地球上でさまざまな災害を引き起こしている気候変動は、人の営みや経済活動によって排出されるCO2量の増加が一因とされています。その状況を改善するために、今、食や自動車、衣料品などさまざまな分野で「脱炭素化」への取り組みが活発化していますが、それは住宅でも同じです。そこで今回は、北海道の重要な自然資源の一つである「道産木材」を解説します。
「道産木材(道産材)」とは?
「道産木材(道産材)」とは、「北海道で産出される木材」のこと。私たちに身近な住宅や家具はもちろん、最近は社会的なカーボンニュートラルへの取り組みの活発化により、道産木材は今、公共施設や商業施設でも積極的に利用され始めています。
総面積の約70%を森林が占めるほど、北海道には豊かな森林資源があります。北海道の森林の約30%は木を利活用する目的で植林された「人工林」です。人工林の役割は、何十年というサイクルで「人が使うための木」を安定的に産出すること。
特に建築資材用の木材は、曲がりや節が少ない良質な材が求められるため、下草刈りや間伐など、人が定期的に森を管理して、健全な生育環境を整えることが必要です。
人の手が適切に入った人工林は、土にしっかりと根を張って土砂災害のリスクを減らしたり、水源かん養機能※を高めたりと、間接的に暮らしの安心を守ります。道産木材を使うことは広い意味で、私たちが暮らす土地の環境保全につながっていると言えるでしょう。
※雨水や雪解け水を土中に蓄えたり、水質を浄化したり、洪水を緩和したりする森林の機能のこと
知っておきたい!関連キーワード
ウッドマイレージ「ウッドマイレージ」とは、建築などで使われた木材について「どのくらいの量を、どのくらいの距離移動させたかを示す指標」のこと。評価値には、木材の産地から製品の製造地までの輸送距離、輸送方法、木材の種類、輸送にかかるエネルギー使用量などが含まれます。世界的な環境意識の高まりとともに、木造建築や木製品などの持続可能性と環境への影響を「見える化」する方法として注目されています。
「道産木材」のメリット・魅力とは?
01 質の高さ
冬の寒さが厳しい北海道の自然環境で育った道産木材は、木目が詰まっていて堅牢で美しく、木材としての質が高いといわれています。適切な設計・施工のもと、良質な木をふんだんに使うことで、美しくて居心地が良く、地域の気候風土に適した高耐久な住まいを実現できます。
02 コストパフォーマンス
コロナ前までは割高感が否めなかった道産木材ですが、コロナ禍で海外からの輸入木材の価格が高騰したことにより、道産木材のほうが割安だったり、以前ほど大きな価格差ではなくなったりしているケースもあります。入手の仕方によっては手の届きやすい価格帯になっているのも魅力です。
03 木材の多様な選択肢
樹種の多様さも道産木材の魅力。本州では、建築資材に用いられる地域材はスギ、ヒノキ、カラマツ、ヒバなどの「針葉樹」が主ですが、北海道では道南スギやカラマツ、トドマツなどの「針葉樹」はもちろん、ナラやニレ、センなどの「広葉樹」もフローリング材などの内装材として選ぶことができます。
04 環境の保全や地域の経済に貢献
「道産木材を使って家を建てること」は、木材の輸送にかかるエネルギーやCO2排出量の削減、健全な森林環境の維持、林業や木材加工産業の活性化や雇用の創出など、環境保全や地域経済に間接的に貢献します。木は再生可能な資源。積極的に使うことで地域全体に良い循環が生まれます。
「道産木材」を使う際の注意点
さまざまなメリットや魅力のある道産木材ですが、採用にあたっては「木は生き物である」という点をあらかじめ理解し、受け止めておく必要があります。
01 膨らんだり縮んだり、時に割れたり反ったりすることがある
道産木材に限らず「無垢材」は自然のもので、建材になってからも生きています。室内の温度や湿度の高低で膨らんだり縮んだりしますし、時に割れたり反ったりすることもあります。
02 同じ樹種でも色味や木目の雰囲気が異なる
人工的な建材ではないので、同じ樹種をオーダーしても、木の生育環境や個性によって、色味や木目の雰囲気がそろわないこともあります。その素材としての不均一さや、生活の中で刻まれていく傷や時間による色や風合いの経年変化を「魅力」と捉えられるなら、道産木材を用いた家で心健やかに暮らしていけるでしょう。
参考にしたい!道産木材の家 実例3
01 古材まで生かした道産木材100%の平屋
道北地域の森林を研究する技術職員で、森と木のプロフェッショナルであるSさんが建てたのは、もともと敷地に立っていた納屋で使われていた広葉樹「シウリザクラ」の構造材を活かした平屋です。
外壁材はカラマツ材、フローリングはミズナラ材、天井はトドマツ材とすべてが道産木材。かつて立っていた古い家と納屋から引き継いだ古材は、梁や大黒柱、窓台や玄関の上がり框などにフル活用しました。
「以前の古家は1920年代ごろに建てられたものだと聞いています。開拓の歴史を感じるこの見事な梁が見えるように、平屋を選択しました」とSさん。新旧の道産木材が、この住まいに唯一無二の風合いと温もりをもたらしています。
▼詳しくはこちらの記事をご覧ください
熟練の腕で古材を生かした「道産木材100パーセント」の自然になじむ平屋|シンハマホーム(有)新濱建設
02 道産カラマツ材をふんだんに用いた切妻屋根の家
家族でキャンプして過ごすのが休日の楽しみだったKさんご夫妻は、栗山町の自然豊かな分譲地の一角に家を新築しました。
子育てが卒業間近なご夫妻にとって、初めての家づくりはこれからの暮らしを考えるきっかけに。「夫婦2人住まいなら、互いの気配が感じられるコンパクトな家で十分。その代わり庭は広く、家にはできる限り木を多く使い、薪ストーブを採用したい。夫婦でこれからの暮らしを楽しむ場所にしたいと思いました」と、Kさんは話します。
新居では、外壁材や玄関ポーチを支える柱、構造材、天井の合板などに道産カラマツ材を多用。カラマツ特有の木肌が暮らしを優しく包み込む、やすらぎの住空間が実現しました。
▼詳しくはこちらの記事をご覧ください
夫婦のこれからを託した 星降る丘の小さな家||武部建設(株)
03 Uターン移住で叶えた北海道の木づくりの住まい
「子どもたちを夫婦の故郷である北海道の自然豊かな環境でのびのびと育てたい」。そんな想いでSさん東川町への移住を決め、新居を建てました。家づくりの過程で出てきた大きな要望の一つが「自然素材を使った木の家」。その希望どおり、完成した住まいには木がふんだんに使われています。
外壁材は道南スギ。カーポートと一体的にデザインされていて、塗装で落ち着いた色味に仕上げられています。LDKの壁の一部にも道南スギの板を張ってアクセントウォールに。こちらは道南スギ本来の色をそのまま生かした仕上げです。
天井はカツラ材、床にはナラ材のフローリング。個性の異なる木をバランスよくコーディネートした空間が、ご家族に北海道の住まいと暮らしにふさわしい安らぎをもたらしています
▼詳しくはこちらの記事をご覧ください
東川町の清々しい空気の中でのびのび暮らす木の住まい|(株)芦野組
木特有にやわらかな質感と風合い、色味は、「自宅をリラックスできる空間にしたい」という方にはぴったりの素材。さらには「道産木材」を積極的に活用することで、北海道の気候や風土に合った住空間を実現でき、間接的に地域の環境保全への貢献にもつながります。これから注文住宅を検討する方は、「道産木材」にもご注目ください!
(文/Replan編集部)