「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。Replanでは「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2021」の発刊に合わせて、そんな家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、青森県弘前市を拠点に注文住宅を手がける蟻塚学建築設計事務所の蟻塚 学さんです。
住宅は生活のいれもの
建主さんとのやりとりはいつも「何時にどこで何をしているか」というヒアリングから始まります。料理・洗濯・掃除などは毎日のこと、休日のくつろぎは毎週のこと、子どもの成長は10年20年のスパンで。「生活」という、とらえどころのないものを丁寧に拾い集めるような作業を建主さんと一緒に行っていきます。
不思議なもので、そうしているうちに建主さんの言外の願いが浮かび上がってきたり、設計のテーマが定まってきて、最後にはその人らしい住宅が出来上がってくる。それを見届けるのは、設計している私たちにとっても嬉しい瞬間です。
生活感の濃淡を調整できる家
「三相の家」は弘前市街地を流れる川に面した開放的な敷地に建つ、3人の小さなお子さんとご夫妻のための住宅。主な生活空間となる大きな箱、来客のための箱、車が入った箱。3つの箱を敷地にポンと置いています。箱と箱の間は坪庭になり、アプローチになり、ルーフテラスになり、3つの箱を行き来する所作がうまくめぐるための潤滑油のような役割を果たしています。
建主さんと長い時間をかけて練り上げたこの住宅で目指していたのは、「生活感の濃淡の調整」だったのかもしれません。ひたすら機能的に家事をこなさなければいけない時間もあれば、目の前の食事をじっくり味わって家族の話にゆっくりと耳を傾けたい時間もある。もちろん来客があるときには、できるだけ生活感を感じさせたくない。ワンアクションでシーンを変えるキッチンバックの造作は作業に徹したい時間をつくり出し、2階に用意されたセカンドリビングでは、床に就くまでの静かな時間を過ごすことができます。ルーフテラスに出れば川を渡る風を感じることも。
共働きで、仕事にも子育てにも追われるような1日のうちのほんの一時かもしれませんが、だからこそ慌ただしい生活感から切り離された潤いのある空間を用意しておくことが、大きな意味を持つように思います。
■建築DATA
青森県弘前市・Kさん宅
家族構成/夫婦30代、子ども3人
構造規模/木造・2階建て
延床面積/238.28㎡(約72坪)設計/(株)蟻塚学建築設計事務所 蟻塚 学、阿保 結生
施工/(株)マルノ建築設計
撮影/西川 公朗
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