家の内側と外側をつなぐ重要な役割を果たす「窓」。住まいの中にいながら、外とつながりを感じて暮らすことは、日々の快適性に大きな影響を与えます。日常生活の中では窓について深く考えることはあまりないと思いますが、いざ家づくりを考え始めると、位置やサイズ、機能など、検討事項がさまざまあります。今回は土地の形状や周辺環境を読み解き、窓の付け方の工夫を凝らした3件の実例をご紹介します。
Case.1 窓と視線
この住まいが建つのは、6mほど高低差のある急斜面が全体の3割を占める三角の変形地。北東側には大きなマンションが建っているものの、南側には地形の起伏を生かした楽しげな公園が広がり、西側斜面はまるで小さな森があるかのように木々が四方に枝を広げている立地です。プランニングにあたっては、日常生活の視線に連動してこの魅力的な景色を切り取ることがテーマになりました。
プランは、屋根からの落雪を考慮してLDKを地面から持ち上げ、半階下は玄関・水まわり、半階上は個室という配置。家全体は間仕切りのない一室空間となっており、視線が立体的に結ばれます。
LDKには、西側に向けてワイドな大開口が設けられ、木立の緑を室内に取り込みます。プライバシーを確保しながら高い位置で公園の緑へ視界を導く南側の窓や、個室から朝方の光をリビングに引き込む東側の窓も同様で、一体化された内部空間に景色を運びます。どこの窓を見ても四季の移ろいが目に飛び込んでくるよう考えられた、多角形の間取りと窓の配置が特徴的な住まいです。
設計/キタウラ設計室 北浦 丈士
Case.2 窓と光
マンション・アパート・戸建て住宅に囲まれた、間口7.8m、奥行き26.7mという東西に細長い敷地に建つこの住まい。眺望が望めない住宅街において、いかに開放的に豊かな光の空間をつくるかがテーマでした。その実現のため「中ノ庭」と名付けた、中と外の間にもう一つの空間をつくり、南面全長に設けたハイサイドライトから採り込んだ外光を、中ノ庭を介して各スペースに届けるようにしているのが、この家の最大の特徴。この中ノ庭は大きな白い反射面としても機能します。
2階の居室には、中ノ庭に面して開けられた室内窓があり、上述した採光の面のみならず、外部空間がもたらす開放感も存分に味わうことができます。また、空を切り取る窓、紅葉の借景を見る窓、白い反射面としての壁が見える窓といった具合に、2階のそれぞれの窓からは多様な光と景色が感じられます。プライバシーを保ち、かつ効果的に豊かな光を導入するために構想した立体的な窓配置で、住宅密集地でも豊かな光の空間を実現させている1軒です。
設計/iwasawa design 岩澤 浩一
Case.3 窓と光・風
シンプルな家型に立体感のある窓をくっつけたような、個性的なデザインのこの住まいが建つのは、準防火地域に指定された住宅地内。準防火地域の場合、火災時の延焼を防ぐためさまざまな制限があるのですが、窓も防火サッシと網入りガラスによる防火設備にするという基準があります。一般地域に比べ開口部のコストがとても高くなるため、賢い開口部の設計が求められます。
陽光・風・風景を最適な形で取り入れるために、季節毎の太陽の動きと隣接する住宅による日陰のシミュレーション、気象庁のデータによる風向の分析、敷地から見える川の対岸の樹木に抜ける視線などを計算し導き出されたのが、今のいびつな凹凸のあるファサードと、スキップフロアにより構成されたワンルームの内部空間です。寝室の窓から入った陽光はリビングまで伸び、さらに右側の高窓へと風が抜けていきます。テラスに面した2面の開口部も、住まいに明るさと面積以上の広がりを与えるなど、土地の規制を巧みにクリアしながら、光と風を室内へ運ぶプランとなっています。
設計/SATO+ARCHITECTS 佐藤 充
陽射しを取り入れたり、風通しを生み出したり、美しい景色を切り取る一方で外からの視線を遮る工夫やお隣と向かい合わせにならない工夫が求められたり。窓は暮らしを大きく左右する要素の一つです。最近は窓の性能が上がり、北海道のような積雪寒冷地でもプランの自由度が大きく向上しています。住まいづくりとその後の暮らしのあらゆる部分に大きく影響を与えるからこそ、プランニングの際は窓のことも真剣に考えてほしいと思います。