前回、省エネ基準の基礎断熱熱損失計算が間違っているため、基礎断熱住宅では等級7住宅のレベルが下がり、Q1.0住宅レベル-4と同じになることを示しました。こんなばかなことは2025年の義務化には是正されると思います。今回は、本当の等級7住宅のコストパフォーマンスはどうなるのかについて分析してみます。併せて、近年の急激な温暖化についても気象データから見てみたいと思います。
北東北に建てられた工務店のモデルハウス
数年前に、北東北の新住協会員の工務店がモデルハウスを建設しました。5×3.5間の総2階で、2階にロフトのある中3階建て・約40坪の住宅です。小さな工務店なので、事務所と自宅を兼ねたモデルハウスです。スペースの関係で図面や写真は掲載できません。私が2023年に書いて出版した「Q1.0住宅 データから導く計画マニュアル2023(市ヶ谷出版社)」には掲載されているので、詳細はこの本を参照してください。
この工務店は古くからの新住協会員で、これまで長い間建ててきた高断熱・高気密住宅の技術のいわば総決算のような気持ちで、このモデルハウスを建設したように見えます。
表1の右端に、この住宅の断熱仕様を示します。
屋根、外壁ともHGW16㎏315㎜、基礎断熱はPSF3種130㎜、土間下全面には多少薄いのですが30㎜を施工しています。開口部はPVCサッシを中心に一部木製サッシとして、ガラスは2Ar2Low−E16㎜トリプルガラスを入れています。建設地域は3地域なのですが、この地域ではQ1.0住宅の一番高いレベル−4をはるかに超えています。
ただ、1~3地域の省エネ基準等級7のUA値≦0.200には届きません。ここでのUA値の計算は省エネ基準の計算法ではなく、QPEXの詳細計算によるものです。省エネ等級の申請を省エネ基準計算法によって行えば、当然楽にクリアできるレベルです。
この住宅で、Q1.0住宅レベル−1~4と省エネ基準等級4と7の断熱仕様を設定してみました。それが表1です。このプランは、正方形に近い長方形の総2階プランで、かなりの面積のロフトがあり、この部分は天井高も普通より低く、結果として断熱効率の高い構成になっています。Q1.0住宅レベル−3でも、外壁150㎜級で可能で、レベル−4でも外壁200㎜級で実現しています。モデルハウスは外壁300㎜級ですが、等級7はやはり300㎜級の内100㎜のネオマフォームが必要です。これで断熱工事費は大きく高騰します。
この住宅の詳細な見積書を入手でき、それをもとに断熱仕様毎に断熱工事費も積算してみました。表1には住宅の全工事費が示されています。省エネ基準等級4の住宅から、ほかの仕様が高くなっている分はすべて断熱工事費の増分です。また、盛岡を建設地として暖冷房負荷をQPEXで計算しています。暖房負荷の削減は著しく、等級7では灯油124Lと等級4の10分の1以下になっています。
1~3地域では Q1.0住宅レベル−4のコストパフォーマンスが高い
図1は、表1から各仕様の断熱工事費増分と暖冷房費を合計したグラフです。
暖冷房費は10年、30年、50年で計算しました。灯油および電気代は将来の値上がりを見越して、灯油130円/L、電気45円/kWhで計算しています。この棒グラフで高さが低いほど10年~50年で暖冷房費を加えたコストが少ないことを示しています。つまり、断熱工事費にお金をかけてそのコストパフォーマンスが高いことになります。
10年の短い期間では、断熱工事費増が一番少ないQ1.0住宅レベル−1がコスパが良いことになりますが、こうした判定はもっと長期間で見る必要があります。30年、50年では、Q1.0住宅レベル−4がコスパが良いことが分かります。もう少し詳しく見ると、30年ではレベル−3~4とモデルハウスはほんの少しの差で、等級7のコスパがかなり悪いことが分かりますが、50年では断熱工事費の償却年数が長くなることから、レベル−4と等級7の差は小さくなり、レベル−3との差は拡大しています。また、同じ分析を5~7地域の温暖な地域で行うと、コスパが最も高いのはレベル−3ということになりました。
このような計算は、太陽光発電を取り込むと、給湯エネルギーや、電気の買い取り料金が関係してきてより複雑になります。
新住協では20年近く前から、会員に全棟Q1.0住宅レベル−1以上で住宅を建て、予算があればレベル−3以上で建てようと呼びかけてきました。脱炭素の声がかかり、これからは全棟Q1.0住宅レベル−3以上の建設を呼びかけています。予算があればレベル−4を目指すというものです。施主の予算は十分とはいえないことが多いので、「全棟Q1.0住宅レベル−3」はかなり厳しいものです。このためには、格段のコストダウンを住宅全体に対して行う必要があると考えています。このための全会員向けセミナーを各支部単位に始めています。