古民家 築160年
仙台市
観光交流施設[アキウ舎]仙台の奥座敷と呼ばれる自然豊かないで湯の里、秋保。2018年7月、温泉街の玄関口に建つ160余年の古民家が、古遊工房の職人たちの匠の技によって、地域の交流拠点としてよみがえりました。和と洋、古いものと新しいものを融合させた「アキウ舎」にはカフェレストランも併設され、新しい観光名所としても注目されています。
地域の歴史を無言で語る
まち人の心のよりどころ
地区の名前から「除(のぞき)屋敷」と呼ばれていた築160余年の古民家に、スポットライトが当たったのは、今から3年ほど前のこと。長年住まう人が居なかった建物は、廃墟同然の佇まいを見せていました。「それでも、地域の人たちにとってはたくさんの思い出が刻まれた愛着のある建物。残してほしいという声が方々から寄せられました」。そう話すのは、アキウ舎を運営する株式会社アキウツーリズムファクトリー代表の千葉大貴さんです。
東日本大震災を機に、東北の観光・街づくり支援に取り組んでいた千葉さんは、3年前に秋保の街づくりを依頼され、この建物と出会いました。「人々の郷土愛の象徴のような除屋敷を、地域と観光客の交流拠点にしたいと考え、再生に向けて動き出しました」と千葉さんは当時を振り返ります。
しかし、あまりの傷みの激しさに「建て直したほうが安くて早い」と、建物の再生には誰もが難色を示しました。暗礁に乗り上げた計画を救ったのが、宮城県鳴子温泉に拠点を置き、古民家再生を数多く手掛けている古遊工房です。「中学時代の同級生の親戚が仙台で明治の土蔵を移築して居酒屋を開いたのを思い出し、施工にあたった古遊工房を紹介してもらいました」。2017年9月、古遊工房の経験豊かな職人たちが秋保に集結。除屋敷の再生物語が始まりました。
100年先の未来へつなぐ
温故知新のバトン
再生のための改修工事は、およそ10ヵ月にも及びました。経年劣化で傷んでいた柱は、釘を一切用いない「根継ぎ」と呼ばれる伝統的な手法で修復。新たに加えた白木の材は、あえて塗装せずに仕上げられました。「古材は傷さえも味わい深い魅力ある素材ですが、強度に欠けます。新材は強度に優れますが、趣は求められません。それぞれの長所と短所を補い合いながら世代交代していくのは、木も建物も人も街も一緒。新旧のコントラストの移ろいもまた、この場所ならではの魅力になると思いました」と千葉さんは話します。
吹き抜け越しに屋根の茅や太い梁が見られる建物は、地元の農産物を生かしたカフェレストランとしても活用。木組みを現しにした古民家ならではの力強い空間には、既存の神棚や箪笥などの古いものに加え、モダンな襖紙や座布団、シーリングライトなどを配し、再生のテーマである「和洋、新旧の融合」を表現しています。
「除屋敷は、100年の歳月に耐えうるアキウ舎に生まれ変わりました。私たちもこれから地域に根ざしながら、100年先に残るものをつくっていきたい」と、意欲的に語る千葉さん。秋保の気候風土に磨かれた材の色と風合いが味わいを増すほどにこの場所は地域に根づき、街に集う人々の拠りどころとして受け継がれていくことでしょう。
建築データ
□リノベーション面積
230.00㎡(約69坪)
□主な外部仕上げ
建具/窓:木製サッシ
□主な内部仕上げ
床/畳 一部土間、壁・天井/クロス
■工事期間
約10ヵ月
■設計/大角雄三設計室
■施工/古遊工房 (株)遊佐建築