「本物」を選ぶことは
「本質」を見抜くこと
河村 自然素材に囲まれて暮らしているとまろやかな気持ちになり、本来の心に戻れるような気がします。さらに突き詰めていくと、西條さんがおっしゃるように環境問題や持続可能性の実現といった、現代的な問題意識にもつながっていきますよね。
西條 エコロジー建築が盛んなドイツの人曰く「日本古来の草と木、土で出来ている茅葺き屋根の家は建築のルーツであり、理想」だと。自然素材でつくられた家は「第3の皮膚」とも呼ばれ、五感すべてが心地よく満たされて、快適に呼吸ができます。さらには、土に還ることができます。人にも地球にも優しい住まいは、「本物」を選ぶことの大切さを教えてくれているように感じます。
河村 僕はね、子どもたちに「本物とは何か」を教えてくれる価値あるものを残したい。そんな想いもあって、一切の妥協をせずに札幌の家づくりに取り組みました。その結果、この家を見た子どもたちが「受け継ぎたい」といってくれて、僕の願いは叶いました。東京に住んでいる娘は、無垢材のホワイトオークの床に触れて「素足で感じたくなる床」と言ってくれたんですよ。
西條 そういえば河村さんは「代々受け継がれる古民家のような家にしたい」とおっしゃっていましたね。本物の材料を使うことは、結果としてリユースにつながり、環境に過度な負荷をかけない暮らしにもつながると思います。
河村 現代の暮らしや農業を見ていると人工的、化学的なモノは、必ず何かしらの問題が起きる。でも、自然のもの、例えば木材ならほかのものにつくり変えることができ、人に害を及ぼすこともありません。そして、やがて土に還っていく。本物のシンプルさが、暮らしや生き方までも楽にしてくれるんじゃないかと思います。「温故知新」の心を忘れず、モノの本質、本物を見抜くこと。それを自分の子どもたちだけではなく、多くの若い人たちに伝えたいですね。
西條 河村さんのお話をうかがっていて、伊達市で過ごした幼少期は、日本の昔の暮らしが息づいていたことに気づきました。海や畑、畜舎がまわりにあって、自給自足に近い生活。まさにそれは、僕が大事にしてきた「接続可能な暮らしのデザイン」に通じるところがあります。河村さんがおっしゃるように時折、古き時代を振り返ることも大切ですね。今日は楽しいお話をありがとうございました。
心豊かな暮らしのヒントがここに。
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