全館空調の普及を見越して断熱レベルを決めよう
断熱等級5〜7が新設された今、これからの新築住宅はどのレベルを目指すべきでしょうか。筆者の考えでは、等級6以上を目指すべきです。
その大きな理由は、「全館空調」の急速な普及にあります。住宅展示場に行けばすぐ気づきますが、非常に多くの住宅業者が全館空調をアピールしています。家中を24時間暖冷房するのは海外(特にアメリカ)では以前から当たり前ですが、なぜか日本では普及せず、人がいる部屋だけ暖冷房する「部分間欠空調」が一般的でした。ようやく最近になって、室内の寒暖差がヒートショックの原因になることが知られたせいか、全館空調が普及し始めたのです。
HEAT20の試算では、断熱等級5で全館空調を行うと、断熱等級4の家で部分間欠空調をした場合より増エネになってしまいます。全館空調は家中が暖められるので健康・快適なのは間違いありませんが、脱炭素化の流れの中で増エネになってしまうのは困ります。
健康・快適と省エネの両立。これからは断熱等級6が基本
断熱を等級6まで強化すると、等級4×部分間欠空調と同じエネルギーで、全館空調を行うことが可能です。健康・快適と省エネ・脱炭素を両立させるのに必要な基本性能が、等級6と言うことができるでしょう。 もちろん、部分間欠空調のままでも、室温や暖房エネルギーは等級が上がるほど大きく改善されます。筆者はさまざまな断熱レベルの家を見学する機会が多いのですが、遠赤外線カメラで室内の表面温度を見ると、その差がよく分かります(図2)。
特に、足元の暖かさが決定的に違います。これまでの等級4はもちろん、ZEHレベルの等級5では「こんなものかな」という感じだったのが、等級6になると「これは暖かい」と誰もが実感できます。 せっかく家を新築したのに、電気代が心配だから家中を暖房できない、というのはもったいない話です。後で後悔しないためにも、これからの家では等級6以上の断熱をしっかり施すことを強くオススメします。
もちろん、暖かい家にするためには、断熱等級が定める性能値(外皮平均熱貫流率UA値)以外に必要な要素はいろいろあります。この連載でも引き続き取り上げていきたいと思います。
窓は断熱最大の弱点。壁の10倍も熱が逃げる
日本の断熱がここまで停滞した大きな原因の一つが、「窓の高断熱化が遅れた」ことです。日本の窓は「障子」から進化した経緯があるからなのか、アルミサッシ+単板ガラスの大きな引き違いがずっと一般的だったのです。
経産省は「建材トップランナー制度」により、窓の断熱性能を引き上げようとしますが、当初の目標が低かったこともあり、効果がありませんでした。窓の断熱性能は、熱の逃げやすさの指標である熱貫流率U値で示され、この値が小さいほど高断熱になります。壁に断熱材を普通に詰めるとU値は0.4程度ですが、窓のU値は2020年の出荷平均で3.41。つまり、日本で売られている窓は、壁の約10倍、熱が逃げやすいことになります(図3)。
窓の断熱性能目標値を2030年に向かって引き上げ
さすがにこれでは性能が低すぎるということで、経産省は2030年に向けて、トップランナーの目標をU値平均で2.08に強化することを検討しています。一方で、海外でははるかに高断熱な窓が必須とされており、ドイツではU値が1.3より大きな窓は禁止されています。つまり、日本ではドイツではとっくの昔に禁止された低断熱窓がほとんどであり、2030年になっても状況は大して変わらない、ことになってしまいます(図4)。
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