第二回目の今回、ご登場いただくのは札幌市に拠点を置くケント・ハウス(株)建築プロデュース部・取締役副社長の草野広宣さん。時代の色に染まらない普遍性のある住まいづくりの第一歩となる土地選びのコツを、これまでのエピソードを交えて語っていただきました。


ケント・ハウス(株)
取締役副社長 一級建築士

草野 広宣さん

北海道岩見沢市出身。2006年、北見工業大学を卒業後、ケント・ハウス入社。住宅・施設設計を手掛け、社内のデザイン・構造・法規のスペシャリストを束ねるプロデューサーとして活躍。2014年、住まいの環境デザインアワード優秀家づくり賞受賞、2016年キッズデザイン賞受賞

 

運命の土地との出会いに必要なのは、

根気強さと情熱

宅地は、理想の暮らしをのびやかに描くためのキャンバスです。住まいづくりは、建てる土地を取得しなければ始まりません。

私たちの会社には、宅地を既に取得し「延床60坪ほどの中庭と組み込み車庫のある家を建てたい」というお客様が多くいらっしゃいます。その要望を叶えるためには、一般的な分譲地サイズよりもゆとりのある、80坪から100坪の敷地が必要です。一家に車2台が当たり前の今、土地に求められる「利便性」もいわゆる「駅近」ではなく、生活や通勤のしやすさを指す言葉になりました。このため、札幌で住まいをお考えの方にも土地探しの際に、より広い土地を確保しやすく、地価がリーズナブルな江別市、北広島市までエリアを広げてみることをお勧めしています。地価が抑えられる分、建物や設備にコストをかけられるという利点もあります。

一方、札幌市内で人気の高い中央区では、こうした要望を叶えられる宅地はごくわずかです。しかし、希望エリアでどうしても家づくりをしたいと、ご自身で空き地や売地を熱心に調べ歩いたお客様もいらっしゃいました。土地を取得していないお客様の場合、私たちも一緒に建物とのマッチングを考えながら、土地探しのお手伝いから家づくりを始めることもあります。そのお客様は、私たちが驚くほどの根気強さで3年後、思い描いていた通りの新居を実現されました。時間と手間を惜しまず、熱意を持って探し続けることもまた、土地探しの大切なポイントと、お客様に教えていただいたような気がします。

難点がもたらす
有り余る魅力とおまけ

新築の土地選びの基準は、立地や子育て環境、利便性などさまざまです。「良い土地」と聞くと、四角く区画整理された分譲地、角地をイメージされる方が多いかもしれません。果たして、そうでしょうか。

実は、先に挙げた札幌の人気エリアである中央区などには、公道から奥まり、住宅に囲まれた旗竿地がしばしば見られます。こうした形状の土地は、公道からのアプローチが長くなり、冬の除雪対策が求められます。ロードヒーティングや融雪槽の設置など、初期費用、ランニングコストが別途必要になり、購入を検討する際に二の足を踏む方も多いでしょう。

しかし、土地の価格自体は一般的な相場の7割ほどで売り出されるケースが多く、リーズナブルに人気エリアで新築ができます。また、建物のアプローチになる細長い土地の面積も、建ぺい率に入れることができるため、建物を大きくゆったりと建てられます。その細長いアプローチにロードヒーティングを採用し、床埋め込みの照明を施すことで、夜間の出入りがしやすくなり、住まいにドラマティックな演出を加えることもできます。

お客様からの要望が多い中庭を核とした空間プランにも、住宅に囲まれた旗竿地はぴったりの立地です。最大限に内側に開くことで、プライバシーやセキュリティをしっかり守りながら、明るく開放感のある空間を実現することができます。既存の「良い土地」の概念にこだわらず、難ありと思える土地と向き合うことも、理想の空間、暮らしを実現する近道です。

どう暮らしたいか
明確なイメージが引き寄せる縁

私たちは旗竿地のほか、変形地や傾斜地の空間プランにもしばしば取り組んでいます。崖地の多い中央区の住宅街では、6mほどの高低差のある敷地で新築というケースも。こうした家づくりにも、お客様の希望や暮らし方をトータルに把握した建築プロデューサーのもと、設計、構造、施工、管理などのスペシャリストたちが、住まいづくりを行っています。結果、どのような土地でも、それぞれの暮らしにフィットした快適な住まいを実現させてきました。

私事ですが、6年前に畑だった場所を分割した三角形の宅地と出会いました。新築前からイメージしていたわが家像は林や公園に隣接する敷地に建つコートハウス。近隣の人とコミュニケーションが楽しめるよう、コの字型の建物の一部を外に開き、大きなテラスを設けたい。緑に恵まれた場所で、子育てものびのびと楽しみたい。縁あって出会った土地は、そんなイメージにぴったりでした。

お客様と一緒に土地を探している時にも、わずかな瞬間にだけ訪れるこのようなチャンスがあります。その絶好の機会を逃さないためにも、新築を考え始めたら、ご家族の理想の暮らし、空間を細部まで思い描いていただきたいと思います。そこから見えてくるわが家像にぴったりの土地は、ご家族にとって唯一無二の場所。私たちも、その夢を共有しながら、土地探しから住まいづくりをトータルにプロデュースしていきたいと考えています。

Case.1 旗竿地

旗竿地では、車の旋回ができると出入りが楽になります。カーポートと車庫を作ることで出入りしやすくすることも。中庭を充実させ大きな窓を設けることで、四方を住宅に囲まれながらも日射とプライベート感を同時に得ることができます。


Case.2 傾斜地1

傾斜した前面道路に対して高低差を上手く使いアプローチしています。ダイニングキッチンからは遮るものなく景色を一望でき、唯一無二の空間となりました。


Case.3 傾斜地2

敷地の前面と後方で4mの高低差があっても、その雰囲気を感じさせない住まいです。玄関に入るとすぐに階段があるのが高低差の土地ならでは。2階のリビングもスキップフロアにすることで3mを超える広い天井を確保することができました。