北海道では「ゼロカーボン北海道」の実現に向け、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年よりも48%削減するという中間目標が設定されました。この中間目標達成に向けた施策の一つとして新設された「北方型住宅ZERO」について、地域工務店の理解を深めるとともに、工務店と道庁の意見交換を通じて、北海道の家づくりの未来を考える場が設けられました。

主催:北海道の家づくりの未来を考える会※
※(株)芦野組、(株)岡本建設、(株)カイトー商会、(株)キクザワ、(株)住まいのウチイケ、大鎮キムラ建設(株)、武部建設(株)、辻木材(株)、(株)藤城建設 からなる会。(事務局:旭化成建材(株)北日本支店 札幌住建・断熱営業課)

北方型住宅ZEROとは?

最初に、今回のテーマとなっている「北方型住宅ZERO」について知っておきましょう。暖房用の消費エネルギーが全国平均の3倍以上となる北海道では、家庭部門のCO₂排出割合が高いため、脱炭素化に向けては住宅分野の取り組みが課題となっています。一方、広い北海道ではエリアによって気候条件が異なり、一律ではない各地域特性に応じた適切な対策が求められていました。

その課題を解決しながら目標を達成する仕組みとして、CO₂削減効果がより大きい「北方型住宅ZERO」が新設されました。北方型住宅ZEROは、これまでの北方型住宅2020の性能基準を満たした上で、複数の脱炭素対策から選択して一定のポイント数を満たす住宅で、地域特性やユーザーの希望に合わせて、脱炭素対策を柔軟に選択できるよう組み立てられています。

北方型住宅2020では、省エネ基準比で、年間約1トンのCO₂削減効果が見込まれていましたが、「北方型住宅ZERO」では、10ポイント以上の脱炭素対策を施すことで、倍の年間約2トンのCO₂削減効果を目指しています。

脱炭素化の対策の例

さらなる断熱性能の強化
外皮平均熱貫流率UA値を0.20~0.28以下に強化3pt~5pt
地域資源の活用
主たる構造材に道産木材を活用2pt
再生可能エネルギーの活用
太陽光発電設備の設置3pt~6pt
蓄電池設備の設置5pt
木質バイオマスの利用1pt

今回の意見交換会には、道内各地で活躍する9社の地域工務店が集まりました。実際どれくらい「北方型住宅ZERO」が認知・理解されているかから始まり、脱炭素対策の項目についての意見・不明点、各市町村との協働についてなど、家づくりの現場で感じる実情や課題を、北海道建設部と率直に話し合いました。ここではその一部を各社のコメントでご紹介します。

各工務店から見た「北方型住宅ZERO」の印象と課題

芦野組
 
旭川を中心に、機能・デザイン・性能の3要素に加え、自然素材の力を最大限に活用した、環境と人に優しい住まいづくりを心がけています。昨今は、建築設備のコストアップやエネルギー源の価格高騰、住まいの脱炭素化に対応できるよう、薪ストーブを主暖房に用いた家づくりに取り組んでいます。これまでに培ってきた確かな住宅性能と薪ストーブの採用実績を背景に、化石燃料に依存しすぎない住まいを提案しています。

北方型住宅ZEROの脱炭素対策は取り組みやすい部分が多くある一方、太陽光のポイントが高く、当社がつくるような薪ストーブの家は不利な部分もある、というのが正直な意見です。旭川は地域柄、太陽光発電に不向きでもありますので、薪ストーブの家に対しての採点をより柔軟に考えていただきたいと思っています。

(株)芦野組 常務取締役 芦野 優作さん
(株)岡本建設 取締役常務 高橋 隼人さん
岡本建設
 
「地球に優しい住まいを考えよう」をモットーに、十勝エリアで次世代にフィットする一歩先の住まいを提案しています。2016年よりZEHビルダー登録を行い5ヵ年計画をクリアしたことで創エネ提案の手ごたえを感じており、お客様には、安全・性能・創エネ一つひとつを丁寧に説明することを大切に考えています。

北方型住宅は、一般ユーザーの認知度が低いのが気がかりです。当社では、お客様に北方型住宅をはじめとした省エネ基準などの説明を必ず行っています。きちんと分かりやすく説明することは、お客様の安心感につながり、会社の信頼向上にもつながります。地域特性がある中で、ZEHや北方型住宅ZEROの取り組みで、どこまで底上げができるかが今後のカギになってくるのではないでしょうか。

カイトー商会
 
ルーツは、住宅の設備や施工、太陽光発電システムなどを行う街の設備屋です。8年ほど前から新築住宅をはじめ、現在は釧路(本社)と札幌の2拠点で事業を展開しています。平均UA値0.23以下、C値0.3以下の高い住宅性能+太陽光発電システムで、ZEH率100%を4年連続で実現しています。北海道の住宅にはまだ燃焼機器がたくさんあるので、脱炭素の課題には非燃焼機器への転換もあると考えております。

北方型住宅ZEROに関しては、いきなり過度な仕様変更が必要なものではなく、今までやってきたことに、プラスαでできることを足していく形という点がいいと思います。今回みたいに現場からの意見などもスピード感よく反映されていけば、より普及がスムーズになるかと考えます。

(株)カイトー商会 取締役部長 米本 晋太朗さん
(株)カイトー商会 取締役部長 米本 晋太朗さん
(株)キクザワ 専務取締役 菊澤 章太郎さん
(株)キクザワ 専務取締役 菊澤 章太郎さん
キクザワ
 
恵庭を拠点に、住宅性能×デザインともにご満足いただけるオンリーワンの家を提供しています。確かな技術と知識を持つ自社大工により、高断熱・高気密住宅を実現。当社の住宅は、全棟長期優良住宅&北方型住宅2020の基準を満たした住宅です。ZEH率(NearlyZEH含む)は7割超で、太陽光の工事を自社で行うことで、お客様へのコスト負担を減らしています。

当社の取り組みと北方型住宅ZEROは合致する部分が多く、大きな課題はないと思っています。より高い住宅性能や薪ストーブなど、お客様の好みに合わせて選べる選択肢が多様化できるのがいいですね。10ポイント以上でZEROになるということですが、さらに上のレベルがあったらいいのでは、と思いました。

住まいのウチイケ
 
当社は、室蘭、苫小牧、伊達に拠点を持つ工務店です。断熱等級7をベースにエアコン1台全館暖冷房システムを採用した高性能住宅に、お客様のこだわりをプラスした世界に一つしかない住まいづくりを進めています。

北方型住宅ZEROの取り組みはZEHとも通ずる部分が多く、会社としてはそれほど難しくないと思います。ただ当社では発電よりは断熱のほうをより重視しておりまして、現状では太陽光発電は消費エネルギーをカバーできるくらいに留めていますので、今後のやり方は考える必要があるかなと感じました。そしてやっぱり一般のお客様が北方型住宅についてあまり知らないので、その認知度アップは大きな課題かと思います。

(株)住まいのウチイケ 商品開発企画室 室長 成田 智昭さん
(株)住まいのウチイケ 商品開発企画室 室長 成田 智昭さん
大鎮キムラ建設(株) 代表取締役 木村 匡紀さん
大鎮キムラ建設(株) 代表取締役 木村 匡紀さん
大鎮キムラ建設
 
苫小牧エリアで「住まう人がずっと笑顔でいられる家づくり」をテーマに、デザイン×コスト×性能のベストバランスを考えた家づくりの提案をしています。本格的に住宅性能を追求しはじめたのは11年程前からですね。正直な話、お客様から北方型住宅について聞かれたことはありませんが、ZEROの内容はとても時代の流れに合致していると思いますし、その面では今後、お客様に話しやすいと思っています。

ちなみに今のお客様は、光熱費そのものよりはエネルギー消費量の減少のほうを気にされる傾向にあります。何せ、光熱費がこれまでにないくらい高騰し、単価もコロコロ変わるようになったので、金額だけじゃなかなか比較できなくなったからです。北方型住宅ZEROで建てることで、確実に省エネになる、環境保護に役立つ、という点がしっかりアピールできれば、十分魅力を感じられるのではないでしょうか。

武部建設
 
岩見沢と三笠に拠点を持ち、北海道の気候風土に根ざした高性能な家づくりを行っています。古民家再生事業も多く手がけており、それを実現できる高い技量を持つ自社大工がいます。古材のストックを新築などにも活用しています。

一般ユーザーにも分かりやすいポイント制というのが、北方型住宅ZEROのいいところだと思います。当社も長年の実績から高断熱・高気密施工のノウハウの蓄積があり、省エネルギーで暖かい空間の実現という面では取り組みやすいですが、薪ストーブの家が多いので高得点になってくれるとありがたい、というのは正直な感想です。工務店にはさまざまなタイプがあり、どの会社もやりやすくなれば、より高次元的な達成が可能になると思います。

武部建設(株) 常務取締役 武部 豊孝さん
辻木材(株) 代表取締役 辻 将大さん
辻木材
 
当社は道南の北斗市所在の住宅会社として、以前はローコスト住宅がメインでした。それを10数年前から徐々に高性能化させていき、今は断熱・気密・耐震性能、保証など、建ててみないと分からない部分を標準仕様化し、お客様へのお約束とさせていただいております。家中快適を実現する最適性能とトータルコストの実現も大切に考えています。

北方型住宅については、お客様のほうから「北方型住宅で建ててください」と言われるようになるのが最も大事でしょう。地方は今、人口減少が激しく、それを食い止められる手段はやっぱり住宅ですので、しっかりした住まい=北方型住宅、という認識ができるとベストかと思います。そして今後、もし補助金などがあるのであれば、常時で申請も簡単なものだと、工務店からするとさらに取り組みやすくなると思いました。

藤城建設
 
「未来の子どもたちに良い環境を残す仕事」を理念に、札幌の地域工務店として年間100棟前後の住宅を中心に建設しています。エンドユーザーに分かりやすく入口を設けて、暖かく快適で、性能よりも燃費にフォーカスした考え方で統一した取り組みを行っています。そして壁面太陽光発電について、デザイン性が高く、施工性や少しでもコストをかけない方法を実証実験で試しながら、最適解をお客様へ提供する体制を整えています。

脱炭素は手段であって、そもそもの目的は住まい手の幸せです。北方型住宅ZEROも同じ。私たちつくり手はこれを忘れてはいけないと思います。設備投資は最小限に抑え、太陽光発電もちょこっと載せれば十分な高断熱住宅の追求が大事。さらにはデザインもいい、いわゆるイケてる住宅を平均所得の人も建てられるようにコストの努力を惜しまないべきです。

(株)藤城建設 企画開発部 部長 川内玄太さん
(株)藤城建設 企画開発部 部長 川内 玄太さん

「北方型住宅ZERO」の脱炭素対策の項目について

芦野組
 
構造材に道産木材を使用するというところですが、木材の使用量が多い在来工法はハードルが高いように感じます。価格的な面でもお客様に勧めやすくならないと、という課題がありますね。そして再生可能エネルギーについては、たとえば洋上風力システムに一定金額を払う、といった形でも同等のポイントが得られると、より幅が広がるのではないでしょうか。
藤城建設
 
北方型住宅ZEROでは、壁面太陽光発電が重要なポジションになっていますよね。当社は壁面太陽光発電を多く採用しておりますが、それは札幌だからです。一律に壁面太陽光発電なのではなく、各地域の特性を反映した形をそれぞれに模索すべきでしょう。北方型という名前のように、北国らしさが生きるといいですね。

「北方型住宅ZERO」の認知と普及のためには

カイトー商会
 
ユーザーへの認知は、工務店側のメリットと通ずる部分がありますので、工務店へのインセンティブ的な施策があると、取り組む会社が増えると思います。そして、脱炭素や断熱性能に対する理解において、工務店は明らかにレベルの差がありますので、段階を踏んだ啓蒙活動が必要かと思います。
キクザワ
 
やっぱり一般ユーザーには、補助金が最も効果的でしょう。ただ根本的な話をしますと、住教育にしっかりフォーカスを当てることで意識付けできるのではないかと思っています。たとえば出前授業で家づくりや環境のことについて教えるとか。いわゆる産学官の連携ですね。
藤城建設
 
そうですね。やっぱり子どものときに印象深かったものって、大人になってからも忘れられないですしね。そして第一印象でポジティブなイメージを持ってもらうのも大切ですので、性能だけでなく、かっこよさ、おしゃれさも追求していくべきだと思います。
岡本建設
 
インセンティブはもちろんいいですが、北方型住宅の取り組みを実践したくなる動機付けも重要だと考えています。取り組むに当たって役立ついい情報を、北海道を通して提供いただけるととても有効だと思います。

このほか、各市町村との情報交換や協働について、そしてZEHや高性能住宅の推進に当たり、それぞれの工務店が心がけているポイントや重視している取り組み、ネックになっている事柄など、北国で快適に暮らすための高断熱・高気密住宅にこだわる各社のリアルな「今」の共有から、その相乗効果にも期待を持たせてくれました。

北海道では今後、みどり野きた住まいるヴィレッジでおなじみの南幌町で、「北方型住宅ZERO」のモデル団地を計画中です。北海道にふさわしい豊かな暮らしの実現と、未来の子どもたちにより良い環境を引き継ぐためにも、「北方型住宅ZERO」の普及に期待を寄せます。

南幌町におけるゼロ・カーボンモデル団地のイメージ
南幌町におけるゼロ・カーボンモデル団地のイメージ


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