超蓄熱
「いごこちの科学」1回目でも、蓄熱のことに触れました。最近では、実用化に向けて製品がいくつか登場しています(図6)。前述の高性能開口部と合わせれば、日中の日射熱を上手に蓄熱して夜間に放熱させることで、無暖房住宅の実現も不可能ではありません。ただし、蓄熱で省エネを図るためには、ユーザーの意識も変わらなければなりません。24時間いつも一定の温度でなければ嫌、と言われてしまっては、蓄熱はほとんど効果を発揮できません。
最近登場した「潜熱蓄熱」は、ある温度帯で集中的に吸放熱ができます。これは蓄熱量に応じて温度が大きく変化してしまうコンクリートや水による「顕熱蓄熱」に比べて、大きなアドバンテージとなります。しかし潜熱蓄熱といえど、少しは室内の温度が上がらなければ吸熱しませんし、若干は室温が下がらなければ放熱もできません。蓄熱を利用し自然エネルギーを活用するには、ある程度の室温変動を許容する必要があるのです。
人にはさまざまな価値観があります。家族に1日中、安定した温熱環境で過ごしてほしいという願いは一概に否定されるものではありません。一方で、昼間は日射で多少暖かく、夜も寒くはない。こうして1日の自然のサイクルを穏やかに感じたい、という人もいるでしょう。どの程度の室温変動なら快適とされるのか、実はまだ明確ではありません。この温度変動の快適範囲の把握こそ、蓄熱の最重要テーマ。蓄熱を活用した無暖房住宅の開発はここ1〜2年が正念場でしょう。
超湿度
快適な温熱環境においては、湿度管理も大きなテーマです。高断熱住宅では温度環境が大幅に改善されますが、今度は湿度、つまり冬の乾燥が気になるという人が北海道では多いようです。そして何より、高温多湿な日本の夏を快適に過ごすためには、湿度調整は避けて通れません。
人間は5万年前までアフリカで暮らし、暑くて乾燥した気候に最適化された生き物です。その最大の武器は「汗」です。人体からの放熱のうち、「放射」や「対流」は周りの温度と着衣量で勝手に決まってしまいます。後は鳥肌をたてる?くらいで、あまり制御できる余地がありません。一方で汗による「蒸散」は汗腺からの発汗量次第でかなりコントロールができるので、体にとっては使い勝手がよいのです。
周辺環境の温度が上昇して放射・対流による放熱量が減少したり、運動して代謝熱が増加した場合には、汗の量を増やす蒸散がメインの放熱手段になります(図7)。しかし、アフリカの乾燥した気候なら汗はどんどん乾き体を冷やしますが、日本の高温多湿な気候では汗はなかなか乾きません。効果的な蒸散のためには、空気の湿度を下げてやる必要があるのです。湿度を下げる工夫をデシカントなどと呼びます。
最近では、湿度制御に特化した機器も登場してきています。一方で、涼しさを感じるためには温度と湿度のどちらを調整するのがより効果的なのか、これは難しいテーマです。筆者はこれまで冬向きの研究をしてきましたが、湿度も含めた夏についても考えていきたいと思います。
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