検討会で素案に異論噴出
一見すごそうだけど意味のない、何もしなくても楽に達成できる対策だけ並べ立てて、目標の数字はこっそり引き下げる。国交省の姿勢は、従来からまったく変わっていないことがよく分かります。この姿勢は6月28日の第11回再エネTFでも問題になったのですが、国交省は懲りることなく、ほとんど無修正の「あり方・進め方(案)」を7月20日の第5回あり方検討会に提出して強行突破を図ります。
しかし、断熱や省エネに詳しい建築家、再エネの専門家、そしてほかの委員からも異論が続出します。
メディア関係の委員からは、素案がカーボンニュートラルという高い目標にまったく見合わないこと、消費者団体からは、住宅購入者が省エネ・再エネの適切な情報提供を受けられず不利益を被っているとの指摘がありました。
そして再エネの専門家は、太陽光普及の具体的な目標が示されていないこと、建築の専門家は、断熱の上位基準が明示されていないことを、厳しく指摘しました。
通常こうした審議会は、役所の取りまとめ案が出された時点で各委員が了承し、後は座長一任となるのが通例です。つまり、事前にチャンチャンとなるお膳立てがされているわけですが、この検討会は委員からの異論噴出により、座長一任とはならず継続審議という、極めて異例な展開となりました。
国交省、再エネTFで河野大臣にまた怒られる
あり方検討会が紛糾する中、7月27日に開かれた第13回再エネTFにおいても、国交省の姿勢が厳しく問われることになりました。河野大臣の発言を掲載しておきますが、「言葉遊びをしている場合ではない」「太陽光の普及は国交省以外に誰が責任を持てるのか」「国交省の置かれているのは崖っぷち」という、キツい言葉が並びます。
7月27日 第13回再エネTFにおける河野太郎行政改革担当大臣の発言
今日の議論を聞いていて、国交省はカーボンニュートラルというのがどれだけ大変なのかということをまったく理解していないと感じた。言葉遊びをしていても、日本の2050年のカーボンニュートラルは到底達成できないという認識を、国交省も共有すべき。
断熱・省エネ・太陽がセットのZEHをどう普及させるかの議論をしていたのに、国交省だけZEHの定義を変えましたと喜んでいる場合ではない。
太陽光の屋根載せについても、本当にバックキャスティングをやっているのか。普及を早く前倒しするほど、効果が相当出てくる。2030年に6割という数字で本当にいいのかと、多くの人が思ったはず。当然どこかで義務化するという議論になる。
住宅の太陽光の話を国交省が責任を持たないで、どこが責任を持つというのか。少なくとも住宅の話をしているときに、最後の責任を国交省が持つという責任感を住宅局にちゃんと持ってもらわないと、2030年のCO2削減46%の達成は到底おぼつかない。
国交省の置かれているのは崖っぷちという状況をしっかり認識して、何をやらなければいけないのかということを真剣に考えていただきたい。
前回の記事で、河野大臣の強いリーダーシップにより、住宅政策の根幹である「住生活基本計画」に、「バックキャスティング」が明記されたことをお伝えしました。望ましい未来(例えば2050年)を実現するために、いつまでに何をしなければならないのか逆算するのがバックキャスティングです。しかし、国交省の案は目先で簡単にできることだけ積み上げる、まさに「フォアキャスティング」の典型であり、河野大臣が大いに失望したのは無理ありません。
「最終案」で修正された項目
あり方検討会の紛糾、再エネTFでの河野大臣の強い叱責を受けて、さすがの国交省も(渋々?)方針を転換し、8月10日の第6回あり方検討会に最終案を提出します(図2)。
まず冒頭に、検討会の設置趣旨にあったにも関わらず素案になかった「2050年」の目標が明記されました。この2050年目標の内容が十分かは大いに疑問ですが、まずはバックキャスティングへの試みが始まったことを評価すべきでしょう。
さらに、2030年の目標について、意味不明瞭だった「平均でZEH」は、「ZEHレベルの断熱と省エネ20%を適合義務化」、つまり新築のすべてに必須とすると変更されました。また、従来はまったく示していなかった太陽光の普及目標は、2030年に「新築戸建ての6割」と明記されました。ZEHを超える断熱の上位等級については、鳥取県など先進的な事例を紹介し、多段階の水準を整理する、とされました。残念ながら具体的な結論はなく、どのような水準が「整理」されるのか、今後も注視する必要があります。
住宅の脱炭素は国交省の責任と明記
さらに、最終案では「国土交通省の役割」なるものが明記されました。住宅の脱炭素化に向けて、省エネや再エネの普及は国交省が最終的な責任を持つ、ということですね。今頃になってわざわざ明記するということは、今まで誰も責任を持っていなかったことの裏返し。今後は、今までのような無責任は許されないということですね。
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