本連載第30回で、新しい輸入ガラスが従来の国産ガラスに比べて、暖房費削減の効果が大きいことを示しました。当時はそのガラスはPVCサッシのメーカー一社だったのですが、最近もう一社のトリプルガラスサッシに採用され、また輸入先のサンゴバン日本支店からも購入できるようになり、ガラスを自由に選べる木製やPVCサッシメーカーのサッシで使えるようになりました。今回は、このガラスを入れたサッシの効果について詳しく検証します。

複数のメーカーのサッシで新型ガラスが採用された

本連載第30回で、新型の輸入ガラスが暖房エネルギーの大幅な削減を可能にすることを述べました。新住協が目指している、全棟Q1.0住宅レベルー3以上の住宅建設も、新型ガラスを採用すればペアガラス窓でも可能になります。  

しかし、北海道ではトリプルガラスの採用が当たり前になり、ペアガラスで住宅をつくると、建て主から手抜きではないかと言われかねないほどです。トリプルガラスは、ペアガラスより熱損失が小さくなりますが、日射熱が取り込みにくくなるため暖房エネルギーはあまり減りません。ただ、ガラス表面温度が高くなり、窓からの冷輻射がほとんどなくなりますから、快適性は向上するので、必ずしも悪いことではありません。  

2024年になって、大手サッシメーカーのYKK APがトリプルガラスに限って、新型ガラスを採用するサッシを販売し始めました。多くのサッシメーカーは国内の特定大手ガラスメーカーと提携してガラスを採用しています。YKK APは当初から輸入ガラスをペアガラスに組み立て、自社のサッシに採用してきたメーカーで、この動きは当然といえるかもしれません。ガラスメーカーを特定していない一部木製サッシなどでも、この新型ガラスを採用できるようになりました。

新型ガラスは2種類
貫流率向上型と日射侵入率向上型

ガラスの性能値の中で、住宅の省エネ性能に大きく関わるのは、熱貫流率と日射侵入率です。熱貫流率が小さいと、窓からの熱損失が小さくなり、住宅の暖房負荷が減ります。また日射侵入率が大きいと、窓から取り込む日射熱が増え、やはり暖房負荷が減ります。

しかし、この2つの性能は相反するようで、両方が良くなるガラスはありませんでした。日射侵入率が大きいと熱貫流率も大きくなり、熱貫流率が小さいと日射侵入率も小さくなるのです。そのため、QPEXで暖房負荷を計算すると、どちらのタイプのガラスを使ってもあまり暖房負荷は変わりません。

日射量の大きい地域では、若干日射侵入率重視型の方が有利で、日射量の小さな日本海側の地域では、若干熱貫流率重視型の方が有利なようです。ペアガラスとトリプルガラスの関係でも同じようなことがいえます。トリプルガラスは、日射侵入率が20%近くも下がりますから、大幅に熱貫流率が小さくなっても、暖房負荷削減効果はそれ程大きくならないのです。  

図1にこの2つの性能を軸にしたガラス性能のグラフを示します。

図1 ガラスの熱貫流率と日射侵入率による性能比較

このグラフに、最近使えるようになった新型ガラスの性能も含めて、トリプルガラスの部分を拡大したものが図2です。

図2 図1のトリプルガラスに最新の新型ガラスを加えた性能比較

これで見ると、新型ガラスには2つのタイプがあることが分かります。熱貫流率向上型と日射侵入率向上型です。

熱貫流率向上型のガラスは、既存のトリプルガラスのグループが斜めに楕円形で囲まれていますが、この楕円の幅を変えればこのグループに入ってしまいます。つまり、暖房負荷が小さくなる方向ではない性能変化のため、暖房負荷はあまり変わりません。実際QPEXで計算してみても、ほとんど変わらないことが分かります。  

日射侵入率向上型のガラスは、熱貫流率も若干小さくなりながら、日射侵入率が大幅に改善し、暖房負荷が小さくなる方向に性能が改善されていることが分かります。このグループの中で、特に熱貫流率が小さくなっているのは、空気層の厚さを18㎜としたガラスです。  

住宅の省エネ性能向上には、熱貫流率向上型はほとんど寄与しません。しかし、開口部の熱貫流率が小さくなり、住宅全体のUA値が小さくなるため、省エネ基準の等級7の住宅を実現するには有力な手段になります。そしてその住宅は、省エネ性能は逆に悪くなるのです。このあたりに、UA値で規定する省エネ基準の問題点が潜んでいます。

図3は、最新のYKK APのトリプルサッシAPW430のカタログから引用した図ですが、日射侵入率向上型のガラスが組み込まれています。サッシ枠に発泡断熱材を挿入して若干サッシの熱貫流率を向上させたタイプもあります。

図3 YKK APの新型ガラスを採用したAPW430

図4はシャノンウィンドウのやはりサッシ枠に発泡ウレタンを注入した高性能サッシで、採用されているガラスは熱貫流率向上型です。

図4 シャノンウィンドウの熱貫流率向上型の新型ガラスのサッシ

サッシの熱貫流率はガラスと枠の断熱材注入によって、大幅に小さくなっています。このようなサッシの熱貫流率の数値にするには、枠の性能だけではなく、熱貫流率重視型のガラスの役割も大きいのですが、住宅のUA値が小さくはなりますが暖房負荷はそれ程減らないことになります。  

シャノンウィンドウには、日射侵入率向上型のガラスもありますから、こちらを採用したいのですが、日射侵入率向上型のガラスは、北海道・東北のみの販売ということで、他の地域では選択できません。また、ウレタン注入発泡のサッシ枠は、廃棄時にウレタンと塩ビの分別ができないことから、ヨーロッパでは生産されなくなっています。