新築・リノベーションどちらであっても、「選ぶ」のが楽しくて「決める」のが難しい住まいの色と素材。自分らしさや好みを反映でき、唯一無二の家づくりに近づく要素ながら、選択肢が多いだけに何を基準にして決めていけば良いか悩む人も多いでしょう。

色と素材は別々の要素のように見えますが、素材によっては使いたい色が採用できなかったり、好きな色を生かすために周囲の素材とのバランスを考慮する必要があったり、素材の色を生かすことで結果的に色選びにつながっていたりと、色と素材は相互に大きく影響し合います。

今回はリノベーションの事例を通じて、「色」と「素材」の選び方について学んでみましょう。まずは北海道の住宅4軒です。


Case.01 戸建て × 白 × ビンテージ

1人目のお子さんの誕生を機に、空き家になっていた築18年の実家をリノベーションしたMさん。既存の基礎と構造をできる限り生かしながら、大きな窓と吹き抜けが象徴的なプランの高断熱・高気密住宅を完成させました。

外観は黒のガルバリウム鋼板を用いてガラッと印象を変えつつも、御影石のアプローチ階段と外構は、旧居の思い出としてそのまま残しました。旧居の構造材に塗装を行った白を基調とした室内は、明るいナラの無垢フローリングが落ち着いた雰囲気を演出。その空間を、要所要所に配されたダークブラウンの針葉樹合板が引き締めます。

赤い壁とモザイクタイルの床が印象的なトイレは、照明・鏡・手洗いボウルに至るまで、奥さんのこだわりがたくさん。特注したクラシカルなデザインのドアや真鍮製のトグルスイッチなど、ビンテージ感のあるパーツやインテリアも目を引く住まいとなっています。

白く塗装した旧居の構造材が、新しい住空間にしっくりとなじむ
白く塗装した旧居の構造材が、新しい住空間にしっくりとなじむ
Mさんご夫妻のイメージを建築家・髙橋さんがデザインに起こし、建具屋さんに伝えて製作したドア
Mさんご夫妻のイメージを建築家・髙橋さんがデザインに起こし、建具屋さんに伝えて製作したドア
トイレは、奥さんが大好きなフランス映画「アメリ」のイメージを具現化
トイレは、奥さんが大好きなフランス映画「アメリ」のイメージを具現化

■江別市・Mさん宅  ■設計 髙橋佑介建築デザイン
<Replan北海道 vol.124掲載>

Case.02 マンション × 道産木材 × 土壁

大学時代も仕事でも一貫して北海道の森に関わってきたHさん。札幌への転勤を機に「子どもたちに自分の家で育った記憶を残したい」と、マイホームの取得を決意しました。購入した築46年のビンテージマンションは、見事に北海道の木が生きる姿に生まれ変わりました。 

ひとつながりのLDKは、床材、ダイニングセット、壁付け収納のカウンター、対面キッチンのカウンターとすべて異なる道産材を用いながらも、樹種の組み合わせや木目の出し方の工夫によって全体が調和し、心地よい空間となっています。書斎、子どもスペース、寝室の隣り合う3部屋の土壁は、それぞれ産地が異なる道内の土で塗り分けました。

自然素材と手仕事が生み出すハーモニーが心地よいHさん宅は、マンションの一室とは思えない端正さと上質感に包まれていました。

左官仕上げの壁・天井と、巧みにコーディネートされた多様な道産材の素材感が相まっている
左官仕上げの壁・天井と、巧みにコーディネートされた多様な道産材の素材感が相まっている
土壌の性質が表出した土壁の自然な色合いが、日常の居場所を静かに彩る
土壌の性質が表出した土壁の自然な色合いが、日常の居場所を静かに彩る
エゾマツ小幅板張りの壁が存在感を放つ玄関ホール。靴箱の天板にはシラカバの無垢板を採用した
エゾマツ小幅板張りの壁が存在感を放つ玄関ホール。靴箱の天板にはシラカバの無垢板を採用した

■札幌市・Hさん宅  ■設計 HOUSE&HOUSE一級建築士事務所
<Replan北海道 vol.134掲載>

Case.03 戸建て × ポリカ × 現し

富良野市で農業を営むSさんは、結婚を機に、築45年の実家をリノベーションしました。半屋外空間を共有する上下分離型の2世帯住宅に一新。親子が互いの気配を感じながらも、のびのびと暮らせる住まいとなりました。

何より見どころなのは、建物の南西面に増築された半屋外空間。風除室、テラス、アクセス空間、農家玄関を兼ねる多目的空間です。外壁に採用したのはポリカーボネートで、軽やかな意匠性を備えたうえ、厳冬期でも良く晴れた日には、陽射しの効果で室温は20℃前後に保たれるそうです。室内は、以前の増改築の際に用いられた白い材、45年の歳月を刻んだ黒い材のコントラストが、住まいの歴史を静かに物語ります。

半屋外空間のポリカーボネートと黒色ガルバリウム鋼板のコントラストも目を引くSさん宅。二世帯の暮らしを優しく包み続ける、田園に立つ陽だまりの住まいです。

北海道ならではの異形屋根のフォルムと素材や意匠性の組み合わせに、過去と現在の融合が感じられる
北海道ならではの異形屋根のフォルムと素材や意匠性の組み合わせに、過去と現在の融合が感じられる
緻密な構造計算をもとに建物の南西面に増築された半屋外空間。テラスは、気候がいいとまるでカフェのように心地よい
緻密な構造計算をもとに建物の南西面に増築された半屋外空間。テラスは、気候がいいとまるでカフェのように心地よい
明るいダイニング・キッチンは構造現しで、屋根なりの高い天井が一層の開放感を与える
明るいダイニング・キッチンは構造現しで、屋根なりの高い天井が一層の開放感を与える

■富良野市・Sさん宅  ■設計 髙木貴間建築設計事務所
<Replan北海道 vol.126掲載>

Case.04 戸建て × 素地 × アクセント

3年間住んだ築43年の賃貸住宅を買い取った建築家の河村直記さん・麗子さんご夫妻。新築のようにキレイに生まれ変わらせるのではなく、古い部分を尊重して上手に活かし、暮らしの痕跡を見せるのがリノベーションの意義という考えのもと、自邸兼アトリエをつくり上げました。

外壁は既存のモルタルから道南スギに変えて、ナチュラルなイメージを一新。モデルルームにもなるため、室内はキッチンや洗面スペースのモザイクタイルや、石の炉台・炉壁に置かれた薪ストーブ、アクセントクロスなど、クライアントの参考になりそうな要素を意識的に盛り込んでいます。

あえてつくり込まず、生活の中で動線や各所の使い勝手を確かめ、必要な場所に造作収納を新設。タイル壁や塗り壁も、部分的に自分たちの手で仕上げました。ゆっくり空間を育てることで、建物への愛着が深まる気がすると語る河村さんです。

意匠性のみならず、屋根まわりは断熱・気密・防水工事を施し、住宅性能を向上させた
意匠性のみならず、屋根まわりは断熱・気密・防水工事を施し、住宅性能を向上させた
リビング・ダイニングの床にはモールテックスを採用
リビング・ダイニングの床にはモールテックスを採用
色の違いがある葉っぱ柄のモザイクタイルの壁が印象的な雰囲気を演出
色の違いがある葉っぱ柄のモザイクタイルの壁が印象的な雰囲気を演出

 

■札幌市・河村さん宅  ■設計 Cozy Space Boosters一級建築士事務所
<Replan北海道 vol.125掲載>

12月28日(水)発売の最新号「Replan北海道vol.139」では、色と素材の選び方がとても上手な住まいの事例や、色と素材の基本を紹介しています。好みがはっきり分かれる色と素材。あなただけの正解を見つけてみてください。

(文/Replan編集部)

Replan北海道 vol.139
2022年12月28日(水)発売

北海道内の主な書店やコンビニのほか、
Replanの販売ページamazonfujisan
オンラインでもご購入いただけます。