家族の歴史を刻み込んだ大黒柱、手斧で削った力強い梁、手彫りの欄間。明治時代、本州以南から移り住んだ先人は、原生林を切り拓いては、故郷の住まいを手本に伝統的な工法で家を建ててきました。しかし、開放的な民家のつくりは、日本最北の積雪寒冷な北海道の気候風土に合わず、「寒さ」が住宅の最大の欠点となりました。開拓期以降、長く厳しい冬をいかに暖かく過ごすかが、北の住まいの大きな課題でした。時代の移ろいとともに、北海道の生活様式と住まいは、欧米化の一途をたどり、伝統的な民家で家族が集い語らう風景も昔話になりました。
北海道の開拓期に建てられた、全国各地の特徴ある様式を持った貴重な古民家。その素晴しい木組みの構造を、現代的温熱性能を付加して再生したい。そんな想いから、2005年にNPO法人「北の民家の会」が設立され、長期優良住宅仕様をベースにした最新技術で、伝統工法の住まいを再構築した現代の「北の民家モデル」を提唱。古民家再生や伝統的な大工の技の伝承に取り組んできた武部建設は、その中心的なメンバーとして活動をリードしてきました。
今回、「北の民家モデル」の伝統構法バージョンが完成。道産カラマツ材と道産材料の漆喰を用い、50代の棟梁を筆頭に、2名の若い大工がチームを組んで、新築工事に当たりました。棟梁が昔ながらの手法で図面を手板に写し、それに沿って墨付けした部材を若い大工たちが手刻みで加工しました。
そして、込み栓、楔を使った継手仕口、通し貫、渡り顎工法などの伝統技術を駆使しながら、北の民家モデルの住まいを完成させました。北海道でこうした伝統構法による本格的な木組み住宅の新築は初めての試み。施工に参加した若い大工たちにとっては、生きた伝統技術を習得する得難いチャンスにもなりました。
完成した温故知新の住まいは「構造即意匠」といわれる木造軸組ならではのシンプルで洗練された美しさに満ちあふれています。同時に国の省エネルギー基準を超える高い温熱性能も実現し、厳しい冬も快適に住まうことができます。道産材を現しで使用し、大工の手仕事がそこかしこに見える現代の民家は、武部建設の技術力の結晶です。