価値観を共有できる
最良のパートナーとの協業
南幌町市街地に隣接する「南幌ニュータウンみどり野」を舞台に2017年からスタートした「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」プロジェクト。道と南幌町、北海道住宅供給公社、武部建設とアトリエmomoを含む6組の地域工務店、建築家が協働し、南幌町ならではの暮らし方を提案するまちづくりに取り組みました。2018年のモデルハウス展示場オープンから2年半の歳月を経て、分譲と注文住宅の建築が進み、12棟の住まいが完成しています。
その一角に武部建設とアトリエmomoが協働し、完成させた“てまひまくらし”の家があります。“てまひま”を惜しまずに、四季の暮らしを楽しむ提案を詰め込んだ小さな木の家は、田園暮らしを志す住まい手の共感を呼び、さらに3棟の家が新たに誕生しました。
それぞれ地域工務店と建築家として活躍してきた両社が、価値観を共有しながらお互いの得意分野を持ち寄り進めたことがこのプロジェクトのポイント。武部建設の武部豊樹社長は「私は以前から設計と施工は水平関係であるべきだと思っていました。自社大工を抱えているので、当たり前に設計から施工まで社内で完結させてきました。ところが南幌町のプロジェクトは、建築家と組むことが大前提。旧知の間柄だった櫻井さんだったから、初めての試みを成功させることができました。」と語ります。
暮らしと歳月
空間をより良く磨く
道産カラマツ材を主材料に、古材や道産のナラ、タモ、マカバ、カツラなどを適材適所に用い、木の温もりいっぱいに仕上げた“てまひまくらし”の家。延床約30坪と空間をコンパクトに抑えながら、カラマツをはじめとする道産木材のほか、アイアンやタイルなどの上質な素材をふんだんに採用しています。「住まいの豊かさは広さよりも、空間の質」という、ヴィレッジの理念でもある「クオリティーファースト」も実現。オーナーとなった4組のご家族も、道産材を生かした木質感あふれる空間に惹かれて、新居の購入、建築を決めたといいます。
「カラマツ材に代表される自然素材は、初々しい表情が日々暮らすうちに美しく味わいを増して、愛おしささえ感じるようになります。愛着を生む住まいは必ず長く住んでもらえ、結果、環境にも優しい家づくりにつながるのだと思っています」と、アトリエmomoの櫻井さんは話します。また、道産カラマツ材を現しで用いることで、武部建設ならではの熟練の大工による手技と白木からどんどん赤みを増す特有の経年美化も楽しめると考えたといいます。予算の都合で木製サッシの採用が叶わなかったときには、樹脂サッシに木枠を設えるという現場での手間も惜しみませんでした。
「住み始めて約3年を経て、木肌の色が濃くなってきて、子どもと犬がつけた傷跡さえも味わいになってきました。木の良さを改めて実感しました」と、1棟目のモデルハウスを購入したKIさんは嬉しそうに話してくれました。
大工の技術が見える
木組みの住まい
頭上に力強い道産カラマツの木組みが見える“てまひまくらし”の家。無駄をそぎ落とした洗練された美しさに、温かさと懐かしさを併せ持つ空間づくりの秘密は「構造即意匠」といわれる伝統的な大工仕事にあります。「現場で大工さんが選び抜かれた材に丁寧な仕事を施していた姿が印象的でした。木や手仕事にこだわった家づくりを選んで良かったと心から思いました」と、ヴィレッジに住むKBさんは建築時を振り返ります。
“てまひまくらし”の家は、古民家再生で培った経験と技を生かし、1棟1棟、自社大工が手づくりしています。現場では熟練した棟梁が、次世代を担う若い大工に蓄えた経験と技術を伝えながら、作業にあたっています。「木造の住まいづくりは、部材の選定から加工、組み立てまで大工が関わります。求められる技術やさまざまな状況に対応できるよう、大工も日々努力を続けなければなりませんし、会社としても良い仕事ができる体制づくりに取り組み続けています。結果として、その技術が力強く美しい木組みに表れていることが理想です」と、武部社長は語ります。
大工の優れた施工技術と経験は、性能面にも発揮。ヴィレッジ内の4棟の住まいは「北方型住宅2020」の高い基準をクリアする性能を実現しています。また、今回の4棟には、高性能住宅における省エネ暖房機器としても貴重な役割を果たす薪ストーブが設置されています。道産材を構造材に使った大工の手仕事と薪ストーブの組み合わせは武部建設の特徴のひとつ。厳しい冬も快適に過ごせる”てまひまくらし”の家は、武部建設の技術力が下支えしているともいえます。
家族の日々に寄り添う
動線と空間の可変性
「美しく、使いやすく、住みよい長持ちの住まい」というテーマをカタチにした“てまひまくらし”の家。使いやすさと住みよさを実現するため、設計プランでは動線計画にもこだわりました。ヴィレッジの4棟のご家族は、忙しい子育て世代。慌ただしい毎日のなかでも、暮らしの楽しみに“てまひま”をかけられるよう、家事動線の効率化を図りました。例えば、洗濯と片付けが1ヵ所で完結するようLDKと回遊動線でつながるユーティリティに洗濯室と物干し、クローゼットを併設。動線となる通路に収納や手洗い場などを設け、限られた空間を無駄なく使う工夫も随所に施されています。「動線の効率化は子育て世代に限らず、どの世代にとっても住まいの使いやすさ、住み心地にも直結します。住む人にとって何が大切か、求めるものや求めることは違うので、プラン時のコミュニケーションを大切にしたいと考えています」と櫻井さん。
また、家族の成長とともに変化する暮らし方に合わせて、間仕切り壁は増設や取り外しが容易にできるように設えてあります。子育てのため2階のオープンスペースを入居前に3部屋に分割したKIさん宅は、子どもの独立後はまたオープンスペースに戻して、趣味的空間に活用する予定だそう。
使いやすく、長く住み続けられる家で在り続けるために、“てまひまくらし”の家はこれからも家族の成長、年代によって変わる暮らしやすさにしなやかに寄り添い続けるでしょう。