木を生かす手刻みの技術と
木組みの美しさが家づくりの指針
あらかじめ加工された部材を扱うプレカット工法が主流となった昨今、大工といってもその技量はさまざま。その中にあり、荒木から部材を削り、継ぎ手の切り込みなどを手作業で仕上げる伝統技術を受け継ぎ、家づくりを進めている会社が北海道岩見沢市にあります。
武部建設では、在来工法の躯体となる木材同士をつなぐ継ぎ手の切り込み作業も自社大工が手作業で行います。きっかけは、古民家再生事業を手がけたときのこと。作業のほとんどを大工の手仕事に頼る古民家の再生を通じて、築年数をはるかに上回る古民家が持つ本物の確かさと、伝統構法の木組みの美しさが同社の家づくりの指針となりました。
地域工務店として人のチカラの大きさ、大切さを認識すると同時に、業界では大工不足が問題になり始めており、長く住み継がれる住まいをつくるためにも、大工の育成は地域工務店としての実現しなければならない課題でした。同社は1995年から自社大工の育成に取り組み、現在はJBN・全国工務店協会の連携団体である北海道ビルダーズ協会の大工育成委員会で中核を担う存在となっています。
熟練の大工から
若手へ受け継がれる技
武部建設の無駄をそぎ落とした洗練された美しさに、温かさと懐かしさを併せ持つ空間づくりの秘密は「構造即意匠」といわれる伝統的な大工仕事にあります。作業場は、熟練の大工がこれまで蓄えてきた知恵と経験を若い大工に伝える道場。若手大工たちはここで伝統的な「手刻み」の技を徹底的に学びます。一人100本以上持っているという手道具の手入れは、毎日欠かすことがありません。
2018年から改めて見習い大工の育成にも着手。現在、武部建設で活躍する5名の新人大工のうち、2名が女性です。2021年4月には高校を卒業した2名が入社しており、若い力の育成に精力的に取り組む姿勢がうかがえます。
最新工法でも古民家再生でも、必要なのは技術と経験。先人が培ってきた伝統の上に現代のニーズに適応した技量を積み上げ、どんな仕事がきても「腕」で応えられるようにと、日々研鑽を続けています。
Case1.
日本の伝統技術と最新省エネ技術が融合する 温故知新の住まい
最新技術で、伝統工法の住まいを再構築した現代の「北の民家モデル」の住まい。道産カラマツ材と道産材料の漆喰を用い、50代の棟梁を筆頭に、2名の若い大工がチームを組んで、新築工事に当たりました。棟梁が昔ながらの手法で図面を手板に写し、それに沿って墨付けした部材を若い大工たちが手刻みで加工。また、込み栓、楔を使った継手仕口、通し貫、渡り顎工法などの伝統技術を駆使しながら完成させました。
Case2.
小さく豊かに暮らす 道産カラマツの家
南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジに立つ、道産カラマツの外観と薪ストーブが印象的な住まい。「コンパクトでもいいから道産木材をたくさん使いたい」というご夫妻の希望のもと、外部とゆるやかにつながる30坪の空間には、カラマツ、エンジュなどの素材がふんだんに使われています。玄関から直接アクセス可能な収納や手洗い場、テレワークにも使えるゲストルームなど、今の暮らしにマッチした動線も備えています。
Case3.
暮らすほどに艶めく 変形敷地の小さな木の家
「武部建設の大工さんの技術を大切にする真面目な社風が印象的でした」というご夫妻が選んだのは、豊かな自然環境に隣接する旗竿変形地。玄関から間仕切りなしでつながるリビング・ダイニングには、背後に広がる林や公園を一望する大開口が設けられ、外部の自然が室内に染み込みます。壁面いっぱいに本棚を設けたスチール階段や収納カウンターで間仕切りした造作キッチンなど、ご夫妻の生活動線や趣味にもフィットする無駄のない空間となりました。