約140年の歴史を持ち、伝統工法である「手刻み」による家づくりにこだわる工務店を福島県で見つけました。「斉藤工匠店」―。木を愛し、木と語らいながら、心安らぐ木の家を提供し続ける同社。その匠の技に迫ります。

斉藤工匠店の作業場。ここで墨打ち、刻みの作業が行われる

福島県二本松市針道。かつて養蚕を主な産業として栄えた趣あるこの街に「斉藤工匠店」はあります。創業は明治10年ごろ。現在の代表である齋藤守司さんで4代目となる老舗工務店です。同社では、大工職人が個性の異なる木の特性を見極め、墨で印を付け、ノコギリ、カンナ、ノミなどを駆使して加工していく「手刻み」の技法を頑なに守り続けています。

齋藤守平専務の墨打ちの様子。大量の材料の組み合わせがここで決まる
墨に従い、手仕事での作業が進められる。ここには若手の職人も多い

手刻みは手間も時間もかかりますが、木の個性を活かした曲がった梁や複雑な設えや継手などは、プレカットで表現するのは難しいもの。逆に言えば、昔ながらの技法である手刻みだからこそ、木の個性を活かせるということです。 また、一級建築士の資格を持つ専務の齋藤守平さんは、管理建築士として設計にも力を入れています。大工の技と構造計算を合わせ、さらにそこにデザイン性をプラス。完全自由設計、施主の思いを叶える家づくりを実現しています。

刻み作業も繊細に行われる

「いいものは人を思う気持ちから生まれる」そんな家づくりに賛同する若者が多数在籍する同社。ベテラン大工と共に切磋琢磨しながら、日々、匠の技に磨きをかけています。

齋藤専務は毎朝、1日の仕事を道具の手入れから始めるといいます。「道具の調子を見るとともに、自分自身の気持ちを仕事に向けるようなそんな時間です」。刻み作業も実に繊細に行われます。継手によって形状も角度も深さも異なり、最終的にきちんと組み合わせることができなければなりません。現場で柱や梁を組み上げる「建前」の前に作業場で継手を確認し、そこで微調整を施します。

この夏竣工したNさん宅の建前は、爽やかな五月晴れの下で行われました。設計図を板に移し込んだ「手板」に沿って1本1本の木を組み上げます。「事前に確認もしていたので、現場では問題なく組み上げることができました。それでもやはり組み上げ作業が終わったときにはほっとしました」と専務。


完成したNさん宅

高台に建つNさん宅の外観
高台に建つNさん宅の外観
リビングの外のポーチ。縁側のように使うこともできる
圧巻の玄関ホール。施主が用意したケヤキは梁や柱のほか、式台や和室にも使われている
一続きになったリビングとダイニング・キッチン。目隠しの格子は部屋のアクセントにも
一続きになったリビングとダイニング・キッチン。目隠しの格子は部屋のアクセントにも

高級旅館を思わせる贅沢な空間の中に、細部にわたるまで工夫と配慮が施されたNさん宅。そこには斉藤工匠店の手刻みならではの技と、何よりお施主さんの思いを叶えたいという心遣いが感じられます。その想いがある限り、この先も匠の技は受け継がれていくことでしょう。