「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2020」の発刊に合わせて、さまざまな意味での「デザイン」に優れた家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、宮城県仙台市を拠点に注文住宅を手がける松本純一郎設計事務所の松本 純一郎さんです。


宮城県仙台市・Mさん宅/夫婦30代、子ども2人、両親
設計/(株)松本純一郎設計事務所
施工/(株)センケンホーム・(有)アトリエ海

家族が生きる舞台として
心が豊かになる空間を

人間の生活に最も近い「住宅」という空間は、建築の原点であり、社会的にも建築家としても最も重要な仕事であると考えています。住宅を設計する上で大切にしているのは、美しく、快適で、日常を楽しめる空間であること。それらを兼ね備えた住宅は、住む人の心を豊かにするからです。

その実現のために私たちは、敷地の特徴や周辺環境、省エネ、ライフスタイルといったさまざまな要素について住まい手と十分に協議し、家族の想いを具現化することを心がけています。特にこだわっているのが、自然の光や風を要所に取り入れた五感に訴える空間づくりや、家族が一体感を感じられる空間づくりです。これらを通して、住む人に暮らしの喜びと、心の高揚や癒しをもたらす住宅を提案しています。

敷地のレベル差を活用し、道路レベルに駐車場を設置。駐車場奥の階段を上ると、小さなパティオからそれぞれの玄関へとアプローチできる
敷地の高低差を活用し、道路レベルに駐車場を設置。駐車場奥の階段を上ると、小さなパティオから各世帯の玄関へとアプローチできる

完全分離で付かず離れず
二世帯住宅の新しいかたち

共働きの夫婦と子ども2人の4人家族の子世帯と、老夫婦と愛犬が暮らす親世帯が、お互いの生活を尊重しながら、緩やかな関係性を保つことができる完全分離型の二世帯住宅です。空間構成は各々の生活スタイルや嗜好に合わせてまったく異なったものとなっており、それぞれに工夫を凝らしています。

子世帯は、LDKのほかに共有の多目的な場として、中2階の広間やその下の空間を利用した蔵のようなスペースがほしいとの要望を受け、4つのフロアレベルで構成されるダイナミックな空間を提案しました。

家族が集うLDK。それぞれの交わりの中で、充実した気持ちで日々の暮らしを楽しめる居住空間を目指した。立体的でありながら、大きな吹き抜けのおかげで、家族がどこにいても一体感を感じられる
家族が集うLDK。それぞれの交わりの中で、充実した気持ちで日々の暮らしを楽しめる居住空間を目指した。立体的でありながら、大きな吹き抜けのおかげで、家族がどこにいても一体感を感じられる
大きな吹き抜け空間に4つの床レベルが複雑に入り組み、多様な陰影や躍動感を生み出している子世帯
大きな吹き抜け空間に4つの床レベルが複雑に入り組み、多様な陰影や躍動感を生み出している子世帯
床レベルを一段下げた蔵のようなスペース。リビングの窓を開ければ風も通り、居心地の良さは抜群
床レベルを一段下げた蔵のようなスペース。リビングの窓を開ければ風も通り、居心地の良さは抜群
小学生と幼児、2人のお子さんの格好の遊び場となっている中2階の広間。トップライトからの自然光が心地よい空間だ
小学生と幼児、2人のお子さんの格好の遊び場となっている中2階の広間。トップライトからの自然光が心地よい空間だ
2人で立っても余裕がある幅広の造作洗面台。椅子に座って作業できるよう、下部にはあえて収納を設けず
2人で立っても余裕がある幅広の造作洗面台。椅子に座って作業できるよう、下部にはあえて収納を設けず
子世帯のテラスは、家族の趣味であるアウトドアの雰囲気が味わえる、アウトドアリビング的なスペースに
子世帯のテラスは、家族の趣味であるアウトドアの雰囲気が味わえる、アウトドアリビング的なスペースに

一方の親世帯は、さらなる高齢化に向け、少ない移動で快適に暮らせる住まいを希望されたため、ワンフロアで日常生活を送れるシンプルなプランとしました。完全分離型とすることによって、親世帯の住居を将来、他人に貸すことも可能な計画となっており、丁寧につくったスペースを長期間、有意義に活用できるサスティナブルな住宅を目指しました。

設備の面では、少し広めの床下空間を利用して、イニシャル・ランニングコストともにローコストな床下放熱暖房と一部床暖房を採用しています。

親世帯のリビングからダイニング方向を望む。床はブラックウォールナット、壁はドイツの自然塗料と、天然素材に囲まれた空間だ
親世帯のリビングからダイニング方向を望む。床はブラックウォールナット、壁はドイツの自然塗料と、天然素材に囲まれた空間だ
親世帯の奥さんのワークスペース。上部が吹き抜けとなっており、ハイサイドライトから自然光が降り注ぐ
親世帯の奥さんのワークスペース。上部が吹き抜けとなっており、ハイサイドライトから自然光が降り注ぐ
親世帯の階段まわりは吹き抜けで開放的。階段を上った先には、外孫が遊びに来た時のための部屋や広いテラス、納戸などがある
赤い手すりがアクセントの階段まわりは大きな吹き抜けに。階段を上った先には、外孫が遊びに来たときのための部屋や広いテラス、納戸などがある。
多世代がさまざまな形で暮らす周辺環境に合わせ、外観は暗めに彩色したレッドシダーとコンクリートでスタイリッシュに仕上げた
多世代がさまざまな形で暮らす周辺環境に合わせ、外観は暗めに彩色したレッドシダーとコンクリートでスタイリッシュに仕上げた

■建築DATA
構造規模/木造一部RC・地下1階地上2階建て
延床面積/274.10㎡(約82坪)

松本純一郎設計事務所
デザイン住宅実例

〜貝ヶ森の家〜

シンプルなフォルムの外観。ガレージの大きな屋根は家族や訪問者を大らかに迎え入れる(撮影/菅野 哲也)
シンプルなフォルムの外観。ガレージの大きな屋根は家族や訪問者を大らかに迎え入れる(撮影/菅野 哲也)
ファミリースペースから見た一体的空間。「一つ屋根の下の空間」をイメージした(撮影/菅野 哲也)
ファミリースペースから見た一体的空間。「一つ屋根の下の空間」をイメージした(撮影/菅野 哲也)
ダイニングから吹き抜け空間のリビング、和室、ワークスペースを望む(撮影/菅野 哲也)
ダイニングから吹き抜け空間のリビング、和室、ワークスペースを望む(撮影/菅野 哲也)

〜スリーコートハウス〜

「光」がテーマのこの住宅は、シャープな外観が現代的な美しさを演出する(撮影/菅野 哲也)
「光」がテーマのこの住宅は、シャープな外観が現代的な美しさを演出する(撮影/菅野 哲也)

〜八幡の家〜

交差する2つの片流れ屋根の広がりが美しい、夫婦2人の住まい(撮影/菅野 哲也)
交差する2つの片流れ屋根の広がりが美しい、夫婦2人の住まい(撮影/菅野 哲也)

〜スキップフロアの家〜

複数の箱を組み合わせたような外観。特に駐車場の張り出しが印象的。ディテールにこだわり、シンプルながら複雑な空間構成を外部にも表現している(撮影/菅野 哲也)
複数の箱を組み合わせたような外観。特に駐車場の張り出しが印象的。ディテールにこだわり、シンプルながら複雑な空間構成を外部にも表現している(撮影/菅野 哲也)

〜旭ヶ丘の家〜

大きなスリットと曲線が特徴的な独立分離型二世帯住宅(撮影/菅野 哲也)

〜M cube〜

閑静な住宅地内に建つ当社の事務所「M cube」。コンクリート打ち放しのキュービックなデザインが特徴的なこの建物は、事務所と集合住宅の複合建築
閑静な住宅地内に建つ当社の事務所「M cube」。コンクリート打ち放しのキュービックなデザインが特徴的なこの建物は、事務所と集合住宅の複合建築
事務所エントランス内。吹き抜けの大空間に螺旋階段を配した大らかでクールなデザインが、訪れる人を出迎える
事務所エントランス内。吹き抜けの大空間に螺旋階段を配した大らかでクールなデザインが、訪れる人を出迎える