放射環境が悪いと快適な空間はできない
このPMVモデルでは人体の放熱がある程度再現されています。そのため、もっとも快適に感じる対流と放射の関係、つまりは空気温度と放射温度のバランスを推測することが可能です。快適な温熱環境というと、ついつい空気温度ばかりを意識しがちです。しかし、PMVモデルで熱収支を見てみると、放射温度の影響がかなり大きいことが分かります。図8をご覧ください。
外皮の断熱性能が不足している建物では、冬に放射温度が極端に低くなります。放射による放熱量が過大になるため、対流による放熱を減らすために空気温度はかなり高めに設定しなければなりません。夏は冬の反対です。環境側の放射温度が極端に高い状態では、放射により人体が加熱されてしまうため、冷たい空気をあてて対流での放熱量を増やさなければなりません。
熱い天井と冷たい壁は不快の元
PMVモデルでは、放射温度を周辺壁全体の平均温度として扱っています。しかし、断熱不足の部位のせいで極端に熱い面・冷たい面があると、人間は非常に不快に感じます。図9に示すように、アメリカ空調学会(ASHRAE)は、熱い天井と冷たい壁があると、不満を感じる人が急増することを示しています。夏に灼けた天井のせいで頭がクラクラする、冬に冷たいガラス面の近くに座っていたら体がかじかんだ、という経験をした人は多いでしょう。いごこちのよい空間をつくるためには、こうした表面温度のムラがおきないよう、特に熱的に弱点となる屋根や窓をケアしておくことが肝心となります。
空気温度と放射温度を近づける断熱が快適へのカギ
このように、断熱が不足した状態で無理に暖冷房を行っても、空気温度と放射温度のバランスが崩れてしまうのでなかなか快適な空間にはなりません。熱い空気は軽く、冷たい空気は重いので、温度ムラが非常に大きくなってしまうのです。
また、冬にメインの暖房では足元が暖まらないと、ついつい手軽な電気ヒーターがほしくなります。実は筆者もその口なのですが、1の電気をただ1の熱に変えてしまう低効率のヒーターの利用は本来控えなければなりません。
いごこちのよい空間をつくるためには、空気温度だけでなく放射温度も整えること、つまり壁や窓の断熱が不可欠なのです。断熱を改善することで、空気温度と放射温度がほぼ同じとなる温熱環境をつくることができれば、暖冷房時のムラも大きく減らすことができるのです(図10)。
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