どこまでも広がる石狩平野を一望する高台に、ポツンと建つ小さな木づくりの教会。まるで、絵本の中から飛び出したような素朴な建物は、地域の善男善女が集う「栗沢キリスト教会」の礼拝堂です。
「札幌キリスト福音館に通っていた栗沢の人々が、地元にも礼拝堂が欲しいと20年ほど前にプレハブを建てたのが栗沢キリスト教会の始まりです」と、信者代表の渡辺浩一さん。やがて、プレハブ造りの礼拝堂の老朽化が進み、新しい礼拝堂を建てようという機運が盛り上がりました。「木を生かし、栗沢の風景に溶け込むようなデザインの建物を実現したい」。教会の人々の願いに応えたのが、伝統的な木造軸組み工法を用い宗教建築も手がけてきた地元の武部建設(設計・施工/武部建設 棟梁/山谷 正人)でした。
武部建設は、自社で管理する森から棟梁が自ら切り出した樹齢70年のカラマツ「トヨエモン」の丸太を建物づくりに採用したいと提案。「トヨエモン」とは、先代社長が自社林に植えたカラマツやトドマツのこと。設計を担当した武部相談役は「自社の森が育んできたトヨエモンが持つ数字では表せない木の生命力や温かみを生かし、信仰の場にふさわしい空間を実現したいと考えた」といいます。
2021年8月、国道234号線沿いに、信者の方たちが待ち望んでいた新たな祈りの場が完成。十字架を頂く大きな三角屋根と北イタリアの中世の建築家、パッラーディオが設計したヴィラから着想を得たファサードが、新しい礼拝堂のシンボルとなりました。「100人ほどが集える広さが欲しい」という要望に応えて設えた礼拝堂は、約80坪。礼拝室に入ると、屋根なり天井に向かって延びる高い吹き抜けと、北欧系針葉樹の木組みとトヨエモン丸太の6本の柱が描く力強いラインが目を引きます。木の温もりを生かしながら、過剰な装飾を排したおおらかな空間は、アントニン・レーモンド設計の聖オルバン教会を思わせます。
「信者の皆さん、教会関係者にも木の感じがいい、落ち着いた気持ちになると好評です。自然の中で礼拝しているようで、まさに空知の風土に育てられた建物が出来たと思います」と、渡辺さんも嬉しそうに話します。
信者筋から譲り受けたという1000坪の敷地には、礼拝堂と一緒に完成させたRC造の納骨堂もあります。「春になったら、外構や庭を設えて木々を植え、メモリアル公園のような佇まいに整備したいと考えています。自然のたくましさと優しさに満ちた礼拝堂がその核となり、宗教の垣根を超えて人が集い語らう開かれた場所になったら、これ以上嬉しいことはありません」。