「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。
注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。
息子さんの小学校入学を前に、家づくりを考えたIさんご夫妻。建築家・手島浩之さんに設計を依頼し、新居を構えたのは2008年の春でした。昔からインテリア雑誌を愛読し、家を建てるなら建築家にと決めていたIさんは「手島さんが設計した家はどれもインパクトがあって、特に陰と陽の使い方が印象的でした。カッコイイと思う価値観が一緒だったことが依頼した理由です」と、当時を振り返ります。
完成したのは、庭に埋もれるような設計の平屋建て。内に閉じつつも開放感あふれるこの家は、ハコのような大空間の中央に収納コア、そのまわりを囲むようにLDK、寝室、子ども室が配されています。このミニマムなプランについてIさんは、「息子をこの家や土地に縛りたくないと思い、将来の夫婦2人暮らしを前提とした家にしました」と話します。
息子さんの思春期に備えて間仕切り壁用の金具も付けましたが、結局はそのまま。小学1年生だった息子さんは、取材時には高校3年生になっていました。「反抗期だけど、反抗してこもる場所がないからね…」と笑うご夫妻ですが、個室がない分、最近は意識的にご夫妻で外出する機会を増やすなどして、息子さんが家で1人で過ごす時間を持てるよう工夫しているといいます。
自分たちの「カッコイイ」を叶えた愛着ある家だからこそ、メンテナンスも欠かしません。Iさんは愛車を扱うように、年に1度は外壁を水洗いして状態をチェック。その甲斐あって、白い外壁は新築のような美しさを保っています。
最善を尽くして建てたお気に入りの家だから、不便があったら暮らし方で柔軟に対処し、手入れを重ねて快適を保っていく。普遍的なデザインを纏うこの家は、大きく育った欅の下でIさんご家族の変わらない心地よさを守り続けています。
● Before・After
変わらないこと|時代に左右されない普遍的なデザインで、11年を経た取材時も古さをまったく感じさせない空間となっていました。いつまでも心地よく愛着を持って暮らすためには、好きが詰まった家づくりにこだわることも大きなポイントです。
変わったこと|外壁を兼ねたシンプルな白い塀の中に、路地の延長を意識した黒いトンネル状の「エントランススペース」、庭を楽しめる半地下の「居室スペース」、家の中央に集約した「収納コア」という3つのパートがデザインされました。11年を経てアイレベルにある庭の樹木は大きく生長し、「箱庭や盆栽の中に住んでいるような生活」を実現させています。
宮城県仙台市・Iさん宅 家族構成/夫婦50代、子ども1人
建築データ
構造規模/鉄骨造・平屋建て
延床面積/93.08㎡(約28坪)
<主な外部仕上げ> 屋根/シート防水、外壁/窯業系サイディング、建具/玄関ドア:木製片開扉・St製片開扉(内部断熱材入)、窓:LIXIL 断熱アルミサッシ デュオPG・三協アルミ ヘーベシーベ
<主な内部仕上げ> 床/カバザクラフローリング、壁・天井/PB AEP塗装
<断熱仕様 充填断熱> 基礎・床下/スタイロフォーム50㎜、壁・天井・屋根/グラスウール24㎏100㎜
<暖房方式> 深夜電力蓄熱式暖房
工事期間
平成20年1月~5月(約5ヵ月)