とNさんは振り返ります。

もともとは加藤建築代表の加藤勇紀さんの自宅だった

リノベーションで、Nさん家族が使いやすい住宅に。軒の出がないので、雨や雪でも汚れにくくメンテナンスもしやすいよう、外壁はガルバリウム角波貼りを採用。新たにベランダをつくり、煙突掃除のためのはしごも設置した
リノベーションで、Nさん家族が使いやすい住宅に。軒の出がないので、雨や雪でも汚れにくくメンテナンスもしやすいよう、外壁はガルバリウム角波張りを採用。新たにベランダをつくり、煙突掃除のためのはしごも設置した
雨や雪対策として奥まらせた玄関。ガルバリウム鋼板のソリッドな印象の外壁に造作した木製玄関ドアがやわらかな印象を与える
雨や雪対策として奥まらせた玄関。ガルバリウム鋼板のソリッドな印象の外壁に造作した木製玄関ドアがやわらかな印象を与える

2階にLDKや水まわりがレイアウトされている間取りは既存のまま。変えなくてよい部分は変えず、残せる部分を極力残すことで費用も資源もムダをなくしました。築浅だったこともあり、特に床や天井、柱や梁、建具といった内装材は状態が良好で、磨いてオイル塗装をする程度で美しく蘇らせることができたといいます。

一方で大きく手を入れたのは主に、住宅の性能向上と外壁・内壁の改修、水まわり機器の交換です。冬でも少ないエネルギーで暖かく過ごせるよう、必要な部位に断熱材を充填し、開口部の大半は樹脂サッシとペアガラスに交換。また、もとは作業用の土間だった1階の1室を寝室に変更するにあたっては、小上がりにすることで生まれた段差の中に断熱材を施し、畳の上に布団を敷いて寝ても冷たさが直に伝わらないよう工夫しました。

玄関ホールに入って右手は寝室。作業用の土間だった空間をつくり変えた。住まい手のナチュラルな生活感と呼応するように、慎重に素材やデザインが検討されている
玄関ホールに入って右手は寝室。作業用の土間だった空間をつくり変えた。住まい手のナチュラルな生活感と呼応するように、慎重に素材やデザインが検討されている
本物のい草畳を取り入れた。布団で寝たいという希望を受け、埃が立ちづらいよう畳部分を一段上げている。また畳の下に断熱材を施すことで、冷気もシャットアウト
布団で寝たいという希望を受け、寝室は小上がりの和室とした。畳は本物のイ草畳で、その下に断熱材を施すことで冷気もシャットアウト
元から併設されていた手洗いやトイレは設備を一新。トイレの扉は元の建具をそのまま生かした
もとから併設されていた手洗いやトイレは設備を一新。トイレの扉は既存の建具をそのまま生かした
既存のアカマツの無垢床が足に心地よい、開放感あふれる2階LDK。この空間を冬場は薪ストーブが暖める。体の芯から暖まるため、お子さんたちは薄着&裸足で走り回っているそう
既存のアカマツの無垢床が足に心地よい、開放感あふれる2階LDKは間取りもそのまま生かした。この空間を冬場は薪ストーブが暖める。体の芯から暖まるため、お子さんたちは薄着&裸足で走り回っているそう
キッチンは設備機器を入れ替えた程度で大きな変更はなし。左手の扉の先には洗面脱衣室、浴室があり、就寝以外の生活は2階で完結できる間取りとなっている
キッチンは設備機器を入れ替えた程度で大きな変更はなし。左手の扉の先には洗面脱衣室や浴室があり、就寝以外の生活は2階で完結できる間取りとなっている
洗面脱衣室。水まわり機器は最新のものに入れ替え、暮らしの質をアップデートしている
洗面脱衣室。水まわり機器は最新のものに入れ替え、暮らしの質をアップデート

ご家族にとって家づくりの一番の思い出の一つは、室内の漆喰系の塗り壁をみんなでDIYして仕上げたこと。「子どもたちにも、トイレの壁などを塗ってもらいました。面積が広くて作業は大変でしたが、トイレに入るたびにほっこりし、良い経験になりました」とご夫妻は微笑みます。

室内の壁は、家族みんなで約1週間かけて塗り直したそう。「大変な作業でしたが良い思い出になりました」とNさん
室内の壁は、家族みんなで約1週間かけて塗り直したそう。「大変な作業でしたが良い思い出になりました」とNさん
ダイニング隣の大容量の本棚は今回新たに造作されたもの。造り付け家具や建具は造作にこだわるのも加藤建築ならでは
ダイニング隣の大容量の本棚は今回新たに造作されたもの。家具や建具の造作へのこだわりも加藤建築ならでは
南面の大きな窓からたっぷりの光が射し込むリビング。テレビ背面などの杉板貼りの意匠も元の家のものをそのまま生かしている
南面の大きな窓からたっぷりの光が射し込むリビング。テレビ背面などのスギ板張りの意匠は、既存をそのまま生かしている

ダイニングの近くに鎮座する「イエルカの薪ストーブ」も目を引きます。既存の家には北側の壁沿いに薪ストーブが置かれていましたが位置を移動させ、Nさんがほれ込んだこの薪ストーブを設置しました。

断熱改修で躯体性能を高めたことで、2階の大空間も薪ストーブ1台で気持ちよく暖まります。奥さんは四国のご出身のため、山形の冬の寒さに体が慣れず、冬場はいつも顔がこわばっていたそうですが、この家で暮らし始めてから笑顔が増えたそうです。

Nさんの希望で導入したイエルカの薪ストーブ。野菜や肉、魚を焼いて食べたり、りんごチップスを作ったりと調理面でも大活躍している
Nさんの希望で導入したイエルカの薪ストーブ。野菜や肉、魚を焼いて食べたり、りんごチップスをつくったりと調理面でも大活躍している
敷地内に並ぶ大きな薪棚もほぼ既存のもの。Nさんはりんご農家なので、畑で出るりんごの木の枝などを薪として活用している
敷地内に並ぶ大きな薪棚もほぼ既存のもの。Nさんはりんご農家なので、畑で出るりんごの木の枝などを薪として活用している

「もともとつくり手の良さが現れている家でしたが、必要に応じて手を加えた結果、自分たち家族にぴったりとフィットする家になりました」とご夫妻。前の住人だった加藤さんも「愛着のあった家を、こうして大切に住み継いでもらえるのは本当に嬉しい」とにっこり。双方にとって喜びの大きい、未来へつながるリノベーションとなりました。