今回は、創業140余年、木に魅せられ、木を知り尽くし、手刻みで加工を行う福島県二本松市の「斉藤工匠店」を訪ねました。創業時からの伝統を受け継ぎつつも、新しい挑戦にも積極果敢に取り組む同社。その根底には、「ただただお客様に喜んでもらえる家をつくりたい」という真っすぐな想いがありました。


手刻みの家の「価値」を地域の人に伝えたい

福島県二本松市針道。かつて養蚕で栄えた趣あるこの街に、140年以上の歴史を誇る工務店「斉藤工匠店」はあります。現在は四代目の齋藤守司社長が主にリフォームを、息子で五代目の齋藤守平専務が新築注文住宅を中心に担当しています。

手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る

同社の特徴は、先代からの技術を受け継ぎ、「手刻み」の家づくりを行っていること。手刻みとは、大工職人が木材に墨で印を付け、ノコギリ、カンナ、ノミなどを駆使して加工していく昔ながらの技法です。手刻みの家づくりは材木の選択の自由度が高く、木のクセに合わせて適材適所に使用できるのが魅力。ほかにも、複雑な仕口や継ぎ手などを自由に加工できて表現の幅が広がる、金物頼りにならない強い躯体を実現できる、太鼓梁などで古材の使用が叶うなど、メリットが豊富です。「木は呼吸しているので、木の家は人が健康的に住まえる家。手刻みの家の温かみや清々しさなどに価値を感じてくれるお客様のために、安心・安全で健康的な住まいを提供したいと思っています」と守司さん。守平さんも「経年変化に強く、丈夫な手刻みの家。構造にこだわる人にはおすすめです」と語ります。

手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る
手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る

人材育成にも力を注ぐ同社。現在は20歳から65歳まで6名の社員が在籍し、年輩社員が若手社員に匠の技を伝えています。「ハウスメーカーではなかなか習得できない手刻みの技ですが、うちにいれば自然と身に着けることができます。どこへ出しても恥ずかしくない一流の大工職人を育てることは、日本の建築業界、ひいては社会全体に役立つことだと信じています」と、力強く話す守平さん。「斉藤工匠店」は日本古来の伝統家屋を伝承し、発展させていくため、確かな技術を持つ職人の育成を通じて地域貢献、社会貢献に努めています。

手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る

手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る
手刻みの丁寧な家づくりに賛同する若者が複数在籍する同社。確かな技術を持つ社員大工へ育成するため、指導にも熱が入る

一人の人間がすべてを請け負う「責任感」

「斉藤工匠店」が手がける新築住宅は年間1~2棟。「機動力と対応力を武器に、じっくり時間をかけ、お客様に寄り添いながら、一緒につくり上げることをモットーとしています。その姿勢こそ地域工務店のあるべき姿だと思っています」。そう話す守平さんは、建築系の学部を卒業後、東京の建設会社で現場管理、設計事務所で設計や構造計算などを経験。今から14年前、28歳のときに実家の「斉藤工匠店」に戻り、一から大工修業に取り組みました。一級建築士の資格を持つ守平さんは現在、新築・リノベーション・増改築物件の営業、受注、打ち合わせ、積算、意匠設計、構造設計、確認申請、現場管理、施工、アフターサービスまで一貫して担当しています。「お客様視点で考えると、住宅という一つの商品に対して、責任を持つのは一人の人間でなくてはならないと思うんです」と守平さん。一つの窓口ですべてを任せられる安心感が、建て主に支持されている理由でもあります。

寄せ棟の二段屋根とポーチ部分の石張りが高級感を感じさせる和モダンな平屋住宅。平屋でありながら明るく開放感を演出する吹き抜け、深い軒を利用しくつろぐことのできるテラスなど、空間設計と手刻みに技が光る

寄せ棟の二段屋根とポーチ部分の石張りが高級感を感じさせる和モダンな平屋住宅。平屋でありながら明るく開放感を演出する吹き抜け、深い軒を利用しくつろぐことのできるテラスなど、空間設計と手刻みに技が光る
寄せ棟の二段屋根とポーチ部分の石張りが高級感を感じさせる和モダンな平屋住宅。平屋でありながら明るく開放感を演出する吹き抜け、深い軒を利用しくつろぐことのできるテラスなど、空間設計と手刻みに技が光る

守平さんが設計事務所勤務で培った経験を、手刻みの在来軸組工法に反映させてつくる「斉藤工匠店」の住まいは、昔ながらの和風建築からモダンな洋風建築までデザインも幅広いのが魅力です。打ち合わせ時には3次元CADやVRシステムといった最新ソフトを駆使しているのも特徴。細部まで3Dで見せ、VRで体感してもらうことで、建て主のイメージどおりの家づくりを実現しています。さらに、構造計算も性能表示計算よりも複雑な許容応力度計算を用い、構造材1本1本に至るまで全部材にかかる力を算出しているため、建物の強度もきちんと担保されています。「お客様目線に立って、良いと思うものは何でも取り入れています」。守平さんはそう胸を張ります。

建物の中心に家族が集うキッチンを配置した「中庭のある平屋」。中庭から室内へ光が行き渡り、カフェ風の設いも生きる空間設計。長期優良住宅の認定を受けた、耐震性、省エネ性においても高い水準の住まい
建物の中心に家族が集うキッチンを配置した「中庭のある平屋」。中庭から室内へ光が行き渡り、カフェ風の設いも生きる空間設計。長期優良住宅の認定を受けた、耐震性、省エネ性においても高い水準の住まい
建物の中心に家族が集うキッチンを配置した「中庭のある平屋」。中庭から室内へ光が行き渡り、カフェ風の設いも生きる空間設計。長期優良住宅の認定を受けた、耐震性、省エネ性においても高い水準の住まい
建物の中心に家族が集うキッチンを配置した「中庭のある平屋」。中庭から室内へ光が行き渡り、カフェ風の設いも生きる空間設計。長期優良住宅の認定を受けた、耐震性、省エネ性においても高い水準の住まい

技術と経験に裏打ちされた、新たなる挑戦

伝統の技を大切にしつつ、日々、新しい情報や技術を取り入れ、真摯に研鑽を積む「斉藤工匠店」。同社ではこのほど、木造3階建て住宅に初めて取り組みました。それがこちらのEさん宅。1階は美容室、2階と3階が居住スペースという店舗併用住宅です。「3階建てということで鉄骨やRC造も頭をよぎりましたが、うちの良さを出すにはやはり木造だろうと。手刻みの技はもちろんのこと、3階建て以上の建築物には許容応力度計算が義務付けられていることもあり、今までの経験をすべて注ぎ込むことができました」と、守平さんは語ります。

Eさんの長年の夢が詰まった美容室『guri』。国道13号という福島市内の大動脈から少し入った閑静な住宅街に立つ隠れ家的サロンで、JHA(ジャパン・ヘアドレッシング・アワード)のサロンチームにもノミネートされた
Eさんの長年の夢が詰まった美容室『guri』。国道13号という福島市内の大動脈から少し入った閑静な住宅街に立つ隠れ家的サロンで、JHA(ジャパン・ヘアドレッシング・アワード)のサロンチームにもノミネートされた
Eさんの長年の夢が詰まった美容室『guri』。国道13号という福島市内の大動脈から少し入った閑静な住宅街に立つ隠れ家的サロンで、JHA(ジャパン・ヘアドレッシング・アワード)のサロンチームにもノミネートされた

高い建物がない周辺環境との調和を考慮し、階高を抑えて設計されたEさん宅は、黒枠でグリッド線を引いたような連続窓がシンボルに。1階の美容室は土間コンクリート床の武骨さと柱や梁のナチュラルな質感が相まって、訪れた人がリラックスできる空間となっています。「階高を抑えたことでむき出しとなった梁をライティングレールとして活用するなど、合理的で機能的な建物を目指しました」。

白を基調とした空間に柱や梁が映える。店舗正面に当たる北側は吹き抜けになっており、ダイナミックな窓の風景を店内からも楽しめる。シンボルでもある連続窓は、換気の役割も果たす
白を基調とした空間に柱や梁が映える。店舗正面に当たる北側は吹き抜けになっており、ダイナミックな窓の風景を店内からも楽しめる。シンボルでもある連続窓は、換気の役割も果たす
白を基調とした空間に柱や梁が映える。店舗正面に当たる北側は吹き抜けになっており、ダイナミックな窓の風景を店内からも楽しめる。シンボルでもある連続窓は、換気の役割も果たす

美容師と利用客として10数年の付き合いになるというEさんと守平さん。Eさんは「守平さんにお願いしたのは、誠実な人柄を知っていたから。私の想いや理想を形にしようと奔走してくれました。打ち合わせにも長い時間をかけていただき、一緒に建てているという意識が強かったですね」と振り返ります。

北側の連続窓から射し込む光は強すぎず、やわらかで安定しているため、施術者も利用客も疲れにくい。利用客が主役になれる、癒やしあふれる空間だ
北側の連続窓から射し込む光は強すぎず、やわらかで安定しているため、施術者も利用客も疲れにくい。利用客が主役になれる、癒やしあふれる空間だ

ウッドショックや資材不足のあおりを受け、思うように進まないこともあったという今回の挑戦でしたが、「やり遂げたことで大いに自信になりました」と話す守平さん。「これからもお客様と真摯に向き合い、努力し、喜ばれる家をつくっていきたいです」と締めくくってくれました。


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都市部の土地不足やミニマルな暮らしへの欲求の高まりなどを受けて、コンパクトな家の需要も増えています。一方で、コンパクトというと「小さい」「狭い」「窮屈」というマイナスイメージを持つ人も多くいるのではないでしょうか。

そこで今回は、延床面積がそれぞれ29坪、29坪、26坪という「コンパクト」なお宅を訪問。コンパクトな家は狭いのか、空間が小さいことにはどんなメリット・デメリットがあるのか、充実したコンパクト空間にするためのコツは何なのか、その実態を探ってきました。

プロが語るコンパクトな住まいを豊かにする空間の工夫と、いま大切にしたいことにも注目です。

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