関西から北海道への移住で叶えた
宿泊業への新たな挑戦
50代でアーリーリタイアを決意し、関西から東川町に移住したWさんご夫妻。「当初は美瑛町を検討していましたが、観光地としてにぎわっていて、生活の場としては私たちに合わない気がして。その点、東川町は水が綺麗で生活環境も静か。1ヵ月間の移住体験でその魅力を改めて実感することができました」と、同町への移住の経緯を語ります。
Wさんには、新天地でどうしても叶えたいことがありました。それは、旅行好きが高じて憧れを抱くようになった宿泊業への挑戦です。町内のアパートを仮住まいに、約2年の月日を費やして大雪山を望む理想の土地を見つけました。
完成した一棟貸しの宿「青SORA Terrace」は、三角屋根の小さな平屋。田園と山々の風景をパノラミックに映し出すリビングの大きな窓が宿泊者の心をつかむ、土地のポテンシャルを最大限に引き出したコテージです。
設計を担当したアーケン(株)が賛同している「白樺プロジェクト」に絡めて、床にはシラカバ材の無垢フローリングを採用。さらには、ご夫妻が直接山へ出向いて選んだ4本のシラカバの木で寝室とリビングをゆるやかにゾーニングし、北海道らしさに満ちた上質な空間に仕上げています。
コテージでの観賞用にふさわしい
バイキング「マイロ4」
新天地で実現した理想の宿「青SORA Terrace」で、Wさんは「薪ストーブのある暮らし」というもう一つの夢を叶えました。
「私たち夫婦は大学時代にキャンプサークルに所属していて、昔から焚き火が大好きでした。関西で家を新築した際も薪ストーブを検討しましたが、近隣への配慮から断念。薪ストーブは私にとって長年の憧れで、せっかく北海道で暮らすならと、新居とコテージの両方に設置することにしました」と、Wさんは語ります。
アーケンの紹介で、旭川の薪ストーブ専門店コロポックルと出会ったWさん。「宿泊するお客様が炎をゆっくり楽しめるストーブにしたい」という要望から、同店担当の橋口宏二さんが見立てたのが、デンマーク生まれのストーブブランド・WIKING(バイキング)の縦型薪ストーブ「マイロ4」です。
「マイロ4」はHWAM(ワム)のセカンドライン的な存在で、価格もHWAMと比べるとリーズナブル。Wさんはご自宅ではIRON DOGの「Nº07」を使っていますが、コテージは延床面積が15坪と自宅と比べてコンパクトなので、「Nº07」だとスペックオーバーで、圧迫感も生まれてしまいます。
「建物の面積と、観賞用という目的、そしてコスト面を考慮して検討した結果、この薪ストーブが適していると判断しました」と、橋口さんはその理由を語ります。
「マイロ4」は狭小住宅にも設置が可能なコンパクトでスリムなフォルムが魅力のひとつ。普遍性のあるシンプルなデザインが目を引く注目の鋼板製の薪ストーブです。
鋼板製の薪ストーブは鋳物製と比べて本体が暖まりやすく、速暖性に優れているのも特徴。「普段使い慣れていない方でも扱いやすく、短時間で室内を暖めてくれるので、宿泊されるお客様にも気楽に快適に楽しんでいただけるのではないでしょうか」と、橋口さんは話します。
コロポックルのショールームにも足を運んだご夫妻は、薪ストーブの周辺アクセサリーもお店で一式そろえたそう。「センスの良いセレクトで、見ているだけで楽しい気持ちになる場所。スタッフの方が皆さんとても親切で、薪ストーブの扱い方などを丁寧に教えてくれました」と、ショールームで薪ストーブのある暮らしへの期待が一層高まったと言います。
アーケンの担当・太田さんの提案で、薪ストーブは広い玄関土間に設置。土間から床レベルを上げたフロアをベンチ替わりに炎を鑑賞することを想定していて、外の薪棚から薪を運ぶ動線もスムーズです。
炉壁はグレーのレンガを採用していますが、「鋼板製の薪ストーブは炉と外板に空気層を設けています。空気層が熱を一度吸収し、さらに鉄板が熱を遮るので背面や側面が熱くなりすぎない設計です。この機種は壁から15cmほど離せば炉壁の設置は不要なので、炉壁はあくまで意匠として採用しています」と橋口さん。省スペースを図りながら、室内のデザインに合わせて炉壁の有無を選べるのも、鋼板製薪ストーブのメリットです。
2024年3月の竣工後、プレオープン時には関西時代の友人たちが何組も泊まりに来てくれたそう。「様子を見に行くと、太田さんが思い描いていたとおり、皆が自然とフロアに腰を下ろして薪ストーブの炎を眺めて過ごしていました」と、Wさんはゆらめく炎が北海道で過ごす豊かな時間を演出していることを改めて実感できたと話します。
6月にオープンを迎えましたが、コテージ用の薪にはコロポックルの薪販売サービスを利用し、本格的な薪ストーブシーズンに向けて薪の支度も万全です。
一面の雪景色の中で、揺らめく炎や薪のはぜる音とともに暖を取る。それはまさに、Wさんが思い描いた北海道の冬の過ごし方。「今後は敷地内にバレルサウナの設置も予定しています」と、ご夫妻はこれからの計画を楽しそうに語っていました。