和紙や無垢の木を生かし
都市の中でも自然と暮らす

西條 私のところにリフォームの相談に来られたきっかけも、内装に使いたいとご自身で探された和紙でしたね。

河村 かつて故郷の京都で15年かけて町家の修復を手がけたときに、壁に貼ったのが和紙。風合いが良く、汚れたら重ね貼りができ、重ねるほどに味わいが増していく和紙を、札幌の家の壁と天井に貼りたいと考えました。それで表具屋さんを探し出し、自然素材を生かしたリフォームを依頼できる会社を尋ねたら、西條さんを紹介してくれたんです。ほかの知人たちも口をそろえて「西條さんが良い」と勧めるし、これは必然だと思いました。

壁は、壁紙用につくられた風合いの良い和紙に貼り替え
壁は、壁紙用につくられた風合いの良い和紙に貼り替え
江戸時代の古書の保存状態からも、和紙の強度がよく見て取れる

西條 和紙のほかにも、ストックされていたケヤキやナラ、トドマツの一枚板、床材のホワイトオークの無垢板など、施主支給の材もたくさんありました。それらの材料を生かして床と壁、階段、建具、造作収納などを一新したいと。

工期が限られていたので、上張り仕上げが主な工事でしたが、プランにのっとって進める従来のリフォームとは少し勝手が違って、勢いと柔軟さが求められた緊張感のある現場。インテリアデザイン時代からつき合ってきた気心の知れた大工さんが材を上手く収めてくれて、ホッとしました。

リフォームでは、ホワイトオークの無垢床をはじめ、ナラはキッチンカウンター、トドマツはキッチンの壁、ケヤキは腰壁など、河村さんが収集していた材を随所に生かした
玄関収納の建具や建具枠には、狂いが少ないよう、柾目のスプルース材を用いた。「柾目の材は100年、200年ともつし、眺めているだけで安らぐ。それを見ながら暮らしたい」と、河村さんは材の選定にも徹底的にこだわった
玄関収納の建具や建具枠には、狂いが少ないよう、柾目のスプルース材を用いた。河村さんは「柾目の材は100年、200年ともつし、眺めているだけで安らぐ。それを見ながら暮らしたい」と、材の選定にも徹底的にこだわった
既存の形状や手すり金具などを生かしながら、ホワイトオーク材で張り直した階段。幅木も無垢材にこだわった
既存の形状や手すり金具などを生かしながら、ホワイトオーク材で張り直した階段。幅木にも無垢材を使用

河村 家を購入したのは昨年の3月でしたが根雪になる前には住めるようにしてほしいとお願いしましたね。無茶な話と分かっていても、大雪に怯えながら過ごす冬とは決別したかった。実質2ヵ月という短い工期だったのに、自然素材を生かしきった的確な仕事ぶりと仕上がりに満足しています。どこを見ても、技で生きている大工や職人の手仕事の感じが伝わってきて、嬉しくなりました。

おかげで都会の現代の家に住みながら、天然素材に包まれた暮らしが叶いました。それも「コスト管理が必要だとしても、幅木にさえもプラスチックは使いたくない」という私のこだわりをきちんと受け止めてくれたからだと思います。なんていうのかなぁ、プロ同士のモノづくりが実現できた、そんな気がするんですよ。

西條 僕は、河村さんが美流渡の家づくりから一貫して続けてこられた「ないものをとことん探す」という先駆者的な生き方に刺激を受けました。驚いたことに、美流渡の家は40年経っても経年劣化が見られません。やっぱり、本物の自然素材を生かし、手を入れながら暮らすって本当に大事なことなんだと改めて痛感しました。

家の外には、河村さんが研究開発した「草取り知らずの敷きつめ堆肥」を用いた坪庭。「家と庭がそろって初めて家庭になる。都市部でも手軽に緑を楽しめる癒やしの坪庭をつくりました」と河村さんは笑顔を見せる
家の外には、河村さんが研究開発した「草取り知らずの敷きつめ堆肥」を用いた坪庭。「家と庭がそろって初めて家庭になる。都市部でも手軽に緑を楽しめる癒やしの坪庭をつくりました」と河村さんは笑顔を見せる

メイドイン北海道の素材に
こだわる「自然派住宅」を実践

河村 西條さんが自然素材のチカラに目を向けた、そもそものきっかけは何だったの?

西條 事務所兼家づくりを考え始めたのが、ちょうど世間でシックハウス症候群が問題視され、対応商品が出始めた頃。うちの長女はアトピー性皮膚炎、長男は食物アレルギーで、妻が食事にとても気を使っていました。それで、空間づくりにも健康な素材を使ったほうが良さそうだと考え、いろいろと調べ始めたのがきっかけです。

その中で知ったのは、シックハウス対応建材の知識が豊富な建築業者が少ないこと。ならば家族のためにも、できる限り木や土、紙などを使う「自然派住宅」づくりを目指そうと決め、試行錯誤しながら自宅兼事務所をつくり上げました。その経験から「僕らと同じ悩みや思いの人がたくさんいるのではないか」と考え、自分で「自然派住宅」を提案していこうと思い至ったんです。

「家は、木と土と紙でつくりたい」。それがビオプラス西條デザインが考える家づくりの理想
「家は、木と土と紙でつくりたい」。それがビオプラス西條デザインが考える家づくりの理想

河村 うちも娘がアレルギー体質で、いつの間にか僕も体調が悪くなって。何か改善方法がないかなぁと考えたときに「食が体をつくる」と気づいて、玄米食に替えたんですよ。そうしたら、だんだん体調が良くなった。天然のものって体に直接働きかけてくれるんだなって痛感しました。しかし、専門知識も経験も少ない業者さんがアレルギーの心配がない家をつくるとなると、確かに難儀なことでしょうね。

西條 あまり知られていないですが、一般的な木造住宅では200㎏もの接着剤が使われます。構造用合板も、合成接着剤で板を張り合わせた製品ですし。僕たちは構造材には無垢の木を、断熱材には新聞古紙をリサイクルしたセルロースファイバーを用いるなどして、建物の裏側まで素材選びを徹底しています。それで初めて、真に身体に優しい住まいが出来ます。効率やコストを追求すればするほど、素材の選択が難しくなるのが現状ですが…。

ただ過敏体質の方は、天然由来の素材に生来備わっている化学成分に反応してしまうこともあります。ですので僕は、一人ひとりの事情を細かく確認しながら、リスクの低い材料を提案しています。

内装仕上げ材や建具など表に見えている部分はもちろん、構造材や断熱材、接着剤など、完成すると隠れて見えなくなる部分まで素材選びを徹底している
内装仕上げ材や建具など表に見えている部分はもちろん、構造材や断熱材、接着剤など、完成すると隠れて見えなくなる部分まで素材選びを徹底している

河村 「天然だから何でも良い」というわけではないと。なるほど、納得です。

西條 素材やデザインは「北海道らしさ」にもこだわっています。特に材木は、ほとんどが北海道産。輸送エネルギーの削減だけでなく、海外の森林破壊の抑制にもつながりますから。北海道で50年かけて育った木で家を建て、そこに50年暮らす間に、次の世代が家を建てるための木が育つ。無理なく循環していくサスティナブルな建築が実践できるのも、メイドイン北海道の自然派住宅づくりの重要な側面だと思っています。

全体的に木をふんだんに使ったデザインが特徴で、白木仕上げのシンプルな北欧風から、古色塗りで仕上げた古民家風まで、住まい手の好みに合わせた幅広いテイストに対応する
全体的に木をふんだんに使ったデザインがビオプラス西條デザインの家の特徴で、白木仕上げのシンプルな北欧風から、古色塗りで仕上げた古民家風まで、住まい手の好みに合わせた幅広いテイストに対応する