「家を持ちたい」と思ったとき、今どんな暮らしをしたいかをイメージしながらあれこれと計画を練る楽しみは家づくりの醍醐味です。しかし、その家で過ごす10年後、15年後の暮らしがどんなものになるか、イメージすることは少し難しいかもしれません。
注文住宅を建てたり、リノベーションをして長年住んでいる人の暮らしはどんなものなのか。新築時に思い描いていたとおりなのか、思わぬ変化が訪れているのか。築10年以上のお宅を訪問し、日々の暮らしぶりと年月を経て変わらないこと、変わったことを聞いてみました。これから家づくりを考える人に参考になるお話が、あふれています。
豊かな花木に囲まれながら、料理を楽しむTさんとNさんご夫妻の暮らしは、取材時が15年目。月日が経っても色褪せることのない心地よく穏やかな毎日を可能にしたのは、ライフスタイルに丁寧に寄り添った住まいづくりです。
カシワやナナカマド、シラカバ、ヒメリンゴにヤマザクラ。札幌市厚別区の緑地に隣接するこの場所で、大きな窓から美しい木々を眺めるTさんご夫妻の暮らしは、取材時に15年目を迎えたところでした。
Tさんご夫妻の家づくりは、何を大切にして暮らしているのか、ということを見つめ直すことから始まりました。「結婚して10年近く経ってからの家づくりだったので、夫婦の暮らし方のリズムや好みはほとんど固まっていたんです」と奥さん。家づくりをお願いしたエム・アンド・オーの湊谷さんは、奥さんの幼なじみ。「中札内の美術館に、湊谷さんを連れて行ったこともありました。そこは中に入るとカシワの林が見える横長の大きな窓があるんです。私、こういう家に住みたいの!って」と笑顔で振り返ります。
緑を見ながら暮らしたいという希望や、読書が好きなこと、趣味で集めている和骨董の話など、具体的な間取りよりも、夫婦が好きなもの・ことを伝えていきました。Tさんご夫妻がもっとも大切にしていたのが、毎日料理を「つくり」「食べる」ということ。このかけがえのない日々の習慣を、居心地のよい空間で過ごせるようにプランが組み立てられました。
スキップフロアの寝室で目覚めると、視線の先に広がる豊かな緑。家の中央に設けられたダイニング・キッチンは、大開口からの景色が謳歌できる住まいの特等席です。週末になると、奥さんは庭の花を生けて部屋に飾り、Tさんはいつもより少しだけ手の込んだ料理をこしらえます。「僕らの暮らし方に寄り添った家なので、大きな変化もなく快適な毎日を繰り返しています。15年経った今も家で過ごすのが一番楽しいです」と笑うTさん。ご夫婦の暮らし方のリズムに乗せてつくられた住まいは、変わらぬ快適な時間を刻み続けています。
● Before・After
変わらないこと|15年間暮らし方に変化がないというTさんご夫妻。新しいことをあえて取り入れず、季節の変化を楽しみながら丁寧に暮らし続けることが快適で豊かな毎日をもたらしてくれます。
変わったこと|ご夫婦2人の暮らしで家族の変化はありませんが、歳を重ねるごとに少しずつ趣味が増えて部屋の彩りが変わったり、手製の家具なども加わったりしています。メンテナンスとして外壁の塗装替えや木部のケアなどを行い、手を加えながら大切にして暮らすことで気持ちのいい経年変化を遂げています。
札幌市厚別区・Tさん&Nさん宅 家族構成/夫婦50代
建築データ
構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/94.46㎡(約28坪)(車庫含まず)
<主な外部仕上げ> 屋根・外壁/ガルバリウム鋼板、建具/玄関ドア:木製製作ドア、窓:木製サッシ 一部樹脂サッシ
<主な内部仕上げ> 床/ナラフローリング、壁・天井/ビニールクロス
<断熱仕様 充填断熱> 床下/グラスウール24㎏100㎜+圧縮グラスウール32㎏30㎜、壁/グラスウール24㎏100㎜、屋根/ブローイング30㎏相当150㎜+スタイロフォーム25㎜
<暖房方式> 蓄熱式暖房機
工事期間
平成15年11月~平成16年3月(約5ヵ月)