服飾デザイナーに憧れつつも
大きな仕事を機に建築に没頭
山形を中心に活躍する秋葉アトリエの秋葉圭史さん。設計事務所を営む父の背中を追って高校・大学とも建築系の学校に進みましたが、意外にも「本当はファッションデザイナーになりたかった」といいます。中学生の頃からメンズ系ファッション誌を愛読。高校3年の時には県内一のおしゃれボーイとして誌面に登場して、全国ランキングでも1位に選ばれ、デザイナーの夢はますます膨らんでいきました。
しかし、現実はそう思い通りにはいきません。デザイナーの夢を抱きつつ、大学卒業後は仙台の建築家の下で働き始めます。そこに大きな転機が訪れました。宮城国体に向けた宮城スタジアムの設計コンペに通り、設計監理を任された秋葉さんは、いつしか建築の面白さにのめり込んでいったのです。「元々やりたかったのはファッションのコーディネートですが、建築設計も同じくコーディネート。色々な要素、意見、アイデアをとりまとめてつくり上げるダイナミクスや、統合者としての立場を学んだ仙台での10年半は、今の私の礎をつくった時期でしたね」と振り返ります。
大仕事を完遂した後、秋葉さんは地元山形に戻ります。2002年からは父の設計事務所を引き継ぎ、より多様な展開を目指して名称も「秋葉アトリエ」と改めました。
「斜め」の設計も必然から。
人の動きを考えたデザイン
秋葉さんは設計の際、地元で育った木材を積極的に活用したり、住まい手の育った地域ゆかりの素材を取り入れたりして、住む人や使う人のバックボーンに寄り添うことを大切にしています。そして、できるだけ気持ちが高まるような、人の心を動かす「エモーショナルな空間デザイン」にこだわってきました。開放感、臨場感、郷愁、落ち着き…等々、さまざまなシーンを輝かせ体感できるようなデザインの追求。そのための重要なポイントとして、秋葉さんは「人の動きをしっかり把握すること」を挙げます。
いうまでもなく、住まい手の動きに合わせた設計は、心地よさや使い勝手の良さにつながりますが、秋葉さんの考え方はもっと徹底しています。「人の動きはとても曖昧です。例えば壁が直角だからといって90度に動くことはできないし、既製のサイズやカタチに合わせて動こうとすれば使いにくい。私のデザインには『斜め』が多いとよくいわれますが、それは効率や納まりを優先していないからです。既成概念にとらわれることなく、たとえ『斜め』であっても使い勝手や居心地の良いデザインにしたい。それがメリハリのある暮らしの場になると思う」と強調します。
コーディネート力を生かし、
広がる活動のフィールド
今後は、より「トータルコーディネートの力」で選ばれる建築家でありたいという秋葉さん。飲食店ならば「料理を口に運ぶまでがデザイン」と捉え、テーブルウエアまで提案。一般住宅では、オリジナルの家具やインテリアの提案から製作まで丁寧にコーディネートし、エモーショナルな空間を演出したいと考えています。「オリジナルデザインは『一期一会』が大切。一棟一棟、一人ひとりにしっかり向き合っていきたいですね」。
また建築設計に加え、プロダクトデザインにも取り組んでいます。有機EL照明を使ったテーブルやランプの開発もその一つ。超薄型パネルが発光する特性を生かして秋葉さんがデザインし、山形県内の企業が製作しました。デザインに組み込みやすく、提案の幅が広がると期待を寄せます。また、県内企業と共同で廃瓦チップの商品化も。県内で何万トンも廃棄される瓦をなんとかリサイクルできないかと考えた成果です。
「ゼロからつくることもデザインですが、『今ここにあるもの』をどう生かすかを考えることが、建築家としても、デザイナーとしても必要だと思います」。アトリエという名に込めた通り、提案とコーディネートのフィールドは多彩に広がっています。
(文/関 洋美)