実家に残る築100年の蔵を、
モダンにリノベーション
実家の敷地内に建つ築100年の蔵。家づくりを考えていたMさんに対し、実家の両親は「蔵を建て替えてもいいしリフォームしてもいいから、ここに住んだらどうか」と提案します。好きにして良いといわれた一方で、「できるなら蔵を残してほしい」という父親の思いも感じていたMさんご夫妻。そこで、友人が家づくりを依頼し、デザインのテイストも気に入っていたシェルターに相談して、建て替えかリフォームか迷っていることを伝えました。
建物の状態を確認すると、傾きを直す必要はあるものの、躯体はしっかりして傷みが少なく、柱や梁はほとんど残して再利用できることが分かりました。奥さんが古くて味わいのあるものが好きだったこともあり、Mさんご夫妻は、石基礎、柱や梁などの構造材、屋根部分を生かしたスケルトンリノベーションをすることに決めました。
LDKで存在感を放つのが、オールステンレス製のダイニングテーブル一体型キッチン。「とにかくキッチンにいるのが好き」という奥さんが何度もショールームに通って選びました。このダイニング・キッチンを置くことを前提に家のプランニングが進んだというだけあって、素材の無機質でクールな質感が、LDK空間のモダンな雰囲気を効果的に印象づけています。
蔵の趣や面影を残しつつ、
快適で豊かな暮らしを実現
今回のリノベーションで設計担当者は、築100年の蔵の趣や面影を残しつつも、現代的な家族の暮らしに寄り添った快適な空間づくりに心を砕きました。モダンなデザインのキッチンが映えるLDKは、現しの梁の古材ならではの風合いが、空間に深みをもたらしています。室内は断熱性能を高め、高性能なサッシによる大開口で明るさを確保。床暖房で暖められた空気が通風口を通って循環し、家全体が暖まるようにしました。
また解体処分した土壁の一部を残しておき、外壁を元の蔵と同じような色に仕上げることで、かつての面影を残す工夫もなされています。さくらんぼ農家であるご主人が出入りしやすいように設置した母屋側の勝手口は、将来的に母屋と渡り廊下でつなげられるよう配慮。立派な牛梁が貫く2階は、切妻屋根の勾配天井が生活の妨げにならないようにクローゼットやベッドを配置するなど、生活動線まで綿密に練られた設計がかたちになりました。
「キッチンに立つとすべてに目が行き届くので、この空間が私たちにちょうど良い大きさ。希望どおりの家になりました」と大満足の奥さん。リノベーションによって「家族を守る」という新たな使命を得たこの蔵の家は、これからMさんご一家の豊かな暮らしの歴史を刻んでいきます。
>>コーディネートのポイント
スタイリッシュなダイニングに、柔らかな明かりを灯すペンダントライト。これは山形のガラス作家の作品で、奥さんが探し出して選びました。ガラスの自然なゆらぎや色が、古材とよく合っています。
〈(株)Shelterデザインセンター・田中研一さん〉「住み継ぐ、築100年の蔵」
山形県東根市・Mさん宅
家族構成/夫婦30代、子ども1人■建築DATA
構造規模/木造・2階建て(築100年)
リノベーション面積/約111.34㎡(約33坪)
工事期間/約4ヵ月