高度成長期〜電気は安値安定

今回のテーマである電気はどうでしょうか。1950年には1kWhあたり5.84円でしたが、そこから2年ほどで急激な値上げが続き、1953年には10.7円になります。この電力値上げを仕掛けたのが、先の「電力の鬼」松永です。松永は将来の電力需要の急増を予測し、発電・送電設備への先行投資が必要であるとして、電気代の値上げを強引に推進しました。当然、消費者からは激しい反発があったそうですが、そのおかげでその後の急速な電気需要に対応できたわけです。

その後は安価な石油の恩恵もあり、1970年はじめまで電気は10円代前半で安定していました。同時期の急激な所得・支出の増大に伴い、電気代は相対的に安くなりました。三種の神器をはじめとした家電の普及の裏には、こうした電気代の低廉化が大きく影響していたはずです。

オイルショックで電気代が2倍に。でもまた安く

1970年台の2度にわたるオイルショックを受け、石油の価格は大幅に増加しました。電気の単価も増加し、ピークは1985年には28.9円にまで上昇します。本当はこの時にもっと省エネ・節電に励むべきだったのでしょうが、前述のとおりこの時期にも電力消費は増え続けました。電気事業者は安い電気を求めるユーザーの声に押されて、原子力などの電源多様化で対応します。そのおかげで、電気代は再び低下をし始めます。2010年には20.37円にまで安くなり、またハッピーな生活が戻ったかに見えました。

震災、そして格差の時代へ

その矢先に震災が発生。原発停止などにともなう燃料費増大で電気代が再び上がり始めたのはご存知のとおりです。とはいえ、まだ1985年のピークには届いていないのです。この先、電気代が高くなるのか安くなるのか。それは筆者には予想もつきません。ただ言えるのは、電気代は所得の少ない家族ほど大きな負担になっているという現実です。

図4に、家計調査に基づき、所得にしたがって5分位に整理された家計の内訳を示しています。ここでは主に、所得が少ない下位20%の「Ⅰ」と所得が多いリッチな上位20%の「Ⅴ」を比較してみましょう。

図4 住宅のエネルギーに占める電気の割合は急増
所得の少ない世帯から多い世帯まで、世帯数で5等分された家計の内訳です。Iは所得が下位20%、Vは上位20%のリッチな世帯の平均です。表の右列には、各項目のVに対するIの割合を示しました。衣服・教育は所得階級により大きな差がある一方で、食料や住居そして電気は差が小さいことが分かります。電気はお金持ちだからたくさん使うものではなく、貧乏だからと減らせるものではないようです。   
出典:家計調査2015年 年間収入五分位階級別1世帯当たり1ヵ月間の収入と支出(全国平均)

「実収入」は29万円と84万円で差は2.8倍、「消費支出」は22万と44万で差は2.0倍となっています。「食料」の差は5万7千円と9万6千円で、その差は1.7倍とそれほど大きくありません。「住居」は0.8倍とリッチなⅤの方が逆に少なくなっています。これは所得が多いほど持ち家率が高く、借家で家賃を払う人が少ないことが原因でしょう。

「衣服」や「教育」は、それぞれ差が3.3倍と4.5倍で差が非常に大きく、特に教育は格差を固定化させるとして問題になっているわけです。

光熱・水道については、20,541円と26,092円で1.3倍と差が小さく、その約半分を占める電気については9,143円と12,713円で1.4倍の差にとどまっています。つまり、電気などのエネルギーは貧しいからとそれほど減らせるわけではなく、お金があるからとドンドン使うものでもなさそうです。所得が少ないほど、電気代が負担となっている様子が伺えます。

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