とても快適なダクト式全室暖冷房

図2に東側住戸の2016年9月2日の温湿度分布と電力消費量を示します。温度設定は25℃で、風量は強で運転しています。8月下旬に完成しエアコンの運転を始めて1週間後ぐらいのデータです。

図2 東側住戸温湿度およびエアコン消費電力
図2 東側住戸温湿度およびエアコン消費電力

エアコンは10畳用のダクトエアコンでは一番小さな機種です。暖房能力4kW、冷房能力2.8kWです。現在の熱計算ソフトQPEXでは必要暖冷房設備容量も計算できますが、それによると建物全体で暖房3.3kW、冷房3.6kWという計算になり、1住戸ではこの約半分ですから、十分過ぎる能力です。実はメーカーの人たちは、このダクトエアコンは2~3部屋を暖冷房するための機種で、家全体を暖冷房するのは無理といっていたのですが、設計の加藤君は今までの経験から十分と確信していました。

グラフを見ると、1階は日射がないためか24℃で一日中安定していますが、2・3階は日射の影響で設定温度より1~2℃上がっています。これは各ゾーンへの風量を変えることで是正することができるのですが、この設備にはそれはできません。設計時点で吹き出し風量を、2・3階でもっと増やす必要があったようです。しかし、Aさんは、十分快適だといってくれています。

システム的には、図3に示すように、3階の冷房吹き出しを暖房時には切り替えで1階の床に吹き出すように構想したのですが、縦ダクトを設けるスペースがなく断念しました。エアコンのダクト吹き出し口に、風量調節ダンパーを設けることなどを検討しています。

図3 提案したダクト式エアコンによる暖冷房システム
図3 提案したダクト式エアコンによる暖冷房システム

この住宅に、東京大学の前真之先生と研究室の大学院生が来てくれて、熱画像を撮ってくれました。前先生からは、冷房の風や音はまったく感じず、床天井の輻射が効いてとても快適だという評価をいただきました。

このシステムは冷房負荷が大きく、冷房必要期間の長い温暖地向けに考えていたのですが、最近の夏の猛暑化を考えると寒冷地でも十分適用でき、かつ必要性もあると感じています。ただ、暖房負荷が大きく冬の外気温の低い寒冷地では、冬はエアコンの効率が下がり、温暖地より冬の消費電力が増えるところが欠点かなと思います。

このQ1.0二世帯住宅を寒冷地に建てると、暖冷房費はどれくらい?

この住宅では、開口部に十分な性能のサッシを採用できなかったのですが、現在では可能です。そこで、開口部をいろいろ変えて暖冷房費を計算してみました。サッシとガラスは、表1の開口部の欄の下3行の仕様です。

表1 各部の断熱仕様と熱損失係数
表1 各部の断熱仕様と熱損失係数

ArLow-E16㎜ペアガラスを使ったAL-PVCサッシとPVCサッシおよびPVCサッシにArLow-E16㎜トリプルガラスの組み合わせで、開口部の熱損失係数と、そのときの住宅全体の熱損失係数(Q値)を表1に示します。その住宅を東北~北海道の各地に建設したときの暖冷房費を表2に示します。この住宅はほぼ面積が同じ二世帯住宅ですから、この表に示す暖冷房費は建物全体の1/2の金額を表示しています。

表2 開口部の仕様別暖冷房費(全室暖冷房、冬20℃ 夏27℃)
対象住宅の開口部の仕様のみを変更して、QPEXで暖冷房負荷を算出し、30円/kWhで暖冷房費を計算した。エアコンの効率は、暖房時は2〜3地域でCOP=2.5、4〜6地域でCOP=3.0とし、冷房時はCOP=4.0として消費電力を計算。二世帯住宅なので、建物全体の暖冷房費の1/2を表示している

この表ではわからないのですが、このうち冷房費の割合は、東京練馬で50~60%、福島が21~27%、仙台・山形・秋田で15~24%、盛岡以北は10%以下です。関東以南に比べてやはり東北~北海道では冷房費の割合は小さいのですが、近年の猛暑で冷房は必須条件になっています。冷房設備を整えると、それで暖房もしてしまいたい。しかし壁掛けエアコンの暖房はとても不快です。このダクトエアコンによる暖冷房システムは、夏冬ともとても快適な環境をつくることができます。

東京練馬と同じ性能の住宅では、北東北~北海道では暖房費がずいぶん増えますが、開口部にトリプルガラスを使うと、その差はずいぶん少なくなるようです。温暖地ではそれほどの差が出ないトリプルガラスですが、寒冷地域ではトリプルガラスの威力はなかなかのものです。

各地域の皆さんは、この数値と自分の現在の住宅での暖冷房費とを比べてみてください。1/2〜1/3ぐらいにはなっていると思います。これは、1戸建てで30坪弱の家を2棟建てるよりは、2戸で1つの建物にしていることが、暖房費を削減するのに大きく影響しています。小さな戸建て住宅では、もう少し断熱を厚くする必要が出てきます。