今回、ご登場いただくのは札幌を拠点に、いごこちのいい暮らしづくりに取り組んでいる(株)三五工務店 設計室室長の石塚亜紀彦さん。住まいのデザインはもちろん使い勝手とも密接に関係する「素材」について、さまざまなエピソードを交えて語っていただきました。
設計室 室長
石塚 亜紀彦さん北海道札幌市生まれ。大学を卒業後、設計事務所勤務を経て、2001年に(株)三五工務店に入社。一級建築士。好きなもの、家族像、将来の人生像まで、ご家族と一緒に考えて形にする家づくりを心がけている。多趣味で、豊かな暮らしに関わるさまざまなことを自ら体験して、お客様に提案している
「素の建材」=「素材」を生かした
時とともに育つ家を目指して
面積、間取り、建設費、ランニングコストなど、家づくりに求められるさまざまな条件のなかで、長く快適に暮らすことができる耐久性も、多くの人にとって外せないポイントでしょう。この耐久性という言葉には、物理的な強さだけではなく、美観の持続も含まれているというのが三五工務店の解釈です。そこで「時とともに育つ家」というテーマを掲げ、経年劣化ではなく、経年“進化”する美しさを楽しめる家づくりを追求してきました。
では、長い時間の積み重ねによって、少しずつ味わいを増す空間であるためには、どのような建材を選ぶべきでしょう。たとえば、法隆寺を思い浮かべてください。現存する世界最古の木造建築に対して「美しいけれど、新しければもっといいのに…」と感じる人はいないのではないでしょうか。法隆寺に限らず、世界の東西で長く存在感を放ってきた建築物に使われているのは木、石、鉄などの建材です。このように先人たちが使い続けてきた「素の建材」=「素材」を上手に取り入れることで、美しさのピークが竣工時とはならない「時とともに育つ家」を建てることができると私たちは考えています。
逆にいえば、ピカピカ、キラキラしているものは維持するのが難しい。これは皆さんも経験があり、ご理解いただけると思います。メンテナンスの手間やコストがあまりかからないという点も、木、石、鉄といった素材の大きな魅力といえるでしょう。
自然豊かな北海道は
素晴らしい素材の宝庫
さらに具体的な話をすると、三五工務店では「Made in 北海道」の素材を積極的に使用しています。床には、道北・下川町のナラ・タモ・カバの無垢材を。構造材や羽目板などには、10年以上前からカラマツを使ってきました。美しく強度があるカラマツは成長も早く、林業の効率的な循環を生み出すことができる理想的な木材の一つです。このほかにもレンガ、札幌軟石、塗り壁のゼオライト、外壁に用いるガルバリウム鋼板など、大半の素材は道内から高品質なものを入手しています。北海道の元気につながる家づくりは、私たちが大切にしているテーマであり、住まい手にとっても「この家は北海道の素材でできている」という誇りや安心感が、居心地の良さに通じると信じています。
さて、私たちがここまで「素材」と呼んできたものとは別のグループとして位置づけているのが、プラスチックやビニールなどを活用した「新建材」です。もちろん、それらを否定するわけではなく、使ったほうが毎日の暮らしが快適になる部分もあります。たとえばキッチンの床。無垢材の床だと何かをこぼしてしまったら急いでしっかり拭き取る必要がありますし、石の床にすれば冬などはひやっとして冷たく、居心地が悪くなってしまいます。そこで私たちがよくご提案するのが、石のテクスチャーを模したPタイルです。これなら手間もかからず足元がひやっとすることもありません。臨機応変に適材適所の素材選びをすることが大切なのです。
素材のポテンシャルを引き出す
「引き算」のデザイン
最後に、素材とデザインの関係について、私たちの考え方をご紹介します。何よりも心がけているのは、外観・内観ともに不必要なラッピングはせず、その素材の特徴・質感・機能を最大限に引き出すことです。また、ファッションと同様、色数が多すぎると、どうしても散漫な印象になってしまうもの。メインとなる色と素材は3つ程度に絞り込み、全体に統一感を出してからアクセントカラーを加え、洗練と個性を両立させた空間を目指します。
そして、もう一つ。どんな大好物でも、食べ過ぎると飽きてしまいますよね。それと同じように、木の温もりがお好きだとしても、床・壁・天井のすべてを木で覆い尽くしてしまうと、過剰になってしまう可能性があります。素材を上手に組み合わせ、飽きの来ない空間づくりを心がけています。
以上のように、住宅のデザインや素材の使い方で大切なのは「引き算」だと捉えています。さまざまなアイデアや要素の集合体からロジカルに引き算をして、整理整頓をしたうえでアクセントの足し算をする。三五工務店では、経験豊かなスタッフが、そのようなアジャストを心がけて設計を進めます。もちろん、お客様の好きな素材や空間について事前にじっくりヒアリングすることも欠かしません。一つひとつのご要望も大切な「素材」ですので、それらを的確に組み合わせ、居心地の良さが持続する住まいを実現いたします。
Case.1 札幌市・Hさん宅
自然と隣り合う閑静な住宅地に建つ片流れ屋根の家です。天井はカラマツ、床はナラなど、木をふんだんに使った優しい雰囲気の空間を、グレーの塗り壁や鉄の階段手すりなどがアクセントとなり引き締めます。お施主様からは「道産材を積極的に使うというコンセプトが、北海道で生まれ育った私たちにとって、とても共感できるポイントでした」と嬉しいお言葉をいただいています。書斎や使いやすい和室、遊び場兼家庭菜園にもなる庭など、家族4人が豊かに暮らせる環境が揃った住まいです。
Case.2 札幌市・あめつちby35stock
「あめつちby35stock」は、三五工務店グループの「35design」が運営する店舗。室内は構造材の北海道産カラマツ材が現しの内装となっており、中2階スペースは道産材の無垢フローリングを使用するなど、建物の木材は北海道のものを使い、食材もこだわりの詰まったものを使うことで、北海道の魅力を発信する「北海道愛」が詰まったカフェです。自慢のおにぎりと美味しいスープを味わいながら、いごこちのいい暮らしを提案するお店です。
Case.3 札幌市・Hさん宅
ガルバリウム鋼板に道南スギの羽目板を組み合わせた、落ち着きのあるモダンな外観が印象的な住まいです。5メートル以上の奥行きがある長い玄関土間と平行して並ぶLDKの壁は、グレーとホワイトのツートーンの塗り壁で、すべて仁木町産の天然ゼオライトを使っています。グレーにすることで光の反射を抑え、ホームシアターの映像も観やすくなるなど、機能面も考慮されています。無垢床に現しの天井、数々の造作家具など、全体的に木の温もりが感じられる温かい空間です。