仕事の都合により、20回にも及ぶ転勤を繰り返していたというBさんご夫妻。60代となり、「そろそろ定住地が欲しい」と選んだ場所は、大雪山の麓にある自然環境に恵まれた東川町でした。旭川出身のBさんにとって、東川町はかつて祖父母が住んでいた第二の故郷。趣味のスキーを通じてご夫妻が出会った思い出の地でもあります。現在も東京で勤務中だというBさんは、2週間に一度東川町に戻ってくるという日々を過ごしています。
玄関から、木の香りに誘われるように足を進めると、目の前に飛び込んでくるのは、高い吹き抜けのあるリビングの大空間。「私たちの家づくりは、このリビングから始まりました」とBさん。開放感あふれるリビングには、音楽を愛するBさんのこだわりが詰まっているのです。
中央に置かれた椅子で、音楽を楽しむことを想定し、壁や天井などに設置するスピーカーがすべて同じ距離になるよう自ら図面を描いたBさん。ヨーロッパの音楽堂のような響きを求め、依頼したのが芦野組でした。「音の響きを考え、天井や壁、床の材質も徹底的に追求したいと思っていたので、自然素材の扱いを得意とする芦野組さんにお願いしました」。
Bさんにとっての家づくりとは、すなわち至極の音づくり。「芦野組としても、音楽堂をテーマにした家づくりは初めてでした」と芦野専務。「構造上、可能な限りの広さと高さを実現させました。音響の奥深さを学ぶことができて、ありがたかったです。やりがいに満ちた仕事で楽しかったとBさんとの家づくりを振り返ります。
「天井はリブ形状仕上げにしてもらい、壁の一部も同じものを使用しました。これは音の反響を適度に抑えるために最適なつくりなんです」とBさん。正面のステージは、ゴムマットの上に硬いレンガを敷き詰めた2層構造。硬いレンガはスピーカーの動きをスムーズにし、ゴムマットは余計な共鳴を抑える効果があるとのこと。漆喰の塗り壁にも「吸音率を高めるため、漆喰に大量の藁を混ぜ合わせ、柔らかく仕上げました」とひと工夫。こうして、Bさんの綿密な計算と、それを実現する芦野組の確かな技術によって「音楽堂の響きをもつリビング」が完成しました。
「家の裏手には忠別川が流れ、2階の洋室からは大雪山が望めます。カヌーやスキーは夫婦共通の趣味でもあるので、豊かな自然に囲まれて、のびのびと暮らしています」と奥さん。「音響に関しての知識はさっぱりですけど」と付け足して笑うその表情は、充実に満ちていました。