vol.004／「湯水のごとく」なんてとんでもない！給湯こそ省エネ・健康のカギ

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節湯、一番のお薦めは？

お筆者が一番お薦めしたいのは、「節湯型浴槽」です。少ない湯量で水位を稼ぐよう工夫された浴槽を選んでおけば、その後の10年20年、ずっと燃料と水の大きな節約に直結するのです。逆に男のロマンである檜風呂は大概「真四角」ですので、水位を確保しようとすると膨大な湯が必要。こうした「素材派エコ」は要注意です（図18）。

図18　素材派エコ？にはご用心
どちらの浴槽も同じだけ180Lのお湯をいれています。右の節湯タイプの浴槽は形状の工夫で水位が高くなっていますが、左の檜風呂は水位が低すぎます。こうした真四角な浴槽で入浴すると大量の水とエネルギーがムダになってしまいます。

ちなみに設備業界は、この「節湯型浴槽」に非常に後ろ向きです。おそらく彼らは、もっと儲かる大きなホーロー・大理石浴槽への悪影響を恐れているのでしょう。最近は実使用時を想定した70%水位湯量を表示している浴槽もありますから要チェック。無駄な湯で損をするのは結局自分だということを忘れないで下さい。

ハダカになる水まわり。温熱環境は特に大事

ここまでの給湯設備の話とともに、省エネで快適・健康な生活のためには、水まわりの温熱環境もとても大事です。「入浴で年間1万7千人が亡くなっている」というショッキングなニュースを聞かれた方も多いでしょう（図19）。暖房の効いた居間から凍える脱衣室・浴室で脱衣・入浴を行う一連の流れは、血圧の大きな変動を招き非常に危険（図20）。水まわりは住宅の中で特にリスキーなレッドゾーンになってしまっているのです。

図19　入浴で死亡する人は年間1万7千人？（出典：東京都健康長寿医療センター研究所）
東日本23道都県の消防本部を対象にアンケートを行ったところ、2011年の1年間に4252人の高齢者が心肺機能停止に陥っていることが明らかに。全国での推定は不搬送を含めると、実に１万７千人に達すると試算されました。年齢は80歳以上、時期は冬期に集中していました。

図20　入浴行動に伴う最高血圧の推移と健康リスク
暖房の効いた居間に比べると、浴室や脱衣室の温熱環境は劣悪といえます。そこで裸になったり熱い湯につかるのですから、身体ストレスが大きいのは当然で、さまざまな危険がひそんでいます。

図21をご覧ください。人工環境試験室（外気条件7℃）で、同じユニットバスを無断熱（上段）と断熱＋暖房（下段）した場合を比較しています。みなさんはどちらの浴室に入りたいでしょうか？

図21　浴室内の温熱環境
大学の中の人工環境実験室内において、断熱と暖房を変更して入浴実験をした際のサーモ画像です。暖房は床暖房と浴室暖房を併用しています。ハダカで入る浴室。どちらが適当かは一目瞭然です。

筆者らが2000人を対象に行ったアンケートによると、浴室を「非常に寒い」と感じている人では、めまいやのぼせ・転倒が非常に多くなっています（図23）。また、浴室が寒いと浴槽やシャワーの湯を熱めにする人が増えています（図24）。これは給湯の増エネになるだけでなく、体へのストレスも増やしてしまいます。

図22　浴槽入浴時の温熱環境
寒い浴室での入浴風景をサーモカメラで撮ると、かなり「異常」な状況であることが実感できます。浴室の温熱環境を改善し、湯の温度を下げることが快適で健康な入浴につながります。

図23　寒い浴槽はめまい・のぼせの元
冬の浴室を「非常に寒い」と感じている人ほど、めまいやのぼせなどのトラブルを経験していることが分かります。

図24　寒い浴室ほど熱い湯がほしくなる
浴室が寒いほど、浴槽やシャワーの湯を熱くしていることが分かります。浴室空間の寒さを湯の熱で補うため、エネルギーもかかりますし、体へのストレスも大きくなります。

浴室のタイプとしては、図25のようにタイル貼りなどの古い在来浴室ほど寒く感じる人が多い一方で、ユニットバスの物件は年代によらず暖かい場合が多いようです。最近は高断熱型のユニットバスも登場していますから、特に寒冷地では優先して選びましょう。

図25　在来浴室はユニットバスに交換を
タイル張りなどの在来浴室、特に築年数の古い住宅では、寒く感じている人が多く見られます。リフォームの際にはユニットバスへの交換がおすすめです。

図26は、浴室暖房の設置状況です。集合住宅にはビルトインの浴室暖房機が高い割合で設置されていますが、残念ながら集合住宅では風呂はあまり寒くありません。逆に肝心の寒い戸建住宅にはあまり浴室暖房機が設置されていません。

図26　浴室暖房機は肝心なところについてない
浴室暖房の設置状況です。集合住宅には浴室暖房機が多く設置されていますが、集合ではそもそも寒いと感じている人があまりいません。肝心の寒い戸建ての設置率は低く、リフォーム時には設置の必要性を検討するべきでしょう。

また浴室ばかりでなく、服を脱ぐ脱衣室の温熱環境も肝心です。図27は脱衣室での暖房設置状況です。古い戸建てを中心に、電気ストーブなどを持ち込んで寒さをしのいでいる様子が伺えます。

図27　服を脱ぐ脱衣室にこそ暖房がほしい
脱衣室における暖房設備の設置状況です。築年数の古い戸建では、ポータブルの暖房設備を持ち込んでいる人が多くいます。リフォーム時にはビルトインの暖房の必要性とあわせ、脱衣室そのものの断熱強化も検討する必要があるでしょう。

新築はもちろんとして、リフォームの際にも水まわりに手を入れる機会は多いと思います。高効率な給湯設備への更新と併せ、ユニットバスと脱衣室の高断熱化をまず徹底し、必要に応じて安全な暖房設備の設置を検討するのが重要です。当たり前ですが、浴室が暖かいほど入浴の満足度は高くなっています（図28）。凍える体を熱湯の風呂で加熱するなどという習慣は、そろそろ終わりにしなければなりません。