平屋と2階建て、断熱のポイントは?
平屋と2階建てでは、冬の暖かさで大事になるポイントがどれほど違うのでしょうか。図2に、今回の検討に利用した平屋と2階建てのプランを示しました。平屋は30坪(床面積99㎡)、2階建ては38坪(床面積125㎡)です。平屋のほうが少しコンパクトになっています。
部位別の面積を見てみると、窓の面積が平屋20㎡・2階建て33㎡、壁の面積が平屋83㎡・2階建て142㎡となっており、2階建てのほうが窓や壁の面積が大きいことが分かります。2階建ては建物の背が高いために壁の面積が多くなり、さらに部屋の数が増えて採光のために窓が増える傾向があります。特に窓は断熱の弱点なので、2階建ては断熱にとってハンディがあることになります。
図2のプランでは、建築物省エネ法が求める断熱等級4レベル(温暖地)が求める外皮平均熱貫流率UA値の基準値0.87を下回るように、外皮の熱の逃げやすさ(熱貫流率・表中のカッコ内の数字)を調整しました。2階建ては断熱が弱い窓がハンディになるので、天井や1階床の断熱を強化(熱貫流率を小さく)する必要があります。一方、平屋は窓面積が小さい分、天井や1階床の断熱を薄くしてダウングレード(熱貫流率を大きく)しても、UA値は基準値をクリアしてしまいます。
平屋は床面積もコンパクトだし窓も小さいから、天井や床の断熱は手を抜いても暖房費は安いだろうから問題ない…。本当でしょうか? シミュレーションで詳しく検討してみることにしましょう。
暖房費を安く抑えるには「熱の赤字」暖房熱負荷を減らす
図3に、非定常熱負荷シミュレーションの結果を示しています。東京の標準的な気象条件において、1時間おきの外気温や日射・室内暖房設定をもとに、詳細な計算を行った結果です。LDKや寝室は24時間、空気温度20度で壁掛けエアコンが暖房し続ける設定としています。本連載でも繰り返しお話ししているように、住戸内の温度差が健康に悪影響を及ぼすヒートショックの予防を考えると、家中を常時暖房することは今後必須となるでしょう。
まず、グラフの見方を確認しておきましょう。上段の「熱損失」は、室内を暖房した場合に建物の各部位、天井・床・壁・窓からの熱貫流、または換気・漏気によって屋外に流出する熱量を表しています。断熱や熱交換換気・気密化により、これらの熱損失を減らすことができます。
下段の「熱取得」は、家にいる人や家電から発生する内部発熱、窓からの日射取得があります。ただし冬に室内を十分に暖めると、熱損失が熱取得よりずっと大きくなってしまいます。この「熱の赤字」を穴埋めするのが、暖房設備の供給する「暖房熱負荷」です。暖房熱負荷を処理するために暖房設備は電気・ガスを消費してしまいますから、暖房費を安く済ませるには、この暖房熱負荷を減らすのが肝心となります。
基準ギリギリの断熱では、平屋の暖房費は2階建てと大差なし!
では、建築物省エネ法の要求する断熱レベルギリギリで建てると、2階建てと平屋では暖房熱負荷はどれくらい違うのでしょうか。図3に、2階建て(1段目)と平屋(2段目)の結果を示しました。単位は1年を通した冬の合計値で、熱の単位は1MWh(メガワットアワー)=1000kWh(キロワットアワー)=3.6GJ(ギガジュール)です。
2階建ては、面積が大きい壁や窓からの熱損失が非常に大きいことが分かります。その分、ひと冬の熱負荷は7.8MWh、エアコンの電気代も9.5万円と大きくなります。一方の平屋ですが、熱負荷は6.9MWh、エアコンの電気代は8万円と、2階建てと大差ない結果となってしまいました。基準ギリギリを狙って断熱を薄くした結果、面積の大きい天井や床からの熱損失が大きくなってしまっているのが原因です。コンパクトな平屋なのに2階建てと大差ないのでは、暖房費の負担感がぐっと重くなってしまいますね。
断熱強化で熱負荷は激減!平屋でもしっかり断熱強化を
建築物省エネ法が求める断熱レベルは1999年に定められたものであり、決してハイレベルではありません。健康と快適な生活のために家中を暖かく保つのが当然となっている今日、暖房費が高くなり過ぎないよう高い断熱レベルが求められています。
一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会(HEAT20)は、より高いレベルの断熱としてG1/G2/G3を提唱しています。平屋でG2レベルに断熱強化した場合の結果を図3(3段目)に示しました。天井・床も含めた各部位の熱損失が急減し、熱負荷も2.2MWhと1/3以下に減少しています。エアコンの暖房費も5.1万円で、これなら電気代の心配もなさそうです。
国の基準は主に2階建てを想定して断熱の基準値が決められているため、何も考えずに平屋に適応していいわけではなさそうです。UA値さえ基準ギリギリならOKとばかりに天井や床のダウングレードは避けて、きちんと断熱強化を行う必要があるのです。
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