仙北市角館町の武家屋敷通り沿いにある土地をご両親から受け継いだSさん。定年を目前にした3年前、東京から角館に戻り、カフェ併設の家を建てることを決意しました。武家屋敷通りは景観の規制が厳しい地区で、住宅の外観に対してもさまざまな条件があり、伝統的なつくりでなければなりません。

美しく色づくモミジと相まって「角館伝統的建造物群保存地区」としての街並みに貢献する重厚感のある外観。Sさん宅の敷地内にある国指定天然記念物のシダレザクラから半径10m以上離して建築することも条件のひとつだったそう
鳥衾(とりぶすま)と化粧梁が武家屋敷通りにふさわしい佇まい

この難条件をクリアし、気候風土にも合った快適な家を建てられるのは地元工務店しかいないと考えたSさんご夫妻。インターネットで会社探しをする過程で見つけたのが仲野谷工務所でした。施工実績や高性能住宅づくりへの熱意にも好感を持ち、実際手がけた住宅も見学して、正式に新築を依頼しました。計画から竣工までに約3年。そのうち、外観の許可が下りるまでに約2年を要しました。

漆喰の壁と黒の保護塗料を塗った秋田スギで格調高い仕上がりに
造作の引き戸を開くと現れる風除室。店舗内に入る扉は断熱引き違い戸を採用し、性能にも配慮した
玉砂利洗い出しの玄関土間。人が多く出入りすることを想定して、敷居は耐久性の高い白御影石とした

完成した店舗併用住宅は、外観は重厚感のある武家屋敷そのものですが、内観は奥さんの要望を形にしたレトロなヨーロッパ風です。壁紙は色味やデザインの異なるダマスク柄で統一し、家具もアンティーク調でそろえています。

自宅用の玄関。右は店舗、左はリビング・ダイニングに続いている。絵をかける場所は設計段階で指定し、レールを付けた
家族団らんの時間が流れるLDK。Sさん宅はオール電化仕様で、暖房はパネルヒーターとし、電気暖炉(上写真中央)を補助的に設置した

自宅用と店舗用の2つのキッチンは、近くに配置し回遊動線で結ぶことで、家事も仕事もストレスなく効率よく行えるようにしました。

8帖とゆとりのある広さの自宅キッチンは、家族3人で一緒に料理ができるほど。シンクの足元にあるパネルヒーターでキッチン全体を暖める
廊下をつくらず、ユーティリティ、脱衣スペース、浴室などの水まわりを隣接させたことで、LDKをより広く使えるようにした
フランスのアンティーク調のダイニングセットとシャンデリア。左奥へ進むと店舗につながっている
12帖の広さがあるご夫妻の寝室には、ウォークインクローゼットを備えた。ドレッサーの上にあるペンダントライトも奥さんのセレクト

店舗部分では、これから家族でカフェを経営する予定。「今後はカフェとして、憩いと癒やしの空間を提供できたら」とSさんは話します。新しい土地で新しい生活を始めるご家族をしっかりと守ってくれる安心の住まいが完成しました。

店舗は50㎡以下という規制もある同地区。白系の壁に、こげ茶の床や構造材を組み合わせることで、レトロ感が漂う落ち着いた雰囲気に

文化庁が管轄する「伝統的建造物群保存地区」で新築住宅を手がけたのは今回が初めてでした。城下町にふさわしい伝統的な意匠を尊重すべく、市や文化庁と打ち合わせをしながら、当社のこだわりである外張り断熱を実現するためにも、さまざまな工夫を凝らしました。
外観には金属や白と黒以外の色が使えなかったため、店舗入り口の引き戸やガレージの折り戸を自社で造作しています。ガレージから室内に入る動線、店舗と自宅のキッチンをつなぐ回遊型の間取り、こだわりの壁紙や照明など、室内はSさんご家族のご要望をほとんど取り入れることができました。何より角館の歴史・伝統・文化の承継に貢献したいというSさんの気持ちに寄り添うことができたことを嬉しく思います。(仲野谷工務所)