「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。
注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。
建築家と自由な発想で家を建てて16年(取材時)。当時7歳だった息子さんは24歳に。どこにいても家族の気配を感じるひとつながりの間取りで、今も家族3人が仲良く暮らす青森の住まいを訪ねました。

当初はマンション購入を検討していたKさんご夫妻が、自分たちらしい暮らしの場を模索するなかでたどり着いたのは、建築家との家づくりでした。なかでも特にKさんの興味を引いたのが、アラハバキ建築研究所の今 隆さんです。「何を相談しても『いいねえ』と肯定する今さんが面白くて」と、Kさんは当時を思い起こします。

今さんは、雑談のなかからKさんの思い描く暮らしの要素をすくい上げ、模型にして提案します。それは間仕切りがほとんどない家。今でこそ、ひとつながりのオープンな間取りは珍しくありませんが、当時は個室があるのが当たり前。その既成概念にとらわれないプランに、Kさんは今さんとの家づくりを決断したといいます。



Kさんが間仕切りのない住まいを希望した大きな理由は、子育てでした。「自分の経験から個室があると子どもが悪いことをすると思った」と笑顔の父の隣で、「個室がなくても悪いことはするよ」と応じるのは24歳になった息子さん。高校生の頃、個室を欲しがった時期もありましたが「今はもう何とも思わないですね。仕事で夜遅いので音とか気は遣うけど、両親は関係なく寝てるからまあいいかって」。その言葉にご夫妻は「音には慣れました」と笑います。
間取りが生んだ家族のオープンな関係は、トイレ・洗面・浴室がワンルームの水まわりの使い方にも垣間見えます。まずドアに鍵を付けていません。誰かがトイレにいるときに、気にせず入って洗面台を使うのも日常的なことだそう。「将来自分で家を建てるなら、こういうオープンな間取りの家がいい」という息子さんの言葉に、感無量な様子のKさん。暮らしを通して、親が願った「家族」への想いが、年月を経て子へと確かに受け継がれていました。
● Before・After
変わらないこと|高価な材料を使わず、普通であれば仕上げ材に隠れる構造をそのまま現しにしたこの住まいは、デザイン的にも古びることのない、力強く豊かな空間のまま。プライバシーや音の問題を心配したワンルームの空間は「開放感と居心地の良さ」を家族にもたらし続けています。
変わったこと|敷地内の木々が豊かになり、7歳だった息子さんも24歳に。外観やスペースの使い方は形を変えない一方で、自由に育つものたちを包み込むおおらかさを備えている。
青森県弘前市・Kさん宅 家族構成/夫婦50代、子ども1人
建築データ
構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/107.35㎡(約32坪)
<主な外部仕上げ> 屋根・外壁/ガルバリウム鋼板、建具/玄関ドア:木製建具、窓:アルミ樹脂複合サッシ
<主な内部仕上げ> 床/欧州トウヒ、壁・天井/木構造現し
<断熱仕様 外張断熱> 基礎・壁/押出法ポリスチレンフォーム(B3)50㎜、屋根/押出法ポリスチレンフォーム(B3)65㎜
<暖房方式> 床下放熱暖房システム
工事期間
平成15年1月~5月(約5ヵ月)